いま注目のあの人

第22回:映画『99歳 母と暮らせば』監督
谷光 章さん

こんな介護もあったのか! 認知症を患う99歳の母と、介護をする71歳の息子の日々を綴ったドキュメンタリー映画。介護される人もする人も、楽しく暮らせる介護は存在する!

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谷光章さん

見る人を幸せな気分にさせるドキュメンタリー映画『99歳 母と暮らせば』

人生100年時代を迎えて、高齢者が高齢者を介護する日本社会。介護といえば「辛い、苦しい」等というイメージを連想しがちですが、そんなイメージを見事に吹き飛ばし、介護される人、する人、更にはそれを見る人さえも幸せな気分にさせる映画『99歳 母と暮らせば』を監督・企画・撮影・編集・ナレーション・出演まで果たした谷光章さんをインタビューしました。

映画『99歳 母と暮らせば』予告編/提供:イメージ・テン

■本日はよろしくお願いいたします。映画での、穏やかで淡々と、それでいてユーモアのある介護の日々に驚きました。お母さんと闘ってないですね。

谷光章さん(以下谷光):よろしくお願いいたします。

どうしても今までにあった介護の映画は闘う場面があったり、「皆さんご苦労されて大変だな」という、身に沁みるようなのが多いので、あえて対抗する訳じゃないですが、接し方を変えていけば、違う形の介護の仕方もあるのかな?と。漠然とですがね。初めから狙って始めた訳ではないです。

■谷光さんご自身の性格が、もともと穏やかなのでしょうか?

谷光:元々は、ニュース映画を制作していて、色々テーマの作品を作ってきましたが、左翼的で攻撃的なネタを、あまりやってきてはいません。その時の政治状況とか、社会的な問題も含まれていましたけれども、どっちかというと、障害者を扱うことも多かったですし、私自身が、陸上競技をやっていたからか、スポーツネタとか、競馬などを扱うことが多く、政治的なものには顔を突っ込まなかったですね。私自身が、希薄な部分というか、ノンポリの部分があるのでね。

■それがこの映画ででてきたのでしょうか?「介護」と「穏やか」は相反する部分もある。と思っていたので驚きました。

inside1谷光:もともと映画に撮ろうとしたきっかけが、たまに実家に帰ると近くに住んでいる姉が、母親に対してね、しょっちゅう怒っていたんですよ。認知症の人に怒っても、認知症が治るわけじゃないのに、なんで怒る!?っていうふうにずっと思っていましたからね。きちんと相手の認知症の症状がでる原因とか、行動の元になるものを理解していればね、そう怒ることもないんですよ。姉に対して、「もう少し認知症のことを勉強してほしい」というふうに、怒っていたんですよね。
■あ、ちゃんと腹を立てることもあるんですね?谷光さんは介護を始める前に勉強されたのですか?

谷光:私自身は、ある程度の知識があっても、ちゃんと本格的に勉強した訳じゃないです。ただ、実際に4年前から母と一緒に暮らすようになって、機会があるごとに、認知症に関した本を読むようにしましたけどね。

■「初めから怒らない介護の方法がある。」と思っていましたか?お姉さんが、キツい言葉を使う必要はないと?

谷光:そうですね、人に対して攻撃的になるとか怒るとかっていうのは、苦手というか、できない性質だったもんですからね。それで、問題解決するのにですね、一時的に感情的になるんでしょうけども、根本的に解決するためには、きちんと話し合いをもったりとか、方法があるわけじゃないですか。

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映画『99歳 母と暮らせば』シーンより/写真提供:イメージテン企画

日本映画新社にいたころは、あらゆるジャンルの映像制作に関わってきました。フリーになってからは、「健康、環境、高齢化」をテーマにしようと!

■監督ご自身のことを教えて下さい。そもそも映画の世界に入ろうと思ったきっかけから、順を追って聞かせていただけますか?

