いま注目のあの人

第15回:ラジオでお馴染みの 毒蝮三太夫さん

いま輝いている素敵な人からお話を聴いてみたい。ただ、その想いでインタビューをするのが、このコーナー。「おいババア、くたばり損ない!」など、ラジオで言いたい放題な放送でお馴染みの「マムちゃん」こと、毒蝮三太夫さん81歳。そのラジオ番組も49年続けているそうです。その毒蝮さんが、昨年末に、『人生ごっこを楽しみなヨ』(角川新書)を出版されました。歳をとる喜びなどについて書かれた本書を読み、やはり、爺ちゃん婆ちゃんのことを聴くなら、この人しかいないと思い、お会いしてきました。

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「年寄りもはっきりと言いたいことは言わなきゃいけない時代だと思う。愛される年寄りになっていかないと相手も聴いてくれないから」と毒蝮さん/撮影:弓削ヒズミ

柔和で、みずみずしくて、笑顔の方が「得」をするよ

■「爺ちゃん婆ちゃん.com」というWEBマガジンです。よろしくお願いします。

インターネットかぁ、俺ね、ケータイやスマホは持ってないの。留守電もコピーもインターネットもない。ITはいっさい不得手。というのは、周りに人が居るから、それで生活ができるんだけど、時代に逆行してますよ。マスメディアの世界には居るけどIT音痴。

■昨年2017年12月に出版された『人生ごっこを楽しみなヨ』は、どういった経緯で出来たのか教えてください。

出版社の方から話が来て、何を書いたらいいのか編集者に尋ねたら、「ふだん考えていること、話していることが、われわれは聴きたい」って言うの。それで、ここ(TBS内)で5回会って、毎回2時間ぐらい話したら出来ちゃった。だから、この本を「書いた」というのはおこがましくて、俺のしゃべったことを編集者が書き起こしてくれたんだ。文章の書き方がうまい、プロだなと思った。前書きと後書きだけ俺が書いたの。

佐藤愛子さんの『九十歳。何がめでたい』がベストセラーになったけど、あの人も言いたいことを言っただけだって言うんですよ。こんなのが売れて、何がめでてぇって(笑) 売れようとして書いたわけじゃない。それと似てるよ。肩肘張らないで、こうやってしゃべったことが本になっただけ。

作家じゃないから出版発表会もサイン会もやらないけど、新聞社とか書評で取り上げてくれる。皆さんが俺のことを気にしてくれるから嬉しいじゃない。あなたも気にしてくれるから、こうやって取材にも来てくれるわけでしょ。

■はい、ラジオで街の人たちと奔放に会話している毒蝮さんが魅力的なので。

こうして81歳になる俺が、ババアとか、くたばり損ないとか、汚ねえとか、言っちゃいけないタブーを言ってのさばってるのか不思議でしょうがないだろ? これが、他の芸能事務所のタレントが生放送で言ったら、1日でクビだよ(笑)

そこを何故って聴きたいんだろ? それは「嘘」じゃないから、ほんとにババアだから、汚ねえからだよ(笑) 自分より歳下だと思う人にはババアなんて言わない。本当にババアだからババアと言ってるの(笑) 江戸っ子は、可逆的なことを言うんだ。「むこう行け」というのは、「こっち来い」ってことなんだから。江戸っ子の端くれとして、俺の言う「ババアうるせぇ」っていうのは、「おばあちゃん可愛いね」ってことなんだけどね。

この逆のことが、わかっていない奴もいて、俺が何か言うとツイッターとかにすぐきちゃうんだよ。俺は見てないからわかんないけど(笑) 物事の「裏の裏」を考えず、悪いものは悪いみたいな、狭っ苦しい世の中になってるな。許容範囲ってものがないよ。そのうち、ジジイ、ババアも蔑称だと思ったり、差別だと思ったりする時代が来る可能性はあるな。いま、言葉狩りの時代だから。

■本書では、「歳をとったら柔和な、みずみずしい素直な年寄りになる」という言葉が多く出てきますが、そういった考えはどこから。

柔和で、みずみずしくて、笑顔の方が「得」をするよってこと。

日野原先生(※1)が、素直で優しい患者の方が、医者は治しやすいって言うんだ。医者の中には、嫌な患者だったら点滴も外しちゃいたくなるなんて言ってたよ(笑) 看護婦さんだって、世話されて当たり前だと思ってる患者より、素直な患者の方がいいだろ。だから愛される患者になれって。こういうのを「入院学」って言うんだ。

話は外れるけど、俺の親父は頑固だったんだよ。病院に入っても薬はちゃんと飲まないし、言うことも聞かないし、寝間着を着たまま天ぷら屋に行っちゃっうし、それじゃ看護婦さんが嫌がるよ。3日分の薬を置いていくから間違いなく飲んでくださいと言われて、3日分いっぺんに飲んじゃうんだから(笑)

俺の親父みたいに、頑固で高慢でこだわっている年寄りになってはダメ。楽しい人生を過ごしたいなら、素直で、みずみずしくて、柔軟なジジイになることが「得」ですよってこと。そういうことをスティーブンソン(※2)というイギリスの作家が、100年前に書いっているって、日野原先生に教えてもらったんだ。それには、若者は、傲慢で、真っ直ぐで、人の意見聞かないで突き進む、若者は、これでイイって言ってるの。

