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土と戯れ、器に心を映す、陶芸体験

定年退職後に始めてみたいことの一つに「陶芸」を挙げる人はたくさんいます。じっくりと時間をかけて作品づくりを行ったり、手作りの茶碗やお皿を日常で使ってみたり、何より自分がロクロを回す姿に憧れたことはありませんか? そこで、実際に陶芸を教えている窯元まで行って取材してきました。

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一度はやってみたい、ロクロを使った焼き物づくり/撮影:弓削ヒズミ

益子の陶房へ通いながら陶芸を学ぶ

今回、取材で訪れた窯元は、益子焼で有名な栃木県芳賀郡益子町にある陶芸作家・河原建雄(かわはら・けんゆう)さんの陶房「壺中庵」です。現在、河原先生の元には、月に数回、窯元に通いながら陶芸を学ぶシニアがいらっしゃいます。県内は元より、東京をはじめ、関東近県からも習いに来るそうです。

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陶房「壺中庵」の前で出迎えてくれた益子焼の匠・陶芸作家の河原建雄さん/撮影:弓削ヒズミ

河原先生が、弟子以外の一般の人に陶芸を教えるようになったのは15年ほど前から。それまでは、教えることに抵抗感があり、趣味としている人と、弟子に教えるのでは、教え方が違い、最初は、どこまで教えていいのかわからなかったといいます。

「弟子の場合は、10年先を見据えて、わざと失敗させるような教え方をするのですが、一般の人には、失敗しないように教えないといけません。その教え方の線引きに迷いました。でも、いまは、せっかく来ていただいているので、焼き物づくりを楽しんでもらうことを大事にしています」

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陶房の脇にある立派な穴窯の前で話す河原建雄さん/撮影:弓削ヒズミ

この日、習いに来ていたのは、栃木県内にお住いの田尻茂人さん(68歳)。田尻さんと河原先生は40年ほどの付き合いがあるのですが、陶芸は4〜5年前から始めたそうです。「これまでは、陶芸体験をやりたいという知り合いを『壺中庵』に案内していましたが、見ているうちに楽しそうだなと思ったのと、ここを紹介した知り合いから、田尻さんは、かなりの腕前なんでしょ、なんて言われてしまって」と照れくさそうに話してくれました。

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左が田尻茂人さん(68歳)。不定期に河原先生の元で陶芸を習い、もう4~5年という/撮影:弓削ヒズミ

その田尻さんの初めての作品は小皿でした。しかし、最初から小皿を作ろうとしたわけではなく、結果的に小皿になってしまったそうです。
「やってみたら、思ったより難しかった。それでも、丁寧に教えてくれるので、よくできたと思います」と、田尻さんは、いまも定期的に、河原先生のところへ通い、楽しみながら作品づくりを続けています。

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穴窯の仕組みについて説明している河原先生/撮影:弓削ヒズミ

作った人の人生観が見えてくる

河原先生は、一般の人に陶芸を教えるようになってから、いろいろな発見があったといいます。

「出来上がった作品を見ると、一人ひとり違うんですよ。その作った人の人生観が見えてくる気がします。同じ教え方なのに、出来上がるものは全然違う。その違いが、その人の持っているものなんだなと思いますね」

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河原先生の説明後、ロクロを使った作品づくりを始める田尻さん/撮影:弓削ヒズミ

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指先のちょっとした動きで、粘土の形が変化する。静かな作業場に緊張が張り詰める/撮影:弓削ヒズミ

河原先生は、趣味で陶芸を始める人にとって「益子焼」はおすすめだといいます。益子焼は、江戸時代末期に笠間で修行した大塚啓三郎が窯を築いたことに始まると言われ、東京に近いことから、鉢、水がめ、土瓶など日用の道具の産地として発展をとげた焼き物です。

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陶房の中は広く、制作過程ごとに道具が並ぶ。まさに職人の城/撮影:弓削ヒズミ

「益子焼は、備前、唐津などに比べると、歴史が浅く、あまり伝統もありません。伝統がないということは、逆を言えば、自由な発想で焼き物を作ることができるのです。陶芸は、高台(こうだい)、胴、肩、口のポイントだけが出来ていれば、なんとか形にはなります。あとはバランスです」

