健康な体づくり
「放っておくと危険!嚥下障害を疑う9つのセルフチェックと予防法」
「嚥下(えんげ)障害」とは、飲食物を上手に飲みこめない状態のこと。食事の楽しみが減るだけではなく、放っておくと命を脅かす病気を招くおそれがあります。この記事では高齢者や現在、介護をしている人に向けて嚥下障害の特徴やセルフチェック、予防法を解説します。
嚥下障害とは
嚥下障害とは、飲みこむことが難しくなる障害です。高齢になるほど食べ物や水分が摂れなくなる人が多くなり、最悪、命を脅かす病気を招くことがあります。
厚生労働省の発表によると、肺炎患者の約7割が75歳以上の高齢者で、そのうち7割以上が「誤嚥性肺炎」です。嚥下障害は、その誤嚥性肺炎を招く要因にもなります。
嚥下とは口の中で食べ物を咀しゃくして、飲みこみやすい大きさにしたものを、胃の中へ送りこむ動作のことです。無意識で行っているこうした飲みこみの動作を上手くできないと嚥下機能が低下している可能性があります。
嚥下機能が衰えてくると「低栄養や脱水を起こす」、「食べ物が喉に詰まって窒息する」といった危険が高まります。
まずは嚥下障害の疑いがあるかどうかをセルフチェックしてみましょう。
嚥下障害、9つのセルフチェック
□食事中に、よくむせる
□唾液が口の中にたまる、よだれがでる
□以前は問題なかったものが、飲みこむのに苦労するようになった
□固いものが噛みにくくなった
□舌に白い苔のようなものがついている
□声が変わった(がらがら声)
□(食後しばらくたって)咳をする
□食事を残すことが多い(食べる量が減った)
□体重が減った(目安:この1か月で5%以上、半年で10%以上)
いかがでしょう?このチェック項目は、東京都福祉保健局が公表しているものです。嚥下障害のサインは食事をしている時以外に見られるものもあります。
高齢者と一緒に生活している人もサインを見逃さないようにしましょう。
嚥下障害セルフチェックの解説
前述のチェック項目を詳しく解説していきます。
①食事中に、よくむせる
食事の際、頻繁にむせている方は要注意です。とくに味噌汁やお茶などの水分、また水分と固形物の入り混じった食べ物がむせやすい場合は嚥下障害を疑う重要なサインです。むせるのを避けようと、水分を多く含むものを取らなくなると脱水症状につながります。
②唾液が口の中にたまる、よだれがでる
唾液は会話中や食事をしているときに多く分泌されます。食事のとき以外に分泌されてきた唾液は口の中にたまり、ある程度の量になると飲みこまれます。しかし飲みこみの反応がうまく起こらないと口の中に次第に唾液がたまり、よだれがでたりします。
③以前は問題なかったものが、飲みこむのに苦労するようになった
固くて噛みにくいものは食べ物でも飲みこみにくいものです。しかし以前は問題なく飲めていたものが、かなり意識をして飲みこまなければいけなくなった場合は嚥下障害の疑いがあります。また、食べ物の通過路に腫瘍などができて飲みこみが悪くなるケースもありますので早めの診断をおすすめします。
④固いものが噛みにくくなった
例えば入れ歯が合わないときも固いものは噛みにくくなります。しかし、気をつけたいのは噛むための筋肉の衰えや、巧みな動きが難しくなり噛みにくい症状が起こることです。固いものが噛みにくくなると麺類などの柔らかいものを好むようになります。その結果、栄養が偏り、低栄養につながります。
⑤舌に白い苔のようなものがついている
舌の上に白く苔のようにつく汚れを「舌苔(ぜったい)」といいます。舌苔は食べ物を咀嚼するときや、嚥下するときの舌の機能が十分でないと付着してきます。唾液の分泌量が極端に減少しているときにも付着するので要注意です。
⑥声が変わった(がらがら声)
