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相次ぐ台風、豪雨、土砂災害…今から間に合う、高齢者に必要な5つの防災対策

日本では毎年、台風や豪雨による土砂災害や河川の氾濫などが相次ぎ、死者、行方不明者を伴う甚大な被害が発生しています。自然災害で停電や避難生活に至った場合、高齢者ならではの必需品があります。今回は、通常の防災グッズに加えて、今からでも備えておきたい「5つの防災対策」を紹介します。

自然災害で避難所生活を送ることも増えています/画像:写真AC イラスト:イラストAC

犠牲者の多くは高齢者

自然災害が頻発する日本では、これまで多くの高齢者が犠牲になっています。阪神・淡路大震災では、県内死者の約半数が65歳以上の高齢者でした。また、平成30 年の7 月豪雨や令和元年東日本台風の災害においても、犠牲の多くは高齢者に集中していました。

在宅医療や介護を利用する方が増える中、自然災害が発生し自宅以外の場所で避難生活を送ることになると、環境の変化やストレスで症状が悪化してしまうことも考えられます。

すでに自然災害に備えて防災グッズを備えている方も多いと思います。例えば、水や非常食などが定番ですが、現在では自治体の災害対策も充実しており、数日以内に救援物質が届くことも珍しくありません。

もちろん水や非常食の備えも大切ですが、高齢者特有の防災対策を講じることでリスクは軽減され安心感は高まります。そのためには「今できることを準備」して「いざという時にやるべきことをイメージ」しておくことが重要です。

避難勧告レベルの変更

5段階の警戒レベルを確認しましょう/無料写真素材 写真AC

集中豪雨や台風になどによって水害や土砂災害が発生するおそれがあるとき、どのタイミングで避難するのかを知っておくことは重要です。

2018年の西日本豪雨の教訓を活かして、国は2019年から大雨の際に発表される防災情報を5段階のレベルに分けました。これは住民の「逃げ遅れゼロ」を目指したものです。

とくに重要なのはレベル3です。レベル3では市町村が「避難準備・高齢者等避難開始」を発表する状況を指しています。高齢者や障害のある方など避難に時間を要する人は、この段階での避難することを求めています。また、レベル3では避難を支援する人なども危険な場所から安全な場所へ避難するよう求められています。

出典/政府広報オンライン

尚、レベル4では市町村が「避難勧告」や「避難指示」を発令。住民の全員が避難を開始するとともに避難を完了することが求められます。そしてレベル5では既に災害が発生している状況となります。

高齢者に必要な5つの防災対策

大規模な自然災害が発生して停電になったり、避難所生活を送ることになると生活は大きく変わります。環境の変化は高齢者や介護が必要な方にとって大きな負担です。

ここでは意外と見落とされがちな高齢者の防災対策をまとめてみました。必要な準備は整っているでしょうか?

①災害に備えた「薬」の用意

複数の薬を飲んでいる高齢の方は多いです。災害状況によっては薬がなかなか手に入らないことも考えられます。例えば、血圧や血糖をコントロールするなど疾患によっては必要不可欠な薬もあります。

医師や薬剤師と相談して災害に備えた量を確保しておきましょう。また、服用履歴や健康状態の情報が一目で分かるのが「お薬手帳」です。避難時には「お薬手帳」を忘れずに持ち出せるように日ごろから管理しておくことが大切です。

②非常用電源の確認

災害時に停電になる可能性は高いです。暗闇での移動は転倒の危険を高めます。人工呼吸器、たん吸引機など電源が必要な医療機器を使っている方は、停電したときの対応方法を確認しておくことも大事です。

家庭用の非常用電源はいざという時に役に立ちます。非常用電源がない場合でも医療用機器には必ず非常時の使用法が書かれているはずです。こちらの使い方もきちんと覚えておきましょう。

杖や車椅子など福祉用具を使用されている方は、レンタル元や製造している会社に非常事態が起きた場合、どうすれば良いかのかを聞いておくと安心です。災害時には平時では考えられないことが起こるので緊急連絡先をまとめてメモしておきましょう。