「一般的には、左右対称のきれいな形がいいと思われていますが、でも、私は左右均等ほどおもしろくないと思ってます。歪んでいてもバランスさえとれていれば、一つの作品として成立するんですよ。そのバランスの『美』というものを、みなさんに教えられたらと思ってます」

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ご自身の作品を例に、バランスについて語る河原先生/撮影:弓削ヒズミ

陶芸は、見えないところに神経を使え

陶芸の上達には、美術館や博物館に展示されている国宝や名品といわれる、いい作品を見ることだといいます。陶芸の定義とされているものを知ることは大事だそうです。

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テラスでお茶を飲みながら、ちょっと、ひと息。/撮影:弓削ヒズミ

また、陶芸は、見えないところに神経を使えといいます。

「陶芸家・濱田庄司(※)は、見えないところに神経を使えと言っています。表面の見えるところは、どうでもいいんだと。私の師匠は濱田庄司の弟子だったので、よく言われましたが、壺であったら、見えない内側で形を作れと教わりました。内側が出来れば、外側の形は自ずと出来ると。外側を先に作ってしまうと、内側で厚いところや、薄いところが生まれ、壺としては使えないものになってしまいます」

※濱田庄司(はまだ・しょうじ)
昭和に活躍した日本の陶芸家。1930年から益子町で作陶を始め、日用品の中に「用の美」を見出す「民芸運動」に尽力した。紫綬褒章、文化勲章を受章する。1894年生 – 1978年没

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益子の自然豊かな土地に囲まれた陶房では、日々、作品が作られている。年に1度、作品数が揃ったら、穴窯に火を入れる。火を入れたら、写真左下の薪をすべて使いきるという/撮影:弓削ヒズミ

陶芸は、時間よりも回数

不定期に通っていても、上達するものなのか聴いてみました。

「陶芸は『時間よりも回数』です。パイロットのように何時間フライトしたかという時間の長さよりも、何回離着陸したのか、作陶した回数の方が大事です。1回あたり30分程度でも全然違います。回数を重ねただけ上手くなっていきます」

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新しい作品に取り掛かっているのかと思いきや、昼食のピザを作りはじめた河原先生。味の決め手であるトマトソースも自作したそうだ。粘土ではなく、生地を伸ばす姿は微笑ましかった/撮影:弓削ヒズミ

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さらに驚くのはピザ窯を自分で造ってしまったという河原先生。ピザのレシピは、以前、飲食店に食器を下していた時にシェフから教わったという本格的な味/撮影:弓削ヒズミ

陶房「壺中庵」のある栃木県芳賀郡益子町までは、東京から自動車で2時間〜2時間半程度。日帰りでも充分に通える距離です。日曜、祝日には、陶器市などのイベントがあったり、今回取材したように紅葉の季節には美しい風景を愛でるには、絶好のポイント。ちょっとした小旅行を兼ねて、陶芸を習いに行く楽しみもありそうです。

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「益子の人は誰でも受け入れてくれますね」と語る河原先生/撮影:弓削ヒズミ

「この益子という土地は、誰でも受け入れてくれる風土で、他所から来た人に対して、とても寛大です。益子焼の作家は、他所から移って来た人が多く、地元の人は、そんな作家のために、窯を構える土地を貸してくれたり、粘土を採掘させてくれたり、とても協力的です」

益子の良さは、自然環境だけではなく、人の温かさも魅力のようです。

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最後に河原先生と田尻さんで記念撮影/撮影:弓削ヒズミ

河原建雄さんの「壺中庵」では、陶芸教室として募集をしているわけではありませんが、事前に連絡をもらえれば、陶芸体験を行ってくれるとのこと。直接、陶芸作家から手ほどきを受けられる機会は貴重です。ぜひ、一度、益子に行ってみてはいかがでしょう。

文・写真=弓削ヒズミ(編集部)2017年11月


■ Profile ■
河原建雄(かわはら・けんゆう)

1951年、栃木県茂木町生まれ。陶芸家。1969年に大塚貞夫氏の元で陶芸を始める。1983年「朝日陶芸展」入選、1985、1990年「日本伝統工芸展」入選、都内でも個展を何度か開催。2012年には陶房内に「壺中庵」を開く。

河原建雄陶房&壺中庵
栃木県芳賀郡益子町大沢3641
TEL.0285-72-0302 FAX.0285-72-4478
http://www.kochuuan.com/

※壺中庵へお越しの際は、予めお電話にてお問い合わせください。

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