いま注目のあの人

第13回:82歳のアプリ開発者 若宮正子さん①

いま輝いている素敵な人からお話を聴いてみたい。ただ、その想いでインタビューをするのが、このコーナー。スマートフォン向けゲームアプリ「hinadan(ひな壇)」を開発して話題となった若宮正子さんを訪ねました。今年2017年6月には、米国アップル本社で開催されたWWDC(世界開発者会議)に、世界最高齢(82歳)の女性アプリ開発者として同社ティム・クックCEOに紹介されるなど、世界的に名の知れたシニアです。12月には、自身の生き方、考え方を綴った書籍『明日のために、心にたくさん木を育てましょう』(ぴあ株式会社)を出版されました。

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60代からパソコンを始めたことで、大きく人生が変わったという若宮さん。自らを「マーチャン」と呼んでくださいと笑う/撮影:弓削ヒズミ

私が変わったんじゃなくて、世界の価値観が変わってきた

■アプリ開発やエクセルアートなど、パソコンやスマートフォンを使いこなし、自らをリケジョ(理系女子)ならぬリケ老(理系老人)なんておっしゃっていますが、いつ頃から、そうなったのでしょうか。

パソコンは、定年後の60歳から始めました。若い時から好奇心が旺盛で、まだ普及していなかったパソコンでしたが、ちょっと使ってみたいと思っていました。私、おしゃべりなので退職すると話し相手がいなくなるのが心配だったんです。でも、パソコンがあれば、パソコン通信で家にいても会話ができると聴いて、当時、決して安いものではなかったパソコンを衝動的に買ってしまいました(笑)。ただ、その高価な買い物で人生が変わったように思います。

■パソコンはすぐに使えたのでしょうか。

当時はパソコン教室もなかったですし、マニュアルのような本も出ていない状況でした。この頃は、まだインターネットも普及しておらず、電話回線でパソコン通信に接続する時代です。パソコンを回線に繋げるには外付けのモデムや接続ソフトが必要なことがわかって、後から買ってきたり、いろいろ試行錯誤して繋ぐことが出来ました。

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「リケ老(理系老人)」として、自宅でパソコン教室を開き、シニア世代にパソコンやスマホの楽しみ方を教えている/撮影:弓削ヒズミ

■パソコン通信に繋げてからどうでしたか。

当時、通産省のメロウ・ソサエティ構想の一環で、パソコン通信ニフティサーブ(NIFTY-Serve)内に、「メロウ・フォーラム」という高齢者コミュニティがあって、そこで、オンライン、オフラインで多くの人たちと知り合い、親交を深めていきました。これが、ひとつのスタートかもしれません。

時代は、パソコン通信からインターネットへと移行していき、メロウ・フォーラムのメンバーを中心に、インターネット上の高齢者コミュニティ「メロウ倶楽部」が立ち上がりました。私も発起人の末席に名前を連ねていています。いまは、そのメロウ倶楽部の世話人をしていて、このメロウ倶楽部やフェイスブック(Facebook)で数多くの人たちと知り合うことになったのです。

メロウ倶楽部では、たくさんのお友だちが出来ました。その人たちから、コンピュータの使い方、人間の生き方、礼儀作法、文章の書き方など、いろいろ指導を受けました。時には、かなり厳しい指導もありましたけど(笑) 大いに勉強になって、楽しいですね。

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『明日のために、心にたくさん木を育てましょう』若宮正子著(ぴあ株式会社/本体1,100円+税)/写真提供:ぴあ株式会社

■インターネットでの交流で何か印象的なエピソードはありますか。

いろいろあります。2014年の「テデックス・トーキョー(TEDxTokyo)」(※1)で話すようになったのも、そのひとつです。私が作った、エクセルアート(※2)のことをスピーチして欲しいと依頼を受けました。そんな経験ないからと断っていたんですけど、やれば誰でも出来ることだと言われて登壇したんです。エクセルアートを発想した経緯や、エクセルアートで作ったウチワを紹介しましたところ、会場中からスタンディングオベーションを受けて驚きました。

若宮正子さんが、TEDxTokyo 2014に登壇した際の動画

※1 テデックス・トーキョー(TEDxTokyo)
TEDx(テデックス)は、TEDの精神である「広める価値のあるアイデア」を共有するために世界各地で生まれているコミュニティー。その日本での団体がTEDxTokyo(テデックス・トーキョー)。
https://www.tedxtokyo.com/

