社会の知識を学ぶ
そろそろ遺言でも書いておくか…と思ったら?
たそがれゆく空を眺めながら、フ……と、こんなことを思う人もいるかもしれません。 いまのうちに遺言でも書いとくか――。 しかし、みなさん、遺言は、徒然なるままにしたためていい、というものでもありません。 後々、モメ事にならないためにも、どこで、何を、どう書くかが、とても重要になるらしいのです。
イラスト:弓削ヒズミ
私はエンディングノートに、すべて書いてあるから大丈夫。
そんなふうに思っている人もいるかもしれませんが、実は、「エンディングノート」には、法的な効力はありません。
長男のやつは生意気だから、かわいい次女に財産のすべてを残そう。
なんて思って、その旨をノートに書き残しても、法的には、まったく拘束力がないのです。
特に、後でモメることが予想される相続遺産の分配などに関して、特段の希望がある場合には、それを遺言書にしっかりしたためておく必要があります。
「遺言書」は、そういう遺言者の意思を正確に伝えるための文書です。それを法的に有効な文書として取り扱うためには、書式などについて定められた厳格な決まりを守る必要があります。
録音や動画はNG、定められた方式の書面で残す。
「ダメ。これ、無効!」となる代表的なものが、録音テープやビデオ動画におさめた遺言です。いくら手軽だからと言って、
オーイ、寅。うちの財産は、
おまえなんぞにはビタ一文残してやんねェからな?。
なんぞとビデオレターよろしく吹き込んでおいても、法律上は、何の効力も持ちません。ただの遺品扱いとなるのがオチです。
遺産相続などについて、特別の意思がある場合には、それは、必ず書面として残しておく必要があるのです。
その書面をどうやって残すか?
これには、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種があります。それぞれの概要、メリット・デメリットを簡単に紹介しておきましょう。
撮影:編集部
法的に有効な遺言書は、この3種
?自筆証書遺言
遺言者自身で全文を手書きし、押印して作成する遺言書です。パソコンやタイプライターによる作成は無効。
《メリット》
・自筆なので、費用や時間がかからない。
《デメリット》
・相続内容が複雑で誤解を招くような記述、記入方法に不備があると無効になる可能性も。
・裁判所での「検認」手続きを行う必要がある。
?公正証書遺言
遺言者が弁護士や法律の専門家による公証人と一緒に作成する遺言書。法的に整理された書面なので安心です。
《メリット》
・自筆に比べて法的に安全確実。
・改ざんなどの心配がない。
《デメリット》
・作成する費用と時間がかかる。
・証人2人の立会いが必要。
?秘密証書遺言
遺言者が遺言内容を記載した書面に署名、押印(書面は自筆でなくパソコンで作成したり、第三者の筆記でも可)。その遺言書を封印し、公証人に提示して所定の処理を行います。内容を秘密にできるのが特徴です。
《メリット》
・遺言書が本人のものと明確にできる。
・遺言書の内容をだれにも公開することなく秘密にできる。
《デメリット》
・公証人の手数料がかかる。
・本人しか内容を把握していないので内容に不備の可能性がある。
・裁判所での「検認」手続きを行う必要がある。
「遺言書」だけが遺言の残し方ではありません
「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」には、上記のように、いずれも善し悪しがあります。まわりに法律に詳しい人がいるようなら、一度、相談してみるのも、ひとつの方法でしょう。
「遺産相続」に関しては、きちんと法的な遺言書を残しておき、愛する配偶者や子どもたち、親族へ遺すメッセージは、「エンディングノート」や「ビデオメッセージ」に残す――というふうに、メディアを使い分けるのも、現代らしい工夫ではないかと思います。
編集部・シゲP記者
70代のじいちゃん記者。長年、編集者として数々の書籍やムックの出版に携わり、いまは執筆者として多くの作品を発表。いまだ現役としてアクティブに活躍している。