社会の知識を学ぶ

エンバーミングって、ご存じですか?

いま、葬儀において、ご遺体に「エンバーミング」を施すケースが増えています。エンバーミングを簡単に説明すると、ご遺体を衛生的に保ち、生前の姿に近づける処置のことです。これまで病院や葬儀会社がご遺体に行う清拭(せいしき)などとは、何が違うのか? エンバーミングについて調べてみました。

エンバーミングって、ご存知ですか?

イメージ

身体の内部から消毒・殺菌

「エンバーミング」をご存知ですか? 最近、葬儀に関する調べをしていると、エンバーミングという言葉を、よく見かけるようになりました。主に、ご遺体の保全を行うのですが、従来の清拭と、何が違うのでしょうか。

いま、お亡くなりになった場合、ご遺体は、病院や葬儀会社によって、アルコールなどを使って、『身体の見える部分(表面)』の消毒、および洗浄が行われています。

対するエンバーミングの保全処置は、『身体の内部』から。専門の資格者が、血管を通して、血液と薬液を置き換え、全身を灌流(かんりゅう)固定し、「消毒・殺菌」「腐敗の防止」を行います。

感染防御で、安心できるお別れを提供

今回、エンバーミングの普及活動を行っているIFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)の事務局長・加藤裕二さん、エンバーマー養成認定校(日本ヒューマンセレモニー専門学校)校務主任・米山誠一さんにお話を伺いました。エンバーミングの施術をするメリットとは何なのか、お聴きしました。

「じつは、お亡くなりになった方の体内には、細菌・ウイルスが残っていることもあり、ご遺体から二次感染する可能性があります。ご本人がお亡くなりになっても、細菌・ウイルスは、死滅しません。もし、空気感染する結核のようなものであれば、ご遺体に触れたり、場合によっては近くに居るだけでも感染リスクに繋がります」

「病気でお亡くなりになった場合、死亡診断書には、主に直接の死因しか記入されず、例えば死因に心不全と記載されていても、細菌・ウイルスに感染している場合もあります。お亡くなりになった後はほとんど検査が行われません。最後のお別れで、ご遺族やご会葬の皆さまが安心して、お顔や体に触れてもいいように、公衆衛生上安全にできるエンバーミングを勧めています」

今回、お話を伺ったIFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)の事務局長の加藤裕二さん(写真右)と日本ヒューマンセレモニー専門学校の米山誠一さん

今回、お話を伺ったIFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)の事務局長の加藤裕二さん(写真右)と日本ヒューマンセレモニー専門学校の米山誠一さん

葬儀のスタイルに広がりをもたせることも

エンバーミングのもうひとつの特徴「腐敗の防止」。エンバーミングの処置を施すことで、腐敗の進行を遅らせ、保全期間を延ばすことができるといいます。火葬が当たり前となっている国内において、何がメリットなのかお聴きしました。

「エンバーミングを施すことで、ご遺体の保全方法が変わります。変色、乾燥、腐敗、臭気の発生を防ぐので、遺体安置室や保冷庫のような場所ではなくとも、安心して、ご自宅に安置することが可能となります。また、お亡くなりになられた方の上に大きくて重たいドライアイスを置く必要がありません」

「火葬するまで、ゆっくりと時間をとることができます。火葬場が混みあっていても、遠方からの参列者を待ちたいときも、場所や時間にとらわれず、お別れする時間を持つことができるため、従来にはない、ご葬儀の形式も可能になります」

エンバーミングの施術を行うには

エンバーミングを行うには、具体的にどうすればいいのかお聴きしたところ、エンバーミング処置を行える専門施設に送ることが必要ということです。

そのエンバーミング施設は、2017年3月現在、21都道府県に55センター、エンバーミングを取り扱うIFSA所属の事業会社は20社。事業会社の多くは、葬儀会社なので、近くの会社に依頼するのが、まず、ひとつです。

エンバーミング施設の全国分布

エンバーミング施設の全国分布図(2017年3月現在)/資料提供:IFSA

すでに、ご葬儀をほかの葬儀会社にお願いしている場合は、IFSAへ直接、相談するという方法もあります。

エンバーミングに掛かる料金は、事業会社によって異なるものの、IFSAでは、15?18万円前後の料金という指針を出しています。ただ、IFSAに所属していない葬儀会社を経由して頼んだ場合、ご遺体を移送する料金、葬儀会社の手数料などが加わり、20?25万円というケースもあるそうです。

「金額をみてしまうと、本当に必要なのか迷われるのは確かです。それでも、感染予防の意味合いは大きいと思います。またエンバーミングのもう一つの特徴である、故人を生前に近い状態に戻すことにも、ご遺族から喜ばれています。闘病生活が長く、やつれてしまったお顔を、生前お元気だった頃の顔に近づけることで、より深く、より良いお別れができ、価値の高い技術だと思います」と加藤事務局長は語ります。

広がるエンバーミング需要

1995年の阪神・淡路大震災時、IFSAは、支援活動として、ご遺体にエンバーミング処置を行い、ニュースなどに取り上げられました。いま、災害や大規模事故での修復・保全活動としてもエンバーミングに注目が集まっています。国際的には、エンバーミングは広く行われ、ご遺体を海外に移送する際には、エンバーミング処置は必要条件になっています。

昨年2016年に、エンバーミング施行実績は約3万7000件、10年前に比べると2倍以上増えています。しかし、エンバーミングを行う専門の技術者「エンバーマー」は国内に約160人。IFSAでは、厳しい自主基準を設け、技術の発展および、人材育成に力を入れているとのこと。ちなみに、タレントの壇蜜さんもエンバーマーの資格を持っているそうです。

エンバーミング処置年間推移

エンバーミング処置年間推移図(2017年3月現在)/資料提供:IFSA

「これから先、もっとエンバーマーが必要とされます。いずれは国家資格として認められるようにと、働きかけているところです。とにかく、いまはエンバーマーの存在を多くの人に知ってほしいです」と米山さんは語ります。

イメージ

イメージ

エンバーミングは、まだまだ理解されていない部分もありますが、安心して故人をお見送りできる環境というのは、残された者にとっても、ご本人にとっても大切なことなのではないでしょうか。

文・写真=弓削ヒズミ(編集部)2017年3月取材


《取材協力》
IFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)

下へ続く
上へ戻る