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ギターの音色に集まる「ひと色」のハーモニー①

ビートルズ世代、フォークソング世代でもあるシニア層は、楽器に興味を持っている人が多く、退職後の楽しみとして、音楽教室、とりわけギター教室が人気なのだそうです。理由は、若いころの夢をかなえたいということや、楽器を弾くことが脳やからだの老化予防になるということにもあるようです。

音喜多紀義さん

府中音喜多ギター教室主宰の音喜多紀義さん

ギターをはじめよう

「いいですよ。だけど、もう少し軽く弾いた方がいい。親指の爪の背で弾くことの多いラテン音楽と違って、ボレロは、グラシェラ・スサーナのように親指の腹を使って」と言いながら、「こんなふうにやわらかく…そうそう、そんな感じ。じゃあ、頭から一緒にやってみましょう」

そう言ってギターを弾きはじめる音喜多紀義さん(61歳)。その指さばきを横から見ながら、山口憲明さん(72歳)も、もう一度ギターを弾きはじめました。

※グラシェラ・スサーナ…アルゼンチン出身の歌手・ギタリスト

ここは、東京、府中駅にほど近いマンションの一室にある「府中音喜多ギター教室」。レッスン室には、音喜多さんのお気に入りのサイモン・マーティーやホセ・ラミレスの高級ギターが置いてあります。

音喜多紀義さん

曲によって弾き方を変えて

音喜多さんが、個人レッスンのギター教室を開いたのは、6年前。1ヵ月3回で、手頃な月謝のレッスンは、1人でも、夫婦でも、友達同士でも受けられて、各種サイズのギターを備えてあるので持参不要。まったくの初心者でも大丈夫なのだそうです。

演奏活動とギター教室を開くために退職

音喜多さんは、クラシックギターの専門店、特に輸入楽器を専門とする株式会社ファナ(FANA)に勤めていました。営業部で26年間、ギターの調整や販売、ギター教室の運営や、海外の演奏者のコンサートのプロモート、舞台監督など、ありとあらゆることを経験し、「演奏活動をしながら生徒に教えたい」という夢をかなえるために48歳で退職。その後は、ギターの講師や演奏活動をしながら、6年前に教室を開き、生徒に教えると同時にイベントプロデュースもしています。

音喜多紀義さん

間近で見ると圧倒される、音喜多さんの演奏

教室に来る生徒の年齢は、現在、6歳から82歳まで。企業の役員を退任して時間ができたのではじめたという人や、遠くから夫婦で来ている人など、目的やきっかけも様々です。なかでも、いまレッスンを受けている山口さんのきっかけは、とてもユニークなものだったようです。

ライブでの出会いが教室に通うきっかけに

それは、4年前のことです。音喜多さんのギターのライブコンサートが終わったあと、聴きに来てくれた人たちと一緒に飲んでいたところ、しばらくして、誰も知らない男性が1人飲んでいることに気づいたそうです。誰? と思っていたら、その男性は、すっくと立ち上がり、「1曲歌わせてもらっていいですか」と。そう言われて断れず、「どうぞ」と言うと、いきなり大声で歌いはじめたというのです。

からだ全体がスピーカー、ガラスが割れんばかりの大声量で、アウグスティン・ララ作曲の『グラナダ(GRANADA)』をスペイン語で歌ったそうです。
「ほんとに。開いた口がふさがらないというのはこのことか…というくらいに、そこにいたみんな、口をあんぐり開けていましたよ」(音喜多さん)。

山口さんは28歳のとき、勤めていた銀行の試験で選抜されてメキシコに1年間、語学留学したそうですが、「メキシコでは、毎夜、レストランバーに行って、『日本から来た、スペイン語のうまいベニートが歌います』と挨拶しては、飛び入りで歌っていたんです」と説明します。

※ベニート…メキシコのベニート・フアレス大統領のこと。山口さんは顔が似ていると言われていたそうです。

「メキシコに一緒に語学留学に行った人たちは、大学に通ってまじめに勉強していたのに、山口さんは、毎夜、そんな生活。でも、帰ってきて受けた試験では、山口さんが断トツ。京都大学在学中には、京都外国語大学でこっそりとスペイン語の講義を受けていたそうですよ」と、音喜多さんが補足するのです。

49歳で持った、はじめての楽器

音喜多紀義さん

フォルクローレバンド「ワイナマユ」のメンバーでもある山口憲明さんは4年前から本格的にギターをはじめる

山口さんが49歳になって、はじめて楽器を持ったのは、山がきっかけになったそうです。トロント(カナダ)やバンコク(タイ)の支店勤務から日本に帰ってきたのは40歳のとき。体重が増えすぎていたために、一念発起して山登りをはじめました。

最初は200mの山に登るのも大変だったそうですが、いまでは、アルパインツアー(アルパインツアーサービス株式会社)で、中国のスークーニャンシャン<四姑娘山>、キナバル山(ボルネオ島)、カムチャツカ、そしてドロミテやインカでのトレッキングなど、名だたる山に無酸素で登るまでに。トレーニングのために、いまも毎週1500m級の山に登っているという山口さんの顔は、山焼けして精悍です。

山口さんの得意な楽器は、アンデスの縦笛ケーナ。山に持ち運びしやすいという理由で選んだのだとか。20年前にケーナ教室で出会った仲間と、『ワイナマユ〈若い川〉』というフォルクローレのバンドを組み、ケーナ以外にも、ボンゴ、チャランゴなどの楽器を持ち回りで担当しながら、活発に演奏活動をしているそうです。

※フォルクローレ…ラテンアメリカの民族音楽や、それをベースにしたポピュラー音楽。

ギターを基礎から学び直したいと思っていたときに、喫茶店で、偶然、音喜多さんのライブのチラシを見て、演奏を聴きに行ったことから音喜多さんの教室に通うことになったのだと山口さんは言います。

音喜多紀義さん

府中音喜多ギター教室のレッスン室

ギターの音色に集まる「ひと色」のハーモニー?に続く

文=水楢直見(編集部)2016年9月取材


「府中音喜多ギター教室」

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