健康な体づくり

糀(麹)と発酵食品に夢中!

甘酒や塩麹など、発酵食品が見直されています。こどもの頃に見た母の糀づくりを思い出しながら、病気の母に甘酒をつくったのがきっかけで発酵食品に興味を持ち、黒にんにくもつくりはじめたという佐藤淳子(さとうあつこ)さんに、健康と食についての話を伺いました。

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佐藤淳子さん

母の体調を思い、糀菌から甘酒をつくる

「実家の80代の母が病気になり、食事がのどを通らないという話を聞いて、自分にできることはないかと調べたんです。すべては、それがはじまりです」

佐藤淳子さん(62歳)は、インターネットで情報を集め、図書館でも調べて、友人の漢方医からもいろいろ話を聞いて、ようやくたどり着いたのが「甘酒が良い」という結論でした。

「甘酒は、江戸時代、夏に流行る疫病を防ぐためのサプリメントだった」
この情報にヒントを得た淳子さんは、実家(山梨)でつくったお米を使って、母親がしていた糀づくりからの甘酒づくりに挑戦。
「食事の代わりに甘酒を飲んだ母の体調は、みるみる良くなっていった」のだそうです。

甘酒に豆乳を混ぜてもおいしい

淳子さんの甘酒のつくり方は、やわらかく炊いたご飯に、手作りの糀を混ぜて、温度調節のできるヨーグルトメーカーを60℃に設定し、約10時間。ほかにも、温度に注意しながら、電気炊飯器の保温機能を利用する方法もあるそうです。

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手作りの甘酒

つくった甘酒を持って、2週間に1度、東京から山梨の実家に通っているうちに「母がすごく元気になっていって驚きました。火を入れていないのですが、夏でも1週間くらいは保存していました」。

甘酒に豆乳をミックスしたり、黒米(古代米)を少し加えてアレンジすることで、味にも変化が出て喜ばれたそうです。

江戸時代の庶民の知恵「甘酒」

甘酒は、アミノ酸やビタミンなどを多く含むため、「飲む点滴」「飲む美容液」といわれて、いま、注目されています。

江戸の町の甘酒売りは夏の風物詩で、栄養や水分を補うための、温められていない甘酒が売られていました。当時の甘酒は、酒粕からつくったものではなく、米糀でつくったものでした。

江戸の総鎮守だった神田明神の鳥居脇にある、天野屋(1846年創業)の甘酒は、地下6mの天然の土室(むろ)で糀をつくっているそうです。

穀物に麹(糀)菌をつけて培養したものが「麹(糀)」です。

糀という字は、米に花が咲いたように見える菌を指して、日本でつくられた文字で、おもに米糀に使われていたようですが、現在では、麹と表記されることが多くなりました。

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淳子さん手作りの米糀

塩麹、しょう油麹は、野菜の甘みもひきだす

料理の調味料や、ソースづくりなどにうま味を添える、塩麹、しょう油麹、味噌麹などが注目されて、いまでは料理に欠かせないものになっています。塩麹も発酵食品です。

淳子さんの塩麹のつくり方を聞いてみました。
「わたしのつくり方は、大きめのプラスティックの保存容器に米麹200gと天然塩を60gをよく混ぜ、ひたひたになるくらいの水を入れて、1日1回程度、混ぜ合わせます。夏は5日、冬は1週間~14日くらいで塩麹ができます。また、麹にしょう油を加えると『しょう油麹』ができます」

サーモンの表面に塩麹を塗って、冷蔵庫で冷やし、スライスしてオリーブオイルをかけ、ハーブを添えるとおいしいカルパッチョになるそうです。

「塩麹は、野菜に使うと甘みをひきだしてくれます。かぼちゃの甘みも驚くほど増します」(淳子さん)

塩麹の中に昆布を入れたものは、昆布を取り出して出汁に使ったり、中の昆布は、つくだ煮や、おかかをかけて、料理の一品にするそうです。

こどもを育てるように麹を育てる

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塩麹も手作りで

「麹菌で麹をつくっている時は、仕事が終わって、自宅に帰るのが楽しみなんです。まるで、こどもを育てているような感じです」
そう言って、淳子さんは笑います。

適温に保って発酵を待つ。書くとただそれだけなのですが、ほんの少しの温度や環境の変化で、発酵に関わる微生物の種類や働きも変化して、出来具合いが変わるそうです。

うまくできた時には、「愛情をそそいだ分、嬉しくなります」と淳子さんは言います。

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夫の茂さんは、しょう油糀にマヨネーズを加えたものがお気に入り。淳子さんによると、「しょうゆ麹のほうが料理には使いやすいとか、新聞や本で得た情報をくれる役目」なのだそうです。

発酵と腐敗は同じ作用

発酵とは、微生物(菌など)が食材などを分解して変化させる作用のことです。

食材によって、その過程でアミノ酸、ブドウ糖、ビタミン、ミネラルや乳酸菌などが生成されて、それにともない、うま味や香りなどを増すのを利用したのが発酵食品です。

発酵と腐敗は同じ作用で、人間にとって有益な菌か、有害な菌が繁殖するかだけの違いなのです。
「使用する容器や混ぜるためのスプーンなどは煮沸して、食材にも素手では触らないようにしています」(淳子さん)

発酵食品は、発酵が進みすぎると味が落ちてしまうので、発酵を止めるために熱や塩が用いられます。また「食品衛生法」に基づき、お店の棚に並べられる時に、熱を加えて処理されているものもありますので、高温に弱い菌は働きを失って、発酵食品としての良さが損なわれているものもあるそうです。

