趣味や愉しみ

第7回:ミュージック駄話「Wasted Time」
「レコーディング雑記 vol.7」

1950年代生まれは、ロカビリー、ロックンロール、フォーク、ポップスと、音楽市場の黄金期とともに青春を過ごしてきました。そんな「音楽」を愛し続けた60オーバー世代に送る音楽コラム「Wasted Time」。竹内まりや独身期のマネージャーを務め、いまも音楽業界を見守る元ライブハウス店長・中島 睦さんによるミュージック駄話。

中島 睦

「レコーディング雑記 vol.7」

これまでは、楽器演奏や歌唱を録音する工程についての話でしたが、今回は、それらの録音パートを「曲」のカタチとして、まとめていく作業について説明していきます。料理で例えるなら、作った、おかずを弁当箱のなかに、きれいにまとめていくような作業といったところでしょうか。昔のレコーディングでは、作業の多くが手作業で行われ、かなりの苦労があったようです。
>>第6回:レコーディング雑記 vol.6


レコーディングにおける、ほぼ最終工程の作業がミックスダウン(トラックダウン・MIX・TDとも表現)です。

マルチトラックの時代となり、トラック数は4~8~16~24~48(48はデジタルマルチの場合)、そして現在のコンピュータによる無限トラックへと、その数は増え続けていきました。

各トラックには“せーの”で録られたリズム録りの音源や、後日ダビングされた各楽器やヴォーカルやコーラスの音源が録音されています。これらを音質や音色や音量を整えつつ、必要な音の加工を行い、最終的にステレオサウンド(L/R 2ch)に再配置していく行程です。

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撮影:弓削ヒズミ

事実としては、右と左のスピーカーの間に、整えられた各音源が定位される訳ですね。

右側や左側に置かれる音源、真ん中に定位する音源、右と左に広がるステレオ音源、リズムに合わせて右と左に交互に出てくる音源等々、その手法と組み合わせ数は、何百と考えられます。

不自然ではなく、いかに聴く方々が、気持ちよく聴けるのかを、その楽曲に応じた形でエンジニアやディレクターやミュージシャンが判断し、決めていきます。

ミックスダウンは、そのレコーディングに関わる方々の大きな意図が見え隠れする、そして楽曲の出来を左右する最重要な工程なのです。

<ミックスダウン時の手数>

もちろん当時はコンピュミックスなど無い時代です。今はコンピュータにMIXの手順や作業工程を記憶させて、最終的には自動で行えます。しかし、昔は全てのフェーダーやエフェクトの調整を手作業でリアルタイムで行っていました。

その頃も、様々な理由でアレンジャーは音を重ねたがります。ようやく24ch MTRとはいえ、ピンポンしてトラックを空けるのにも限界がありました。必要と思われる音をダビングするのにトラック数が足りず、別の楽器の音源が同じトラックの別の位置にダビングされてることもざらだったのです…。

ある日、ミックスダウンの進捗具合見るために深夜スタジオに出向くと、アレンジャーが助かったという顔で、いきなり言い出します。

「お、いいとこに来た!手が足りなかったんだ!」

それは文字通り、MIXの作業で「手」が足りないわけなのです。

アレンジャー「えーと、毎回のサビでこのチャンネル、ミュートして。あとこの二本のフェーダー、ここまで下げて。あ、最後のサビだけはこの位置ね!」

それまで数時間の基本調整を続けてきていて、コンソール周りにはエンジニアとアレンジャーとそのボーヤとが、疲れた顔で張り付いています。

各フェーダーの脇には、サビとかAメロとか書かれて、フェーダーの位置が線で何本か記載されているテープがべたべた貼られています。

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撮影:弓削ヒズミ

アシスタントは、MTRとMIX先の2chハーフインチテープのスタート・ストップ、そしてトラックダウン中はコンソールから離れた位置にあるリヴァーヴやディレイ機器の調整や変更を担当。

エンジニアとアレンジャーは、各楽器やVoのバランスや音色や定位を延々と微調整して来ており、重要なフェーダーやイコライザ操作を担当します。曲中の場所さえ判れば、まあ、誰でも出来る操作をボーヤと僕が担当する訳です。

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撮影:弓削ヒズミ

テープが回ってMIXが始まると、もう戦争状態。あちこちからコンソール上に手が伸びて交差します。サビに入ると手が四、五本入れ違います。

途中で「あ、ごめん止めて!」となると最初からやり直し。何を間違ったかは教えてくれません(笑)。

「やっぱ、ここのギター、もう少しあった方がいいかなあ」、「Aメロのストリングス、もっと前に出そうか?」などとやってると、はや数時間。

こっちも曲を覚えて全容が見えると「いや、サビのコーラスちょい下げでしょ」とか言ってしまい、気がつくと夜明けを迎えるのです。

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撮影:弓削ヒズミ

時は過ぎ、数年後のある日、久々のMIXで最新のスタジオに行くと、卓のフェーダーが勝手に動くのを初めて見て、ああ時代は過ぎ去ったなと感じたものでした。

最近では予算や時間の都合でミックスダウン作業をエンジニア一人で行い、完成した音源を関係者に送って必要ならば直すというスタイルが多いようです。

でも僕には、良いバランスやサウンドにするためには、そのやり方は逆に非効率だと思えます。

実はエンジニアとミュージシャンと制作スタッフはそれぞれ「聴こえている音」が違うのです。同じ音場環境においてチームで判断しないと、より良いMIXは出来ないのです。

ミックスダウンにも「マジック」は生まれるのですから…。

>第8回に続く

《撮影協力》
四谷OUTBREAK!



■ Profile ■
中島 睦(なかじま・むつむ)
東京都出身。大学在学中に、音楽制作のアシスタントを始める。
竹内まりや独身期のマネージャーを務め、その後、音楽制作・コーディネイト会社に入社。松任谷由実、久保田利伸始め、数多くのコンサートコーディネイトを担当し、数十枚のCD音源制作ディレクション・プロデュースを手掛ける。またプロミュージシャン・アレンジャーのマネージャーなどを兼任。
2002年ライブバー、渋谷WastedTimeを立ち上げるが、2016年5月惜しまれつつ閉店。
現在はフリーランスで音楽制作プロデュース、ライブハウスのブッキング等を行っている。

中島 睦
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