いま注目のあの人
第5回:映画で語る、おじいちゃん評論家・ナイトウミノワさん
いま輝いている素敵な人からお話を聴いてみたい。ただ、その想いでインタビューをするのが、このコーナー。今回、登場いただいたのは、おじいちゃん評論家・ナイトウミノワさん。本来は人生の先輩たちにお話を聴くのですが、昨年末に『いとしのおじいちゃん映画』(立東舎)を出版されたばかりのミノワさんに、素敵なおじいちゃんとはどんな人なのか、どんな映画から学べばいいのかを聴いてみたくて、イレギュラーながら登場していただきました。
撮影:弓削ヒズミ
映画に見る、おじいちゃんたちから学んでみよう
■『いとしのおじいちゃん映画』というタイトルをみた瞬間、これは読まないわけにはいかないと思い、発売初日に入手して、一気に読んでしまいました。私たち「爺ちゃん婆ちゃん.com」の読者、これからシニア世代を迎える皆さまにも、ぜひ、読んで欲しい1冊なので、今回、インタビューさせていただきました。
ありがとうございます。
『いとしのおじいちゃん映画 12人の萌える老俳優たち』ナイトウミノワ著(立東舎/本体1,600円+税)/写真提供:立東舎
■この本の前身となる、ブログから、おじいちゃんのことを書かれていましたが、書き始めたきっかけを教えてください。
映画をよく見るようになったのが、10年ほど前からです。映画を見ていて、「あそこにも、おじいちゃん」「ここにも、おじいちゃんが」と、脇役のおじいちゃんが、妙に気になりはじめたのがブログを書くきっかけでした。「おじいちゃんってなんなんだろう?」「男性はいつからおじいちゃんになるんだろう?」という気持ちが強かったです。
■最初に惹かれた俳優さんは誰ですか。
最初に「おじいちゃん」を意識したのは、2001年ファット・ボーイ・スリム『WeaponofChoice』のPVで踊りまくるクリストファー・ウォーケン(※1)です。当時、ウォーケンはまだ50代後半ですが、しかめっ面のおじいちゃんが、華麗にくるくると踊る面白さと、ちょっと不気味なところが素敵です。
Fatboy Slim – Weapon Of Choice [Official Video]
その後すぐ、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002年)でクリストファー・ウォーケンの演技に惹かれました。控えめながら印象を強く残すところ、奥さんとダンスするシーンのシャキッとしたかっこよさ、決めたことを曲げようとしない頑固さなどが魅力的でした。
(※1)クリストファー・ウォーケン
1943年3月31日生まれ。1971年に映画デビュー、主な作品『ディア・ハンター』『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『007美しき獲物たち』など。
ミノワさんは、映画館に週1、2ぐらいの割合で足を運び、休日は1日中、映画を観ていることもあるという/撮影:弓削ヒズミ
■本を出版してから、周囲の反応はどうでしたか。
SNSなどで、「おじいちゃん評論家」という肩書きを面白がってもらえました。これは私も面白いと思っていたので嬉しいです。これは編集の方と決めました。
友人からは、「最初のほうは微笑ましく読んでいたけれど、途中から狂気を感じた」と言ってもらえたのが嬉しかったです。この場合、狂気というのは褒め言葉だと思います。
私よりもたくさん映画を見ている母からは、ショーン・コネリー(※2)の外見レベル(いつからショーン・コネリーはおじいちゃん的な風貌になったのか)について「これは間違っていると思う。カツラを外したときじゃないのか?」と言われました(笑)
(※2)ショーン・コネリー
1930年8月25日生まれ。1962年『007ドクター・ノオ』のジェームズ・ボンド役で世界的な俳優の仲間入り。計7作のシリーズ作品に出演。
出版後、SNS上で話題となっている本書の影響か、ナイトウミノワさんのTwitterフォロワーは1万人を超えた/撮影:弓削ヒズミ
■ミノワさんが理想とする「おじいちゃん像」とは。
Instagram(インスタグラム)で毎日、写真をアップしているアメリカ人のおじいちゃんがいます。彼は大きな肉を顔にくっつけたり、ピクルスを耳に挿してみたり、釣り上げた魚を、おそらく友人と思われる別のおじいちゃんと二人で持ち上げたりしているおちゃめな写真をたくさんアップしています。私は写真を見るだけでコメントをつけたりはしません。日々を幸せそうに暮らしているおじいちゃんを眺めるというのは私の理想です。
■外から、ひっそりと愛でる、いわゆる「萌え」の部類に入る存在?
