活躍の場を探す
近所づきあいを自分たちの手で
自由にプロデュース
近所の井戸端会議からはじまった10年続く「ご近所イベント」。関心はあるけど、わずらわしさもあると思われている「近所づきあい」を、自分たちでプロデュースして楽しむ方法。
「炊き出しのリハーサル」がきっかけに
山田泰雄さん(71歳)は、内閣府の政策広報の仕事を退任したあと、メディアプロデューサーとして本を執筆し、好きな読書や孫の世話をしながら、ときには友人と小旅行に出かけ、得意な料理の腕をふるうという毎日を送っています。
毎年9月には、近所の仲間と協力して、「震災炊き出し体験イベント」を開催していますが、その費用は、「ガレージセール(バザー)」でつくり出しているそうです。10年経った今では、すっかり定着して、地域の風物詩となっているようです。
山田さんの奥さんが遺してくれた「近所の仲間」と、いつものように立ち話をしていたら、突然、「地震が起きたら、どうしよう」という話になったそうです。これがきっかけとなって、ご近所主催のイベントは、スタートすることになるのです。
「電気やガスが使えなくなることを想定して、『炊き出し』のリハーサルになるようなことができればいいな、という話をしているうちに、炭火でさんまを焼くとおいしいよね、と誰かが言った言葉がヒントになった(笑)」(山田さん)
7月に伺ったときには、庭先でプラムが色づいていました
10軒の家族が集まって、1人2匹分のさんまを七輪で焼きながら、鉄板で肉や焼きそばを焼く。そうなると、食材を揃えるための資金が必要です。
お金を出しあえば済む話なのですが、それでは数回のイベントで終わってしまうかもしれない、山田さんがそう考えていると、
「ガレージセールをすれば、それもイベントになっておもしろい」と誰かが言って、「だったら、神社の秋のお祭りの日に合わせようか」となりました。
神社のお祭りで、ご近所主催の「ガレージセール」
神社は山田さんの家を出た、すぐのところにあります。秋のお祭りには、1丁目から、丁ごとにおとな御輿や、こども御輿が出て、宵宮と本宮の2日間は、閑静な住宅街が一気に賑やかになるそうです。角の家のガレージが、神社の前の道をはさんだ目の前にあり、その家の人がガレージを提供すると言ってくれて、ガレージセールの場所はそこに決まりました。
「ひとつ300円から500円くらいの値段をつけた品物のなかには、新品の革のジャンパーやブーツ、大きな火鉢などもあって、2日間で7?8万円もの売上げに」(山田さん)
近所の蕎麦屋さんが閉店するときには、捨てられそうになっていた蕎麦猪口をもらいうけ、引越しをする人がいると聞くと、ガレージセール用に不要なものをもらうなど、毎年、それぞれが工夫して品物を集めてくるようになりました。
左:秋の空にビーチパラソル 右:焼きおにぎりも
震災炊き出し体験イベント(別名さんまパーティー)は、ガレージセールの2週間後の休日に行います。おにぎりや唐揚げ、ビール、ワインなどが近所から差し入れられて、私道のスペースは、まるで縁日のような雰囲気になります。ガレージセールの品物を進呈してくれた人や、売るのを手伝ってくれた人も招待して、毎年50?60人くらいの人が集まってくるそうです。
七輪の上に、秋の味覚の王様、さんまを2匹。うちわであおぎながら焼くうちに、辺りによい匂いが漂いはじめます。
近所からの差し入れでテーブルの上はいっぱい
七輪でさんまを焼く山田さん
イベントで、世代の引き継ぎも自然に
「もし、災害が起こったときには、人数制限のある避難場所へ行くより、この場所に戻ってきて助け合って乗り切ろう、それが、みんなの共通の思い。今では、このイベントに、こどもたちや、そのこどもたちも集まってきていて、世代の引き継ぎもうまくいきそうです。仲がよいけど、家の中まで入り込むようなベタベタした関係ではないところも長続きの秘訣かな」(山田さん)
戦後の文化は自分たちがつくってきた、という自負心を持っているのが団塊の世代。
「会社は退いても、まだまだ元気。自分たちのしていることが、いつか誰かの役に立つことがあるかもしれないという思いを持つことで、社会に関わっているという喜びや充実感に繋がっている。ライフワークで本や絵本をつくっているのは、自分の存在のアピールなのかもしれない。でも、そうした一つひとつが、励みになっている」とも。
家族の一員だった柴犬がモデルとなった絵本、『柴犬メイのひとり旅(仮題)』(株式会社ENP刊)を出版予定です。
文=水楢直見(編集部)2016年7月取材