谷光:私が映像の世界に入ろうと思ったのは、小さいときから親に映画に連れて行ってもらったりして、映画が好きだったということがあります。ただ、私が大学を出た頃っていうのは映画不況で、映画6社*1の会社とか、なくなっていったりした時代で、もう斜陽もいいとこだったんですね。だから、大手のところではまったく人を採ってなかったんですね。それで、劇映画のところは諦めて、それでも、なんとか映像の仕事をやりたいな!ということで、いろいろ探していました。

当時短編映画記録映画を作っていた「シネセル」とか、私がいました「日本映画新社」っていうね、戦前に日本ニュースを作っていたニュース映画社が、企画マンを募集していて、そこで入社試験を受けて、入ることができたということですけども。 もう、入ってからはですね、結構組合が強かったりして、毎年、赤旗振ってストをやって大変でした。

*1 映画6社:当時日本にあった大手映画会社、松竹、東宝、大映、新東宝、東映、日活

■社会派の作品が多いですが、日本映画新社に入社してから、ずっと社会的なニュースを撮っていたのですか?

谷光:もうあらゆるジャンルをやってきましたけどね。(1977年)フリーになって、それから10年くらい、色んなテレビの番組とかやっていました。平成6年(1994年)に自分の会社を作って、「健康、環境、高齢化」をターゲットにして、必ずしもそれだけではないですが、いろいろやってきました。

■「健康、環境、高齢化」を選んだ理由は?

谷光:これから、そういったのが社会的にも重要になってくる。というふうに思っていましたからね。

■今回の映画も、この「高齢化」からの流れがあるのでしょうか?

谷光:うーん、これはたまたま。自分ももう年をとってきて、母がおかげさまで、って言うか、今は101歳ですけど、長生きしてきた中で、認知症も出てきて。まあ、一応これからのテーマとしてはね、そういった世界を皆さんに見せるのも意義があるかな?と言うふうに思ったんですね。

■映画の方のお話しに戻ります。この映画で一番伝えたいことは?

谷光:認知症に限らず、私は20年くらい、発達障害の子供達の支援NPOさんと関わりを持っていまして、発達障害の子供達も、いろいろ取材させてもらっているんですけどね。彼らがいろんな症状を出すのも、ちゃんとそれなりの理由があるわけですよね、彼らは彼らなりの。

それはまったく認知症の人達にしても、徘徊するとか、幻覚をおぼえるとか、幻視とか見えないものを見ちゃうとか、そういうのもちゃんと理由があるんですよね。

その現象や表面だけを、とらえて接していくと、自分とはまったく違う感覚なんで、「何をバカなことを言っているのだ」とかね、「そんな見えっこないのに何を寝ぼけたこというとんやぁ」とか、すぐそういう風になるんですけども、ちゃんとその辺の背景を理解して、基本的には相手の性格とか、個性とか好き嫌いとかね、そういったものを理解した上で接してあげていけば、お互いに不快な思いをせずに介護っていうものが出来るのか?と、そのように思っていますけどね。

■相手を理解することが、大切なんですね。見どころの一つですね。

谷光:特に、それを前面に打ち出してはいないんですけどね。わりともう、本当にありのままのね、「老々介護の日々を切り取った」というところなんですけども。ただ、そのへんのところを、ちゃんと踏まえて接していけば、すぐに怒ったりとか、怒鳴ったりとか、虐待に繋がるような事にはならないのかな?というふうに思いますけどね。

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映画『99歳 母と暮らせば』シーンより/写真提供:イメージテン企画

■その穏やかさに、驚く人は多いのではないかなと思います。参考にする方も、いらっしゃるのではないでしょうか?