③保険・共済のチェック

大災害が発生した場合、住宅の修理や建て替えにかかる費用は大きなものとなります。公的な支援金だけでは住宅や生活再建には十分な金額とはいえません。

スムーズに住宅や生活を再建するためには、保険・共済に加入するなどの「自助」による備えが重要です。風水害や土砂災害を補償する保険・共済に加入していれば損害の程度に応じて保険金・共済金が支払われます。

ただし加入する金額や契約の内容によっては、住宅を元通りに再建するための費用の全額が支払われないこともあります。既に加入している方も補償対象・内容が十分か見直してみましょう。

また保健・共済の契約内容や契約会社すら忘れている方も少なくありません。自身が入っている保険証などのコピーは防災グッズの中に入れておきましょう。

④「ないと困るもの」を確認

日常生活で「ないと困る物」は人それぞれです。避難情報が発令されてから慌てて詰めている時間など殆どありません。

日ごろからリストアップして少し多めに購入しておくと安心です。貴重品と併せて準備しておきましょう。また、家族・親族間で非常時の連絡方法、連絡先、避難場所・経路などを共有・確認しておくことも大切です。「171災害用伝言ダイヤル」などのサービス方法も覚えておきましょう。

⑤ご近所付き合い

大規模災害時の救助や避難で何より力を発揮するのは、普段からの近所付き合いです。過去の災害時においても近隣、地域のネットワークによって助けられた事例は数多くあります。

高齢になると外出が億劫になったり、都心では近所付き合いが希薄になる傾向があります。しかし自治会などの行事に参加をすれば、隣近所の状況も分かり地域の防災情報を得ることもできます。

防災訓練では安否確認や救出・救護、炊き出しや避難訓練、避難所生活なども体験できます。災害被害を軽減するためには地域のつながりがとても重要です。

地域活動への参加は最大の防災対策/無料イラスト素材 イラストAC

ハザードマップを確認しましょう

自分たちが住んでいる地域の災害リスクを知ることは、身を守るために何より重要なことです。特に水害や土砂災害は地形による影響を大きく受ける災害です。

地域の災害リスクを調べる方法として一般的なのは「ハザードマップ」です。河川が氾濫した場合には何メートル浸水してしまうのか、土砂災害が起こりやすい場所ではないか、自宅や学校・職場など良く立ち入り場所には、どのような危険があるのか確認しておきましょう。

地域の災害リスクを調べてみましょう

あらかじめ自分が住む地域の災害リスクを知っておくと、災害が発生した際に避難した方がいい地域なのか、そうでないのかが分かり、生存に繋がります。また災害発生時には大勢の人がサイトを訪れるため、アクセスが集中してWebページが開かない・見られないという事態もあり得ます。今すぐにでも確認しておきましょう。

国土交通省が公開しているハザードマップを以下に記していますので、一度も見たことのない方はご参考ください。

国土交通省ハザードマップポータルサイト(国土交通省)


余裕があるうちに目を通しておきたいハザードマップ/無料写真素材 写真AC

地域の災害リスクや事前準備のための情報を知ることが大事です。内閣府や国土交通省、気象庁、自治体などでは様々な情報をホームページなどで公開しています。時間に余裕があるうちに目を通しておくことをおすすめします。

最近では「重ねるハザードマップ」という災害ごとに調べなくても、自分の家がどの災害が起こると危険かをまとめて見られるサイトがあります。

国土交通省ハザードマップポータルサイト(国土交通省)

重ねるハザードマップ(国土交通省)

災害が発生した場合、個人の力だけで対処するのは限界があります。高齢者の中には自分で何とかしようと考える方も少なくないのですが、やはり「最大の防災対策」は近隣住民と日頃からコミュニケーションをとって信頼関係を築いておくことだと思います。いざというときも「あそこのお宅、大丈夫かしら」という早期の気づきが、救助へとつながるのではないでしょうか。

文=大屋覚

■ Profile ■

大屋覚(ライター・介護福祉アナリスト)
高齢者、障がい、保育の現場に携わり問題解決のサポートを展開。Webメディアやテレビ、書籍など数多く担当。早稲田大学・同大学院修了。

≪参考≫

政府広報オンライン

国土交通省「防災」

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