食べられるところは捨てずにすべて利用

偶然が重なって発見された発酵食品は、冷蔵庫がなかった時代に、育てたり、とった食材を長期保存するための方法でした。

「手前味噌」ということばがあるように、日本では、自家製の味噌をつくっていた時代がありました。

佐藤淳子さん(62歳)は、こどもの頃に実家で、麹や味噌を母親がつくっていたのを見ていたそうです。
「仕事柄、普段食べる食材を中心に健康管理を考えています」
夫の胃の調子が悪い時にはキャベツで料理をつくり、ブロッコリーの芯や、ほうれんそうの茎の下の部分、レンコンや大根、山芋もヒゲの部分を焼いて皮のままで、おいしく食べられるように工夫して料理するそうです。

ヨーグルトは市販のタネを利用して培養する

日本の温暖多湿な気候と、米や大豆、野菜、魚を中心にした食生活から、酒、納豆、味噌、酢、しょう油、みりん、漬け物(ぬか漬けなど)、鰹節、塩辛、熟れ寿司など多くの発酵食品が生まれました。風土によって、世界にも様々な発酵食品があり、ヨーグルト、チーズ、パン、アンチョビ、ピクルス、メンマ、キムチ、紅茶なども発酵食品です。

「ヨーグルトは市販のLG21をタネ菌にして、発酵しやすいように適温まで温めた牛乳を加えて増やしています。牛乳は鍋で温めると、乳酸菌の苦手な酸素が増えてヨーグルトが発酵しにくくなるので、パックのまま電子レンジで温めるのがよいようです。培養の温度は40℃くらい。管理が簡単なので温度調整やタイマーの付いているヨーグルトメーカー(発酵器)を使っていますが、ヨーグルト以外にも使えて便利です」(淳子さん)

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培養したヨーグルト

調べてみたところ、含まれている菌の種類によっても、培養する温度は微妙に変わるようです。また、各メーカーのウェブサイトには、元の商品のなかに含まれる、いくつかの乳酸菌については、培養するのは難しいかもしれないというコメントも載っているようです。

興味の連鎖で、とことん追求

佐藤淳子さんは、22歳で、6つ年上の茂さんと結婚。28歳の時に、渋谷で居酒屋を開きました。

「アルバイトの男の子たちに賄いをつくっていたのですが、白菜のつけものを残す子が多くて、キムチにしてみたら、おいしいと言って食べてくれて。水キムチや、トンチミ(大根の水キムチ)もつくったら、それも評判が良かったんです」

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淳子さんは、自他ともに認める「興味を持ったことはとことん追求する性格」で、当時は、天然酵母でパンもつくっていたそうです。

「できる」と思って挑戦する

「とにかく少しもジッとしていない。手を抜かない。お店を切り盛りしながら、山梨に介護に行って、空いた時間で興味を持ったものを見つけて、いつも、なにかやっています。面倒だから市販で済ますということがなく、手間暇惜しまず、自分でできるかどうか挑戦するのが好きなようです」
夫の茂さんは、奥さんの淳子さんのことをそう言います。

現在は、夫婦で、「グリーントマト」(東京・新宿2丁目)という名前のイタリア料理店を経営しています。店の名前は、夫の茂さんが好きな映画「フライド・グリーン・トマト(Fried Green Tomatoes)」(1992年・米)から付けたものだそうです。

店内には、大きな楕円のテーブルが1つ、テーブル席が3つ、そしてカウンター席。アットホームで、少人数でのパーティもできて、1人でも気軽に訪れることができるお店です。

熟した果実のような黒にんにく

今年、「グリーントマト」はオープンから21年になります。オープン当時、18歳だった息子さん(長男)は、いまはイタリア料理店の料理長をしています。その息子さんが4~5年ほど前に体調を崩した時、淳子さんは、また調べました。

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にんにくを発酵させてつくった「黒にんにく」

「にんにくを発酵させた黒にんにくが良いと思って、さっそくつくってみました。使わなくなった炊飯器を使って、保温機能で70℃くらいにして20~30日くらい。色を確認しながら、頃合いを決めます。にんにくは、かけらに分けて、湿度をもたせるために、お水を付けます。炊飯器の底の熱い部分でにんにくが焦げてしまうのをタオルでカバーして、ときどき上下を入れ替えます」

最初のうちは、にんにく臭が強いので、高温でも大丈夫なケースに炊飯器ごと入れたほうが良いようです。

ひとかけらもらって食べてみました。にんにくと聞いていなければ、ほのかな甘みと食感から、熟した果物と思ったかもしれません。

身近な人の体調を食材で整えることを常に考えて

長男のためにつくった黒にんにくですが、長男の口には合わなかったそうで、
「代わりに次男が気に入って、ひとかけらずつ毎日食べているそうです。風邪をひかなくなったと言っていました。食べた時の口臭を家族に嫌がられて、食べるのを我慢していた、にんにく好きの父のために、山梨県の実家に行く時には、母には甘酒、父には黒にんにくを持っていくようになりました」(淳子さん)

温泉が大好きな佐藤さん夫妻。お店に来てくれる人たちにおいしい食事と空間を提供するために、休日は、温泉に行ってリラックスするのが、何よりの楽しみだとか。元気の源は、“食生活”で。これからも、いろいろな発酵食品の手作りに挑戦していこうと思っているそうです。

文=水楢直見(編集部) 2016年12月

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