いま注目のあの人

第20回:美容と福祉をつなぐ 山野愛子ジェーンさん②

いま輝いている素敵な人からお話を聴いてみたい。ただ、その想いでインタビューをするのが、このコーナー。今回は、美容を通じて高齢化社会の福祉向上を目指す「美容福祉」を提唱する美容家・教育者である山野愛子ジェーンさんを訪ねました。人の気持ちを前向きにしてくれる「美容」のパワーとは。

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山野愛子ジェーンさん/撮影:弓削ヒズミ

第19回:美容と福祉をつなぐ 山野愛子ジェーンさん①を読む

「美容」を通じ、たくさんの人を幸せにしたいという願い

■1999年から提唱されている「美容福祉」とは、どのようなものなのでしょうか。

「美容福祉」創設の背景には、初代・山野愛子先生の入院話があります。先生は髪を洗って欲しいけど、看護師さんも出来ない、美容師さんも病院内では点滴や繋がれた医療機器があってうまく出来ない、そのような状況でした。その時、医療関係者、美容関係者のそれぞれが勉強すればいいのではないか、という発想から始まりました。

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美容福祉の授業風景/写真提供:学校法人山野学苑

美容師は、車椅子の押し方、安全な身体の動かし方、患者さんをケアできることで、高齢者のお客様にも対応できるようになります。歩行が困難で美容院に来ていただけない状況でも、訪問して自宅でカットしてあげられることも出来ます。

看護師は、ただ髪をとかすだけではなく、ちょっと工夫したり、患者さんが気持ちよくなるようなシャンプーの技術を身につけいれば、きっと喜ばれると思うのです。ただ看護師さんの仕事は忙しいので、どこまで出来るかはわかりませんが。でも、とてもいい環境が提供できると思っています。

長い間、入院していれば、髪を切りたいでしょうし、カラーだってしたいでしょう。少しでも本人の希望を叶えてあげられるのが、患者さんにとっていいことだと思っています。福祉施設であろうと、病院であろうと、私たちは「美容」を通して、たくさんの人を美しくする、幸せにしたいという願いです。その人がウキウキと暮らせればいいのです。どの年齢だって、素敵になること、ドレスアップすることは楽しいですよ。

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山野愛子ジェーンさん/撮影:弓削ヒズミ

■美容師が介護施設に行くことで、症状が改善された事例もあるそうですね。

毎日リップをつけてあげる、髪を整えてあげることで、入所者が積極的に人と話したくなったという例が報告されています。私自身、学生たちと一緒に八王子の老人ホームを訪問して、入居者の方たちをずらりと並べてメイクさせていただき、同じような感想を持ちました。

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施設に訪問してメイクを行う生徒たち/写真提供:学校法人山野学苑

私は、いつも施設の隅で一人おとなしくしてる女性に声をかけ、「メイクしてもよろしいですか?」と、話しかけながらメイクをしました。最初は下向き加減でしたが、キレイに仕上がっていくと、だんだん顔が上がってきました。お話を聴くと、若い頃はしっかりとメイクをしてオシャレな人だったそうで、老人ホームに入ってから、あれをやってはいけない、これもやってはいけないと、規則だらけの状況に息苦しくなって気持ちがふさいでいたそうです。

帰り際、施設の皆さんが満面の笑顔で笑っている姿が見えました。その姿を見て、思わず涙が溢れてきて、「どなたか、これで毎日メイクしてあげてくださいね」と持ってきたメイクのパレットをすべて差し上げました。今後、美容学生たちと老人ホームや介護施設で、毎日、毎週のように何かしてみたいなと思いました。フルメイクでなくても、ちょっと整えるだけでも気持ちの変化が大きいです。

次につながる選択肢を選ぶこと

■これから定年退職して、シニアとして新たなライフスタイルを模索している方に、何かアドバイスはありますか。

まず、60〜65歳はシニアじゃないです(笑) でも、仕事を辞めてしまうと、頭も身体もガッカリしてしまうと思います。次は、好きなことを仕事としてやるのか、ボランティアとして誰かのために何かをやってみるのか、いろいろと選択肢があります。アメリカでは、リタイア後に大学に戻って勉強できる仕組みがあるので、次にやりたいことの準備が出来る環境にあります。

私たちの学校にも、子育てが終わり、自分でまつ毛エクステの小さいお店を持ちたいからと、資格を取るために入学していた人もいました。50〜60代でセカンドライフのために、自分の子ども、孫と同じぐらいのクラスメイトに混じって勉強をしている人もいました。同じ志の人が集まるので友だちが出来ていいのではないでしょうか。

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山野愛子ジェーンさん/撮影:弓削ヒズミ

■専門的なことを学べる場から、新たなスタートを切るというのもいいですね。

自分で、ジュエリー、バッグ、時計などを造ってみたい人にも、何か免許を取得して仕事の可能性を広げたい人にも、ただ自分のスキルアップをしてみたい人にも、「学びの場」というのは、いいことがたくさんあると思います。ぜひ、定年後の選択肢に入れてください。世の中の学校も、もっと、シニア世代が学べる環境を整えていってもいいのかなと思います。

また、自宅のあるシニアでしたら、ヨーロッパのように若者を自宅にシェアハウスのように住まわせるのもいいかもしれません。若者にしてみれば、安い家賃で住まわせてもらい、もう一人のおじいちゃん、おばあちゃんのような新たな人間環境を築けたら、とてもメリットがあると思います。貸しているシニアとしてみれば、「他人のためになっている」という心の充足感が、生活にハリを与えてくれるはずです。もちろん、お互い感謝の気持ちで暮らすことが基本です。

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山野愛子ジェーンさん/撮影:弓削ヒズミ

シニア世代の中には、戦後の食べ物がない、着るものがない、苦しい時代を過ごしてきた人もいます。そうした人たちと、いまの若者との対話は大切だと思います。自分の親には聴けないことでも、他人なら聴けることもあります。いまは思春期を迎えた親子は会話が少ないですから、世代の違う意見をお互いに吸収することで、自分の家族ともコミュニケーションが深まるのではないでしょうか。だから、私たちも周辺の自治会や地域サークルの皆さんを学校にお招きして、学生たちとコミュニケーションをとれる機会を作ろうと思ってます。

とにかく、自分の生き方を考えて、選べばいいと思います。勉強しよう、他人のために何かしよう、そういう気持ちがあれば自分も幸せな気持ちになります。歳だからといって、自宅にこもりっぱなしになるのはやめましょう。特に男性はね(笑)

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山野愛子ジェーンさん/撮影:弓削ヒズミ

常に明るい笑顔でインタビューに答えくれた山野愛子ジェーンさん。美容で、人を幸せにするためには、「スマイル」と「感謝の気持ち」が大切だと言います。髪型を整える、メイクをしてみる、ちょっとの努力で自分を、そして周囲の人を笑顔にできることを学びました。これを読んだあなた、ちょっとオシャレをして街に出かけてみませんか。

文・写真=弓削ヒズミ(編集部)2018年10月取材


■ Profile ■
山野愛子ジェーン(やまの・あいこ・ジェーン)

学校法人山野学苑理事長、山野美容専門学校校長、山野美容芸術短期大学学長・教授。米国ロサンゼルス生まれ。祖母・山野愛子のもと「美道(びどう)」を修得し、1984年、二代目山野愛子を襲名。豊かな感性と優れた国際感覚で美容界のリーダーとして注目されている。
http://www.jane.jp/

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