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ぶれることなく撮り続けた
53年間の写真の集大成『THE WALKER』②

グラフ・ジャーナリズム(フォト・ジャーナリズム)という、写真に自分の意図を込めて伝える報道写真が主流だったころから、写真家として時代を見つめ続けてきた石田紘一さん。53年間、撮り続けたモノクロ写真のフィルムには、時代の空気が焼きつけられていました。

ぶれることなく撮り続けた53年間の写真の集大成『THE WALKER』?

写真家の石田紘一さん

グラフ・ジャーナリズムとグラフ誌の誕生

2014年に、映画『LIFE!/ライフ』が話題になりました。1947年のダニー・ケイ主演映画『虹を掴む男』のリメイクで、グラフ誌『LIFE』がデジタル化の波で廃刊になるというアレンジが加えられていました。

グラフ誌として有名な『LIFE』は、アメリカで1936年に週刊誌として創刊されました。

日本では、1923年創刊の『アサヒグラフ』(朝日新聞社)をはじめ、『アサヒカメラ』(朝日新聞出版・1926年創刊)、『光畫(光画)』(1932年創刊)、『FRONT』(東方社・1942年創刊)、『毎日グラフ』(毎日新聞社・1948年創刊)、『カメラ毎日』(毎日新聞社・1954年創刊)、月刊『太陽』(平凡社・1963年創刊)など、多くのグラフ誌が創刊されています。

THE WALKERより

写真撮影:石田紘一

石田紘一さん(73歳)は、グラフ誌の報道手法である、文章ではなく写真で物事を伝えるという「グラフ・ジャーナリズム(フォト・ジャーナリズム)」が主流の時代に、カメラマンの道を歩きはじめました。フリーランスで写真を撮り、グラフ誌などの仕事をしながら、ライフワークで人間を撮り続けてきました。

中学生と小学生。小学生は真剣だけど、ケンカじゃないよ

中学生と小学生。小学生は真剣だけど、ケンカじゃないよ(岩手県) /写真撮影:石田紘一

『PROVOKE(プロヴォーク)』挑発する

石田さんが、インドに3ヵ月滞在して撮影した写真が、講談社写真賞(現 講談社出版文化賞)にノミネートされた1968年は、写真同人誌『PROVOKE(プロヴォーク)』が誕生した年でもあります。

写真家の中平卓馬らが創刊した『PROVOKE(プロヴォーク)』では、「(粒子の)アレ」「(焦点の)ブレ」「ボケ」などの特徴を持った、いわゆる「コンポラ写真」と呼ばれる写真の新しい手法が取り入れられました。写真同人誌は3号で廃刊となりましたが、2号からは、現在も活躍中の写真家 森山大道氏が参加しています。

「インドで見た三途の川のイメージ」(バングラデシュ)

「インドで見た三途の川のイメージ」(バングラデシュ) /写真撮影:石田紘一

石田さんは、自分にとって写真とは何だったのかを考えるために、リュックサックを背負って歩くという同じスタイルで、かつて旅をした東南アジアを再び訪ね、写真を撮りました。その写真をプラスしてまとめたのが、石田さんの写真集『THE WALKER』です。

バングラデシュ

(バングラデシュ) /写真撮影:石田紘一

53年間カメラを持って歩き続けた『THE WALKER』

石田さんは1963年から、今年2016年までの53年の間、ネガフィルムで撮ってきた膨大なモノクロ写真のなかから写真を選び、1冊にまとめるために、去年はじめてパソコンを使ったフィルムのデータ化に挑戦しました。作業は大変だったそうですが、そこから気づいたことがあったそうです。

「まだ写大(東京写真短期大学)の学生のころに、日常のユーモラスな写真が撮れたので、出入りしていた『カメラ毎日』の編集の山岸章二さんに持っていったら、気に入ってくれて、グラビアに載せてもいいと言ってくれたんです。締め切りに間に合わせて撮って、持って行ったんだけど、短期間で撮った写真は、少しもユーモラスではなく、ブラックユーモアになっていました。それに気づいた山岸さんに、締め切りを気にせずに撮りためていこう、そう言われたまま僕もいままで忘れていた。そう思っていたんです。でも、去年、写真をデータ化する作業をしているうちに気がついたんです。インド、バングラデシュ、どこへ行っても、必ず撮っているのは、人間の日常のユーモラスな表情。あぁ、忘れていたわけではなかったんです。自分のなかでは、ずっと撮っていたんですよ」

THE WALKERより

『カメラ毎日』の山岸章二氏に言われて、濃く仕上げたら光が浮かび上がってきた(ネパール)/写真撮影:石田紘一

これまで53年間、1本の道を歩いてきた…そこから本のタイトルは『THE WALKER』1963-2016にしたそうです。これからも、写真を撮り続けていくという石田さんの次の『THE WALKER』は、どんな写真になるのか楽しみです。

文=水楢直見(編集部)2016年8月取材


■ Profile ■
石田 紘一氏
1943(昭和18)年生まれ。1964年に東京写真短期大学(現 東京工芸大学)卒業後、長野重一氏に師事。22歳でフリーランスのカメラマンになる。1978年、サンフランシスコのフォーカスギャラリー招待企画展。1979年、サンタフェのフォトギャラリーで「日本の写真家5人展」。銀座ニコンサロン、コンタックスサロン銀座、Place Mなどで個展開催。写真集は、『バラモンとジャンタ』『安家部落』(ともに写真評論社)、『THE WALKER』(蒼穹社)など。

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