ちょっと違いますが、自分とは離れた外側から眺めていたい存在です。電車のなかで、ちょっとした仕草が可愛いおじいちゃん、所作が素敵なおじいちゃんがいると嬉しくなりますね。ただ、間違われたくないのが、私は「枯れ専」というわけではありませんので、おじいちゃんに恋愛感情は抱いていません。
映画以外では、落語に興味があるというミノワさん。そのうち落語家版おじいちゃん本も執筆か?!/撮影:弓削ヒズミ
■これから、邦画・洋画問わず、「おじいちゃん」として期待している俳優はいますか。
邦画は観ておらず、日本人の俳優さんはわかりませんので、洋画のみで挙げてみます。『英国王のスピーチ』(2010)『キングスマン』(2014)などに出演しているコリン・ファース(※3)です。優しげなお顔立ちとすらっとした長身、英国紳士とはまさにこの人という雰囲気が良いです。今はまだ「素敵なおじさま」ですが、これから渋味がもっと出てくるのではないかと思っています。
(※3)コリン・ファース
1960年9月10日生まれ。TVシリーズで英国スターとして有名になった後、スクリーンデビュー。主な作品『シングルマン』『英国王のスピーチ』など。
また、惜しくも亡くなってしまいましたが、『カポーティ』『ザ・マスター』などに出演しているフィリップ・シーモア・ホフマン(※4)も、エキセントリックなおじいちゃんになりそうだと思っていました。
(※4)フィリップ・シーモア・ホフマン
1967年7月23日生まれ、2014年2月に逝去。1991年に映画デビュー。『ザ・マスター』でヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞。
1月13日、下北沢「本屋B&B」で行われた出版記念トークショーには、たくさんの人が訪れた。出版に至るまでの裏話や、未掲載おじいちゃん俳優の話で盛り上がる/撮影:弓削ヒズミ
■これから「おじいちゃん」になっていく方へ、参考になりそうな、おすすめの映画作品はありますか。
クリント・イーストウッド(※5)の『グラン・トリノ』(2008年)です。いつも怒っているような頑固なおじいちゃんが、隣人と仲良くなっていき、彼らを守るために一肌脱ぐ映画です。筋を通すことの格好良さと、失うもののない強さがあります。私の好きなシーンは、イーストウッド演じるおじいちゃんが、隣の家に食事に誘われて、ごはんをいっぱい食べさせてもらったら機嫌がよくなっちゃうところです。そういう単純な可愛らしさがいいですね(笑)
(※5)クリント・イーストウッド
1930年5月31日生まれ。1954年に俳優デビューし数多くの作品に出演し、『ダーティーハリー』シリーズが有名。現在は、映画監督、プロデューサーとして活動している。
『グラン・トリノ』予告編 (C)2009WarnerBros.EntertainmentInc.Allrightsreserved.
また、同じくクリント・イーストウッドの『スペースカウボーイ』(2000年)は必見です。物静かだったりプレイボーイだったりと色々なタイプのおじいちゃんが出てきます。若い者には負けられんぞと張り切る様子や、とても達成できそうにないことをやってのける格好良さがあります。
現実的なところでは、トミー・リー・ジョーンズ(※6)とクリス・クーパー(※7)が出演している『カンパニー・メン』(2010年)がおすすめです。リストラされたおじいちゃんたちのお話です。仕事人間が職を失ったときに襲われる不安やストレスを丁寧に描いています。そこからどう這い上がっていくのかは、人生のお手本になるかもしれません。
(※6)トミー・リー・ジョーンズ
1946年9月15日生まれ。いまはコミカルな演技の缶コーヒーCMでおなじみ。主な作品『JFK』『逃亡者』『メン・イン・ブラック』など。
(※7)クリス・クーパー
1951年7月9日生まれ。ブロードウェイなどの舞台で活躍し、1987年に映画デビュー。名脇役として数々の作品に出演。主な作品『アメリカン・ビューティー』『アダプテーション』など。
■ほかに、こんな、おじいちゃんは格好いいと思うのは。
先ほど挙げた『スペースカウボーイ』の前半部のように、若い奴らに負けられんぞと、躍起になる、おじいちゃんたちの姿もイイと思いますが、気持ちだけでいっちゃうのもキツイと思うんですよ。歳をとっていけば、足腰が痛い、目が見えにくい、耳が遠くなる、身体の自由がきかなくなってしまいます。無理して頑張ってしまうよりは、そのまま老いることを受け入れて、流されるのもいいんじゃないかなと思います。
トークショーが終わり、一人ひとりと談笑しながら著書にサインをするミノワさん/撮影:弓削ヒズミ
映画話がとまらず、楽しいインタビューでした。『いとしのおじいちゃん映画 12人の萌える老俳優たち』では、もっとディープで、熱量たっぷりと、おじいちゃん俳優たちを語っているので必読です。たぶん、読後には、ここに書かれている映画を観たくなることでしょう。私もインタビュー資料としてではなく、ひさびさに見返す映画もたくさんありました。
文・写真=弓削ヒズミ(編集部)2017年1月取材
■ Profile ■
ナイトウミノワ(ないとう・みのわ)
1976年岐阜県生まれ。おじいちゃん評論家。ウェブデザイナーとして働きながら、日々素敵なおじいちゃん俳優を探しています。
[ブログ]映画感想*FRAGILE
[ブログ]おじいちゃん映画
【著書紹介】
『いとしのおじいちゃん映画 12人の萌える老俳優たち』
著者:ナイトウミノワ/発行:立東舎(発売:リットーミュージック)/定価:本体1,600円+税
発売:2016年12月19日/仕様:四六判224ページ