声質の変化も嚥下障害でよく見られます。喋ることと食べることはほぼ同じ器官を使って行われています。痰がからんだようなガラガラ声になった場合には、のどにうまく飲みこむことができなかった食物や唾液がたまっていることがあります。
⑦(食後しばらくたって)咳をする
食後しばらくたって咳がでることがあります。これはうまく飲みこむことができなかった食べ物がのどに残り、食後しばらくしてから気管の方に落ちこむことがあるからです。体を動かしたり横になると咳きこむ場合、口の中にたまってきた自分の唾液をうまく飲みこめていないことも考えられます。
⑧ 食事を残すことが多い(食べる量が減った)
うまく食べたり飲みこめないと食事を残しがちになります。そして食事に時間がかかるようになります。すると食事を楽しめないため、食べる意欲が低下して、必要なエネルギーや栄養を摂ることがむずかしくなります。
⑨体重が減った(目安:この1か月で5%以上、半年で10%以上)
しっかりと食べることが出来ないと食事の量が減り、低栄養状態になって体重が減っていきます。嚥下障害のチェックでは徐々に体重が減ってくることにも注意しましょう。1ヵ月に体重の5%以上、半年で10%以上の変化は栄養状態にとって問題のある変化となります。
嚥下障害による「誤嚥性肺炎」に注意しましょう
嚥下障害などが招く「誤嚥性肺炎」は、高齢者の死亡原因としても多くの割合を占めています。
誤嚥性肺炎は、嚥下障害のため唾液や食べ物、あるいは胃液などと一緒に細菌を気管に誤って吸引することにより発症します。気管に入った細菌が肺に送りこまれると中で炎症を起こし、激しく咳きこんだり高熱が出たりといった症状が現れます。
寝ている間に発症することも多く、高齢者では命にかかわることもあります。また一度誤嚥性肺炎にかかると繰り返してしまう可能性が高くなります。
嚥下機能アップ!自宅トレーニング
嚥下障害にならたいための、自宅で簡単にできるトレーニングを紹介します。無理をせずに毎日継続することで嚥下機能のアップや誤嚥の予防に効果を発揮します。
①顔や首、口周りのマッサージ
リラックスした状態で首を前後左右に倒したり回して筋肉をほぐします。首などの筋肉が固まっているとスムーズに食べ物を飲みこめないことがあります。
また顔の頬も、食べたり飲みこむためには重要な部分です。頬をふくらませたり引っ込めたりを繰り返すことで口の動きに必要な筋肉を鍛えられます。
②呼吸トレーニング
呼吸に使う筋力を鍛えることも効果があります。腹式呼吸の練習を行ったり、大声で歌うことも予防の役割を果たします。呼吸機能がアップすると、食べ物がのどにひっかかったときでも外に出す力が高まります。
③発声トレーニング
嚥下に関わる気管を動かすために効果的なのが「ピ・タ・カ・ラ」の4音を大きな声で繰り返し発音することです。「ピ」と「タ」で唇と舌の筋力を鍛えます。「カ」は食道につながる、のどの奥を動かします。そして「ラ」は食べ物をのどに送るスムーズな舌の動きを鍛えてくれます。
嚥下障害で受診する診療科は
嚥下障害の疑いがある方は、近くの歯科や耳鼻咽喉科、嚥下障害専門外来を設けている医療施設などで受診しましょう。
摂食・嚥下障害専門のリハビリテーション科などもあるので緊急性が低い場合はかかりつけ医に相談して、受診すべき診療科を尋ねるとよいでしょう。
治療法としては、リハビリで嚥下機能を改善する方法や手術で嚥下機能を取り戻す方法があります。
最近、慢性的に「むせる」「飲みこめない」「咳がでる」などの症状がある方は早めに医療機関で相談しましょう。
文=大屋覚
≪参考ウェブサイト≫
■ Profile ■
大屋覚(ライター/介護福祉パフォーマー)
医療、介護、福祉を中心に取材や執筆を行う。またケアワーカーとして介護福祉の支援事業に取り組み、現場発信のパフォーマンス活動も展開している。早稲田大学・同大学院修了(博士後期課程退学)。