谷光:友人何人かに、試写をしてもらいましたが、「とてもあんなふうにはできないな」ってみんな言っていましたね。実際「家にずっといて介護していたんだけども、とてもできないから施設に入れてる。」っていう人も多かったりね。

私の場合は、確かに環境的にはね、近くに兄夫婦がいたり、姉さんも一応はいたりしますから、まあ良かったですよね。

姉は来てすぐに「また同じ事何度も聞かないでよ」「さっき食べたでしょうがまた食べるのね」「私のおかずとるんじゃないよ」とか、しょっちゅう怒ってるんですよ。そんな怒ったって・・・だってねぇ、治る訳じゃないんだから。

■それはやっぱり、ちゃんと、きちんと受け止めて。

谷光:同じ事を聞かれて、煩わしいとは思いますよ?だけど、ちょこっとそれに応えてあげれば、その時はその瞬間は、相手は納得するわけですよ。何分かたつと、またそれを忘れちゃって、また同じ事を聞いてくる。とかあるんだけどね。

■否定しないとか、そのことを流してしまわないとか細かいケアが必要なんですね

谷光:チラシに「あいうえお」ってあったでしょう?(あ、ありがとう。い、イライラしない。う、うろたえない。え、笑顔で。お、怒らない)こういった基本的な部分をね、常に心がけていけば、そんなになんかギスギスした感じとかなりにくいですよ。介護にまつわるいろんな暴力暴言悲劇なんかも含めてね、やっぱり介護する人たちが、追いつめられて余裕がなくなったりですね、生活的な大変さとか、時間が切羽詰まって忙しいのに、仕事やんなきゃいけないのにとかっていう、余裕がないところで、怒りが出てきてるんでね。

「ありがとう」「イライラしない」そういうのを、肝に銘じて接していけば、少しはお互いに不快な思いをせずに、介護ができるのかな?と思っていますけどね。

■この言葉は最初からあったんですか?

谷光:介護の世界では、それが言い伝えられているんです。

■演者とカメラを回す方と、相反する立場で両方する。というのは、なかなか大変なことだと思うのですが、その点でご苦労された点はこの言葉は最初からあったんですか?

谷光:ドキュメンタリーの場合は、どうなるか先が見えない部分がありますんでね。正直言って、「これをずっと回し続けて映画になるのか?どうか?」っていうのは、全く分からないところで始める。という部分はありますけれども。

途中で、いろいろ認知症の症状とか、そういったのが出てきて、それをなんとか収めることができたんで、ひょっとしたら、形になるかな?と。ある程度めどがついてきたな。というのはありました。

介護の映画を、私もいろいろ観てきた中で、「介護は大変だ。しんどい。こんな大変でこんな苦しいことが、一杯あるんだよ」みたいなことは、もう散々観てきて、正直言って、もう、うんざりしてるって感じが、自分の中にあったんです。

重い映画は、もう良いんじゃない?もっと、実際対処のしかたによっては、穏やかで、気持ちいい日常を送りながら、終末を迎えられるっていう暮らしも出来るんじゃないかな?というのを提案したい。ということで、映画にまとめたんですね。

■それが、ポスターの温かい幸せな気分のビジュアルにも表れているのですかね。

谷光:母のキャラクターもあると思いますが、ほんとに、あの笑顔に私自身がずいぶん助けられています。母の笑顔を見ると、こっちはもうホッとしますしね。

たしかに、あの・・なかなか現実にね、いろいろやっぱり大変な思いをされて、苦労されている介護の人たちから見ると、「随分かけ離れた幸せすぎるくらいの感じ」だと思いますけれども、そういった違う面を感じていただいて、それぞれの皆さんの工夫とか、なるべくお互いに悲劇が起こらないような形で、生活を送っていただければと思いますよ。

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映画『99歳 母と暮らせば』予告編/提供:イメージ・テン

■介護前と後でお母さんとの感情的な関係性は変わりましたか?