※2 エクセルアート
マイクロソフト社の表計算ソフト「エクセル」のセル(枠)を色で塗りつぶし、罫線で装飾しながら文様や図案を作ること。考案者の若宮さん曰く、パソコンを使った手芸のようなもの。今回の書籍『明日のために、心にたくさん木を育てましょう』の表紙イラストにもなっている。

■テデックス・トーキョーでの登壇の思い出はありますか。

私が銀行をやめる少し前に、スプレンディドシート(集計プログラム)、いまでいうエクセルのようなものの講習に、みんなで行きました。その講習の修了試験があったんですが、それに私だけ落第点を取って帰ってきたんです。

その話をテデックス・トーキョーでマイクロソフトの人に話したら、「それはよかったですよ」と言われ、どうしてですかと聴いてみたら、「エクセルで決算書なんて作れる人は世の中にいっぱいいますよ。エクセルでウチワを作る人なんて居ないから、それが良かったんです」と言われました。

だから、私が変わったんじゃなくて、世界の価値観が変わってきて、同じようなものをやるのはロボットさんの仕事。人間はロボットが出来ないことをやるわけですから、ロボットは、エクセルでウチワを作るという突拍子もないことを思いつけない(笑)

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パソコンを使った手芸と呼ぶ「エクセルアート」では、日本の伝統的な文様をモチーフに、美しい模様の作品を作り出している/撮影:弓削ヒズミ

■若宮さんこと、マーチャンには、たくさんの応援団がいるそうですね。

本書のP23に写真が載っている慶應の古川先生(※3)が応援団長に名乗りを上げてくださり、いろいろと影になって支えていただいてます。

※3 古川先生
元マイクロソフト株式会社社長、慶應義塾大学教授の古川亨先生

アップルのWWDC(世界開発者会議)に行くことになった時も「マーチャン1人でアメリカに行ったら心配だら、誰かサポートは居ないのか」なんて周囲が言い出して、サンフランシスコにシリコンバレーに詳しい人がいるから、何かあった時にサポートさせるよって言ってくれました。

私の開発したiPhoneアプリ「hinadan(ひな壇)」のナレーションも、その古川先生のお友だちの声優さんがボランティアで声を当ててくれたんですよ。

とにかく、応援してくださる人や、いろんな業種、業界の人と知り合いができましたのは、インターネットのおかげですね。

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現在、若宮さんは首相官邸が設置した「人生100年時代構想会議」に有識者として参画している/撮影:弓削ヒズミ

■これからシニアになる人たちは、SNSやインターネットを使って交流の場を広げることがおすすめですね。

そうだと思います。テデックス・トーキョー、アップルのWWDCの影響もあって、私のフェイスブックに国内、海外から友だち申請がたくさん来ました。もう、私のFaceBookは多言語化しています。

私宛の外国語メッセージがわからなくても、文章をコピーして翻訳サイトで訳してもらうので、なんとなく内容もわかります。「素晴らしい写真ですね」なんて言われてることがわかったら、「あれは3日前に友だちが撮ってくれたものです」と、スペイン語だって、ヒンドゥー語だって翻訳できます(笑)。

第14回:82歳のアプリ開発者 若宮正子さん②に続く

文・写真=弓削ヒズミ(編集部)2017年11月取材


■ Profile ■
若宮正子(わかみや・まさこ)

1935年、東京・阿佐ヶ谷生まれ。東京教育大学(現在の筑波大学)附属高校卒業後、大手都市銀行に就職。62歳で退職後、在宅で母親の介護をしながらパソコンでオンラインチャットを始めたことをきっかけにパソコンに夢中になる。現在“リケジョ(理系女子)”ならぬ“リケ老(理系老人)”として、自宅でパソコン教室を開くなど、高齢者にパソコンやスマホなどを普及する活動も積極的に行っている。愛称はマーチャン。

【著書紹介】
『明日のために、心にたくさん木を育てましょう』

著者:若宮正子/発行:ぴあ株式会社/定価:1,100円+税
発売:2017年12月7日/仕様:小B6判160ページ

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