※1 日野原重明
皆さんご存知の100歳を超えても現役であり続けた医師・医学博士。1911年10月4日生 – 2017年7月18日没

※2 ロバート・ルイス・スティーヴンソン
イギリスの小説家、詩人、エッセイスト。『宝島』『ジキル博士とハイド氏』『新アラビア夜話』などが代表作。1850年11月13日生 – 1894年12月3日没

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「江戸っ子っていってもランクがあってね、神田、日本橋、芝とかは江戸っ子中の江戸っ子でプライドが高いの、将軍様の側に居たから。俺の居た吉原とか品川とかはランクが低い。江戸っ子でも端の端だから、端っ子だな(笑)」と笑う毒蝮さん/撮影:弓削ヒズミ

■その若者たちを大学で教えてらっしゃいますが、いまの若者たちはどうですか?

いまは逆になっちゃったよな。年寄りよりも若者の方が気を使って生きてる。海外旅行に行くとか、マイホームを建てるとか、会社に入ったら社長や重役になるのが夢なんて若者はいない。そこそこの暮らしができて、失敗しなければいい、だから結婚もしないって考えも多い。

俺なんて、金がないのに、有楽町で働く奥さんに結婚してくれって言ったよ。むこうは給料もらってるから、仕事がなくても食えると思って(苦笑)。いま、そんな度胸のある奴はいないみたいだよ。

でも、いまの時代、結婚して子どもを育てたら、こんだけお金が掛かるとか、この先、年金がなくなっちゃうかもしれないとか、社会が若者を怯えさせすぎだよ。俺は、歳をとればとるほど楽しいぞって言いたい。

若者は頼り過ぎ、年寄りは頼らなさ過ぎ

■これからシニアになる人へ何かアドバイスはありますか。

いまの日本は、「文明」よりも「文化」が蔑ろにされてるように思うよ。「文化」というのは、例えば、「遠くへ移動したい」という思想で、「文明」というのは、馬車だったり、駕籠だったり、いまは自動車だったり「移動するための道具や手段」。「文化」は変わらないけど、「文明」は変わっていく。いま、その「文明」が「文化」から離れた変わり方をしつつあるような気がするね。社会が「文明」に毒されちゃってる。

若者は、スマホとかインターネットとか新しい文明に頼り過ぎ。頼るのが悪いって言ってるんじゃないよ。「過ぎてる」ことを言ってるの。電車に乗ったって、どこ行ったって、大抵、こうやってるよね。いま本を読んでる人はいないよな。あっ、これ(スマホ)で本を読んでるのか。とにかく人の顔を見ないし、人の顔を見るのが下手。表情が豊かじゃないんだな。

逆に、年寄りが、スマホやインターネットに頼らなさすぎ。まあ、俺は頼ってないよ。それは周りに人がいるから頼らずにいられるけど、もし、独り身だったら、年寄りこそインターネットを利用したほうがいい。

画面を通じて遠くの孫と話をしたり、映画を観たり、買い物をしたり、独り身や高齢者だけの家庭はインターネットに頼った方がいいよ。認知症の人だったらスマホを持たせておくと、居場所がわかったりするんだろ? 迷子になったり、遭難した時は助けも呼べる。

スマホをいじってるとボケ防止にもなるんだよ。しゃべれなくなってもコミュニケーションをとる道具にもなるんだから。障害を持った方やお年寄りには武器ですよ。

それから、「文化」の良さは「無駄」なところにあるの。年寄りは「無駄」の良さを感ずるべきですよ。無駄こそ、人生に潤いを与えてくれるよ。それこそ、俺のラジオなんて、無駄の極致だもんな(笑) これからは、愛される年寄りになっていかないとね。

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自称アナログ人間という毒蝮さんは「マスメディアの世界には居るけどIT音痴。お金だってカードじゃなく現金だけ。それも財布もかさばるから使ってない。カード時代じゃ、ご祝儀はどうやって出すのかわかんない」という/撮影:弓削ヒズミ

ラジオの生放送後の時間を割いてインタビューさせていただきましたが、毒蝮さんは、仕事終わりとは思えない、まさに、柔和で、みずみずしい笑顔で、たくさんの話を聴かせてくれました。毒蝮さんの新書『人生ごっこを楽しみなヨ』には、今回のインタビューで話していただいたことをはじめ、これからのシニアの生き方へのアドバイスが詰まっているので、ぜひ、お手にとってみてください。

文・写真=弓削ヒズミ(編集部)2018年2月取材


■ Profile ■
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)

昭和11年3月31日、東京・品川生まれ、浅草育ち。俳優、タレント。昭和44年からパーソナリティとなったTBSラジオ「ミュージックプレゼント」は49年目に突入の人気長寿コーナーに。そのほか、講演会や客員教授など幅広い分野で活躍。
公式サイト「毒蝮三太夫ホームページ

【著書紹介】
『人生ごっこを楽しみなヨ』

著者:毒蝮三太夫/発行:株式会社KADOKAWA/定価:840円+税
発売:2017年12月10日/仕様:新書判208ページ
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