谷光:親子ですから、そんなに劇的に変わったわけではないですね。結構ね、女房と暮らしていると喧嘩がよくあった。夫婦は、元々は他人だから、長く一緒にいると、どうしてもやっぱりいろんな感情のもつれとか違いとかあります。今は別に暮らしていて、月に1、2回どこかに行ったりですが、今が一番いいですね。ははは。

■老々介護は身近でデリケートな難しい問題だと思いますが、シニア層読者の方に経験者としてアドバイスなどがあればお願いします。

谷光:前に言ったこととダブりますが、「相手のことを理解して付き合う」ということですよね。それが親であれ夫婦間であってもね。なるべく、やっぱり本人が嫌だと思うことはなるべく避けて、できれば食べ物にしたって、なにが好きなのかわかってね、作ってあげるとか、食べやすくしてあげるとか。それはまあ、もちろんお互いの理解や思いやりみたいなのが、ベースになるとは思いますけどもね。

■この映画を観ようか?どうしようか?と迷っている方に、背中を押すひと言を。

谷光:えーと、温かい気持ちで幸せになりますよ。

■今70代ですが、今後の作品予定は?

谷光:私も、もうそろそろ後期高齢者ですよ。母からすると、いつまでたっても「まだ若いのに」って、言われますけどね。

私は、発達障害の子がいるNPOで、子供の教育を支援する学習支援員の養成講座っていうのを、ずっと記録で撮っているんですよ。一人で撮っているんですが、機材がね、三脚なんかも重たいですし、ふうふうふうふう言って撮ってますよ。ははは。

■まさに人生100年時代ですね。

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谷光章さん

 

穏やかでユーモアのある介護を続ける秘訣を探ろうと話しを聞いたのだが、普段人と接することと何ら変わらず相手のことを考えて臨むことだったとは。「彼らには彼らの理がある」「怒っても症状は治らない」、日頃からちょっと気をつけて、広い心でこれからの介護に備えようっと。谷光さんありがとうございました!

映画『99歳 母と暮らせば』は、2019年6 月8 日(土)より 新宿K’s cinema ほか全国順次公開!!お近くで上映された際には、ぜひ、ご覧になってはいかがでしょうか。

文=吉田 しんこ 2019年5月


■ Profile ■
谷光章(たにみつ・あきら)

1945年香川県丸亀市生まれ。1967年日本映画新社入社。ニュース映画企画者として3億円事件、安田講堂占拠、大阪万博、浅間山荘事件、三菱重工爆破事件などに関わる。1977年よりフリー演出家として多岐にわたる作品を演出。ドキュメンタリー映画「さわる絵本―盲児たちの世界」(ヘラルド配給、厚生省特選)「飛べ!マリンジャンボ」(広告電通賞グランプリ)「日本の中小企業」(文部省特選)等々 1994年イメージ・テン設立、新3K(環境・健康・高齢化)に沿ったテーマ中心に映像作品を制作。2012年にはドキュメンタリー映画「DX(ディスレクシア)な日々 美んちゃんの場合」(81分)で児童福祉文化賞を受賞。2014年には固定概念をぶち壊し続ける前衛いけばな作家中川幸夫の壮絶な人生と創作の秘密に迫った「華 いのち 中川幸夫」(92分)で注目される。

【作品紹介】
映画『99歳 母と暮らせば』

監督・企画・撮影・編集・ナレーション:谷光章
出演:谷光千江子、谷光賢、谷光育子、谷光章ほか
日本/2018年
2019年6月8日(土)より新宿K’s cinema ほか全国順次公開

【あらすじ】
認知症を患っている99 歳の母。足腰の衰えも進行して生活を営むことに苦難を感じている母を介護すべく、71歳の息子が母の実家に移り住んだ。老老介護に四苦八苦しながらも、母の人生最終章の日々を撮影していく。日常茶飯事で起こる失敗や苦難、そして母のチャーミングな一面や日々の出来事で輝く愛おしい発見の数々。介護され、介護する人たちが共に幸せに暮らせる介護とは?
生きていることの愛おしさが心に沁みるドキュメンタリー映画。

下へ続く
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