活躍の場を探す

重ねてきた経験はダテじゃない
60歳以上で舞台デビュー?!

これまで、「自分」という人生を、会社や家族のために過ごしてきた人が、定年や還暦を機に、別の人になりきり、「他人」という人生を楽しむ。近年、60歳を過ぎてから、劇団員デビューをする人が増えているそうです。

第6回公演「ねこら!」(2012年):かんじゅく座

第6回公演「ねこら!」(2012年)/写真提供:かんじゅく座

チラシに書かれた劇団員募集の文字を見て、すぐに入団

2006年に旗揚げし、今年2016年で10周年を迎えるアマチュア・シニア劇団「かんじゅく座」。劇団員のすべてが60歳以上の熟年男女で、ほとんどが演劇の経験がない、まったくの素人の集まり。自分の息子や娘のような年齢の講師のもとで、週に数回の稽古を重ね、年に1~2回の舞台に立ちます。その「かんじゅく座」の稽古場にお邪魔して、実際にシニア劇団の舞台に立つ人々にお話を聴いてみました。

かんじゅく座

劇団内ではトニーの愛称で呼ばれる小味田さん。60歳で仕事を辞めて古典芸能の勉強や芝居観劇を楽しんでいたところ、かんじゅく座のことを知って入団した/撮影:弓削ヒズミ

劇団員の小味田敏雄さんは、1950(昭和25)年生まれ、66歳。サラリーマン退職後に「かんじゅく座」に入団。もともと、ご夫婦で一緒に観劇に行く趣味があった小味田さんは、テレビで紹介されていた「かんじゅく座」のことが気になり、公演に足を運び、その魅力にとりつかれました。そのときのチラシに書いてあった劇団員若干名募集の文字を見て入団したそうです。

芝居経験にない小味田さんにとって、稽古のすべてが新鮮で、仲間ともすぐに打ち解けられたそうです。「稽古の帰りに食事に行ったりもしますが、1点だけ困ったのが、劇団内では、愛称で呼び合っていたので、みなさんの本名がわからなかったんですよ」。

小味田さんの劇団内の愛称は「トニー」。劇団員一人ひとりが自己申告で愛称を決めて、お互いを呼び合います。「ぼくは敏雄というので、とっさにトニーと名乗っちゃった」と愛称の由来を笑いながら教えてくれました。

初舞台はおととしの秋で、「もうドキドキして何をやっていたのか、わからなかったです」と、緊張のなかでの舞台デビューを飾りました。

かんじゅく座かんじゅく座

稽古場では2つのパートに分かれて歌のレッスンが行われた。リズムが遅れる人、ほかのパートにつられてしまう人、それぞれ苦手なところも多い。講師のアドバイスを素直に聞きながら、みなさんレッスンに励んでいる/撮影:弓削ヒズミ

いま、できることを、できる範囲でやりたい

華やかな人生の再スタートを切った小味田さんですが、じつは、抱えている問題もあります。それは「健康」です。

入団前、脳に腫瘍が見つかり、腫瘍摘出手術を行った小味田さん。そのときの手術では、すべて摘出できず、今年2016年に2回目の摘出手術を行い、いまも放射線治療を続けています。また、去年には、心臓に異常が確認され、ペースメーカーを入れています。まさに満身創痍な状態です。

「こんな状態だからこそ、無理はしないのですが、いま、できることを、できる範囲でやりたいです。それが長く続けられればいいですけど、お芝居は共同作業ですから、途中で体調を崩してみなさんに迷惑をかけることはできないので、それが一番心配です」。

小味田さんは、医師からも「ぜひ、続けてください」とすすめられているそうで、周囲の理解に感謝しながら、劇団に、また地元の朗読活動にも精力的に取り組んでいます。

出会いが一番の財産であり、演劇は出会いの宝庫

歳を重ねてからお芝居をはじめる、その魅力について、「かんじゅく座」の代表・鯨エマさんは、「出会い」こそが一番の財産だといいます。仲間たちとの出会い、役との出会い、何より1年に1~2回、何百というお客さんの前に無名な自分をさらすことが、大きな出会いであると。

「他人を演じることが1番の葛藤だと思いますが、他人を演じることを通じて、自分ってこんなにできないんだ、自分ってこんなにわかっていないんだって、ダメな部分の自分と出会ってしまいます。それってたぶん、人生集大成と思っている年代にはないし、どちらかといえば拒絶することだと思うんですよ。表現活動、創作活動は、こういう自分と向き合うことだと思います。それに演劇は、ひとりではできないので、たくさんの人との関わりが生まれます。いろんな意味で出会いの宝庫だと思いますね」。

かんじゅく座
かんじゅく座

かんじゅく座の企画製作と作演出を手がける代表・鯨エマさん。「演劇は、頭を使いながら体を動かすので、認知症予防で来ている人も何人かいると思います(笑)」/撮影:弓削ヒズミ

演劇は高齢になってはじめるには最高の趣味

「表現活動というのは、人生経験の、とくに普通だったら忘れたい、苦しい経験、つらい体験というのが肥やしになるのが、いいと思いますね。本当に、こうやって活動してて、一概に言えないですけど、能天気に明るい人よりも、何か背負ってる人とか、いままで嫌なことばかりありましたという人とかの方が、表現は奥深かったりしますよね。そういう点では演劇は高齢になってはじめるには最高の趣味かなという気がします」。

かんじゅく座

レッスン中は、和気あいあいとした雰囲気で笑いがたえることがない。しかし、孫の世話、介護、通院など時間をやりくりしながら、稽古に参加している劇団員もいるという/撮影:弓削ヒズミ

人生を長く続けてきたから表現できること。いろいろとありそうではないですか? まずはシニア劇団の観劇に出かけてみてはいかがでしょう。

文・写真=弓削ヒズミ(編集部)2016年7月取材


かんじゅく座

下へ続く
上へ戻る