趣味や愉しみ

《シニア・シネマ・レポート Vol.04》
ユーモアと風刺のジョージア(グルジア)映画 『葡萄畑に帰ろう』

いま、シニア世代をテーマにした映画が増えています。そこで、実際にシニア世代の人と一緒に鑑賞し、その作品の感想を語ってもらおうという企画です。同世代にしか語れない、シニア視点のちょっと変わった映画紹介コーナー《シニア・シネマ・レポート》。今回、ジョージア(グルジア)映画『葡萄畑に帰ろう』を、70代のユーチューバー・成羽さんと一緒に観てきました。

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映画『葡萄畑に帰ろう』は、2018年12月15日(土)より岩波ホールほか全国順次公開

権力社会をユーモアで風刺するジョージア(グルジア)の映画

コーカサス山脈の南に位置し、黒海とカスピ海に挟まれた国「ジョージア」。日本では、2015年4月まで「グルジア」と呼ばれていました。私たちには馴染みが薄いかも知れませんが、3000年の歴史を持ち、シルクロードの要衝の地として栄えた国です。独自の文化を保ち続け、ワインの発祥の地としても有名です。今回、そのジョージアの映画『葡萄畑に帰ろう』をご紹介します。

この映画でメガホンを振るったのは、ジョージア映画界の最長老エルダル・シェンゲラヤ監督、85歳。実際に自ら政界に身をおいた経験をもとに、21年ぶりに完成させた映画であり、権力社会への風刺を、自由な発想とユーモアで描いた作品です。

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ギオルギは、ひさしく戻っていなかった故郷の母のもとを訪ねる(映画『葡萄畑に帰ろう』)

椅子が主人公ギオルギの運命を変えていく

主人公ギオルギは、「国内避難民追い出し省」の大臣を担当することになり、大臣用の椅子を発注します。その椅子は肘掛のボタンであらゆることができる夢のような椅子です。しかし、この椅子が届いてから彼の運命は狂い始めます。

首相からの厳しい命により、避難民を実力行使で追い出す作戦に、しぶしぶ帯同したギオルギは、混乱する現場で、追い立てられた女性をかばって怪我を負います。彼は、その助けた女性ドナラに一目惚れし、息子ニカの家庭教師として家に迎え入れることに。

ギオルギの家には、息子ニカをはじめ、義理の姉マグダ、使用人夫婦が住んでいました。ドナラを迎え入れたことで家庭内に不和が訪れますが、なんとか落ち着きます。しかし、今度はギオルギの与党が、選挙で野党連合に大敗。ギオルギは大臣をクビになり、さらに財務局から家を退去するように迫られます。これからギオルギとその家族がどうなるのか? というのが大まかなストーリーです。

映画『葡萄畑に帰ろう』予告編

映画から知るジョージアの日常

今回も、70代のユーチューバー成羽さんと一緒に、映画『葡萄畑に帰ろう』の試写を観せていただき、鑑賞後に作品の感想を語り合いました。

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映画『葡萄畑に帰ろう』を観終えたユーチューバーの成羽さん/撮影:弓削ヒズミ

●ジョージア(グルジア)映画は初めてですか。

成羽 最初にお話をいただいた時は、アメリカのジョージア州の映画なのかと思ってしまいましたが、今回、初めてジョージア(グルジア)映画を観せていただきました。ジョージア語のセリフは、日本語に近い言葉の響きでしたね。感覚が似ているのか、親近感が湧きました。それとジョージア文字もハートのような形で可愛らしいですね。

●作品としてはどうでしたか。

成羽 主人公のギオルギさんが大臣から転落してしまい、ウジウジしていたシーンを観て、偏見ではないですが、男性は気持ちの切り替えに時間がかかるものだなと思いました。その反対に、女性たちは逆境に強いというか、たくましく描かれていたのが面白かったです。結婚式や誕生日パーティーのシーンを観ると、ジョージアの人たちはとても陽気でしたね。皆さん歌や踊りが好きで、楽器を弾けたりできるのが驚きました。

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大臣の地位を追われ、自宅からの退去命令が下るギオルギに取材陣が群がる(映画『葡萄畑に帰ろう』)

●社会風刺という宣伝文句があったので、お堅いイメージを持っていましたが、蓋を開けてみればコメディ要素も多くて不思議な映画でしたね。

成羽 そうでした。『葡萄畑に帰ろう』というタイトルなので、大臣職を失ったら、すぐに田舎の葡萄畑に戻って、母親と暮らすのかなと思ったのですが、なかなか帰りませんでした。

●邦題『葡萄畑に帰ろう』ですが、原題は『The Chair』だそうです。だから、最初に出てきた大臣の椅子が、物語のキーになっているんですね。

成羽 椅子が動きだすのは、夢なのか、幻想なのか、イメージシーンなのかと思っていたのですが、実際に走り周って驚きました。現実的な話なのかと思っていたらそうじゃなく、ファンタジーみたいな話でもありました。

椅子は「権力」の象徴ともいいますから、そういうところも風刺しているのかもしれません。それに大臣の居た役所で働く職員がローラースケートを履いていたのも不思議でたまりませんでした。あれも何かの比喩なんでしょうね。

●本当に不思議でした。個人的には大林宣彦監督の作品に近いものを感じました。音楽やCGの使い方もそうですが、映画の質感みたいなものに共通するものがあるのかなと。

成羽 年齢を重ねた監督だからこそ、あのような表現ができるのかもしれませんね。でも、話に退屈することなく、おもしろい映画でした。

●ほかに思ったことはありますか。

成羽 映画を観なければ、おそらく知ることのなかったジョージアという国について興味が湧きました。映画を通じて、知らないことを学べる、視野を広げてもらえたのは良かったです。ジョージアのことをもっと知りたいと思いました。

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映画『葡萄畑に帰ろう』

ジョージア(グルジア)といえば、かつてはソ連政権下だったこと、たびたびの内戦など、過去に流れてきたニュースからは暗い印象を持たれている人も多いのではないでしょうか。しかし、この映画からは、ジョージアの人々の温かさ、明るさ、ユーモアなどが伝わってきます。その国の世相や習慣を知れることも映画の魅力のような気がします。『葡萄畑に帰ろう』は、2018年12月15日(土)より岩波ホールほか全国順次公開です。ぜひ、映画館に足を運んでみてください。

文=弓削ヒズミ(編集部)2018年11月取材


映画『葡萄畑に帰ろう』

監督:エルダル・シェンゲラヤ
出演:ニカ・タヴァゼ、ニネリ・チャンクヴェセタ 他
配給:クレストインターナショナル、ムヴィオラ
ジョージア(グルジア)/2017年/99分
2018年12月15日(土)、岩波ホールほか全国順次公開

■シニア・シネマ・レポート バックナンバー
《Vol.01》『輝ける人生』《Vol.02》『ガンジスに還る』《Vol.03》『十年 Ten Years Japan』《Vol.04》『葡萄畑に帰ろう』《Vol.05》『天才作家の妻』《Vol.06》『バイス』《Vol.07》『僕たちのラストステージ』

■ Profile ■
成羽(なりわ)

1945年生まれ。2015年にユーチューバーとしての活動を開始。1人でスマホを使って、撮影から動画編集まで行っている。2018年10月時点で、チャンネル登録者約5,000人、視聴回数1,340,000回を数える。趣味は、書道、チョークアート、旅行など多数。書道は師範の免許を取得する腕前だとか。何事にも好奇心旺盛。PERSOL Work-Style AWARD 2019 シニア部門受賞。
成羽のチャンネル

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