健康な体づくり
諦めたら損!?腰、ひざ、股関節の痛み~名医が教える痛みの危険性と対処・治療法【前編】
腰、ひざ、股関節の痛みに悩まされる高齢者は多いです。そのまま放置すると痛みや変形で歩けなくなったり、転倒して骨折する危険性もあります。年間1,000件以上の手術を成功させ、「整形外科のゴッドハンド」と称される宇都宮記念病院副院長の三輪道生(みわ みちお)医師に腰、ひざ、股関節の故障で気をつけることや対処法を伺いました。
簡単!腰痛セルフチェック
「腰痛」は誰もが経験するものですが、慢性的な腰痛に悩む人も少なくありません。一時的な腰痛は炎症や疲労によることもありますが、慢性的な腰痛は、骨粗しょう症による圧迫骨折や、脊柱管狭窄症など、治療を必要とする疾患がベースに存在する場合もあります。
特に坐骨神経痛を伴う腰痛は歩けなくなったり、足に力が入らなくなってしまう可能性もあり要注意です。また中には腰の症状はなく長く歩けないだけのものもあり、悪化すると歩けなくなってしまうこともあります。
さらにギックリ腰のように突然激痛に見舞われ、何週間か寝込んでしまうことを繰り返す人もいます。これにもたいていは原因があり、その原因がわかれば治療も可能です。
まずは腰のセルフチェックをしてみましょう。
□腰痛がなおらない
□ギックリ腰を繰り返す
□歩いていると腰が曲がる
□つま先立ちができない
□肩の高さが左右で違う
□疲れて長く歩けない
□陰部がしびれている
□足首に力が入りにくい
□坐骨神経痛がある
□圧迫骨折をした
□骨粗しょう症である
チェックリスト:三輪道生医師 作
三輪医師:チェックリストで2つ以上当てはまる方は、一度整形外科を受診したほうが良いかもしれません。高齢になって異常が出たら、安全に治せるうちに治した方がよいです。人生100年時代、充実した人生を過ごすためには、腰・ひざ・股関節の痛みの原因を知り、適切に対処することが大切なんです。
充実した人生のカギは「歩行寿命」
日本人の平均寿命は年々伸び続け、2020年9月1日時点で100歳以上の高齢者の数が初めて8万人を突破し、50年連続で増えています。
三輪:高齢になっても元気で過ごそうと「健康寿命」が合言葉になっています。そのとき大切になるのが最後まで自分の脚で歩けること、いわゆる「歩行寿命」です。日本は海外に比べて晩年を寝たきりで過ごす高齢者が非常に多いというデータもあります。つまり、多くの人が何らかの理由で歩けなくなっているんです。
元気で充実した人生を送るために意識したい「歩行寿命」(ちなみにこの言葉は三輪医師の造語です)。また、高齢者の介護でよく取り上げられるのが「転倒予防」ですが、転びやすい人の特徴はあるのでしょうか?
三輪:転倒しやすい原因に歩く姿勢の悪さがあります。腰やひざが曲がると、前かがみになり、重心が前にずれて不安定になります。姿勢が悪くなることで重心がずれて、転倒しやすくなるのです。
三輪:腰やひざが曲がると、つま先を引きずって歩くようになるため、ちょっとした段差でもつまずいて転ぶようになります。平地でつまづくことがある人は将来、転倒する危険性が高いです。 骨折して手術を受ける高齢者の多くは座布団や敷居など家の中でつまづいて転倒しています。
姿勢異常による重心のズレや、下を向いて足を引きずって歩くことが転倒骨折の真の犯人だと語る三輪医師。その原因となるのが腰やひざ、股関節の痛みや変形だといいます。
腰、ひざ、股関節が故障すると歩けないワケ
三輪:私は、高齢者が歩けなくなる最大の原因は、腰、ひざ、股関節の故障にあると考えています。それらが悪くなると、重心がずれ、全身のバランスを崩して転倒しやすくなります。また転倒や骨折のリスクが高まるだけでなく、痛くてあまり動けなくなり、筋力や骨密度も低下してしまうのです。
腰やひざ、股関節の故障を治さずに放置するとやがて歩けなくなり、最悪の場合は寝たきりになる危険性があると、三輪医師は警鐘を鳴らします。
三輪:そうした故障を「もう年だから」と治さない人が極めて多いのが現状です。私は腰、ひざ、股関節の障害で歩けなくなってしまう状態を「腰ひざ股関節シンドローム」と呼んでいます。極論すると、腰ひざ股関節シンドロームを知り、適切な対処や治療をすることで100歳までシャキッと歩くことができます。
腰ひざ股関節シンドロームとは?
日本には腰の痛みを抱えている人が約3,000万人、ひざは約3,000万人、股関節は約500万人いるとされています。軽症で症状がなく、自覚していない発症前の人も含めるとさらに多くなるといいます。
三輪:ひざや股関節が変形する、変形性関節症の患者さんは女性に多いですね。高齢の女性は、骨やひざや股関節が悪くなりやすいことを意識して、早い時期から気をつけた方がよいと思います。女性は男性よりも長生きしますが、足腰や骨が弱く、骨折しやすいので腰ひざ股関節シンドロームにもなりやすいのです。
腰やひざ、股関節を手術してきちんと治す人は少ないそうですが、なぜでしょう?
三輪:もちろん自覚症状のない人や軽症の人には手術は必要ありません。しかし重症で痛くて歩けないのに「まだ我慢できる」とか、「もう少しで寿命だから」などと、あきらめている高齢者は多いです。しかし早期に対処すれば、その進行を遅らせることはできますし、きちんと治療すれば痛さからも解放されます。腰ひざ股関節の原因や正しい対処法を知らない方が多いのも、治す人が少ない理由かもしれません。
なぜ虫歯は治すのに、腰やひざは治さない?
虫歯は治すけれど、腰・ひざ・股関節を治さない人が多い背景には、先入観や誤解もあるそうです。
三輪:同窓会などに行くと、「腰やひざが悪いけどサプリメントを飲んでいれば大丈夫かな?」とよく質問されます。これは虫歯が痛いときに「サプリメントを飲んでいれば良いかな」というのと同じです。痛くて治らないときは病院に行って調べてもらうことが先決です。
三輪医師は、腰ひざ股関節の治療には家族の協力が重要だといいます。
三輪:痛みで歩けない患者さんは、家族が病院に連れてきてくれないと始まりません。家族に遠慮して我慢している方もいますが、思い切って手術を受けた人は合併症が出ない限り、みな、痛みは無くなり、一生歩いていられる様になります。
三輪:動けなくなって面倒をみなくてはいけないのは家族です。寝たきりの人生と、死ぬまでイキイキと歩き続けるのとどちらが良いでしょう。
治したくても、何をすべきか分からない方も多いと思うのですが?
三輪:腰ひざ股関節シンドロームを疑ったら、まずは整形外科を受診しましょう。しかし整形外科といってもさまざまです。どこでも、誰でも、どこの病院でも同じではありません。部位や程度によって病院を変える必要があります。
医者選びが最大の関門
今回、取材に協力していただいた三輪医師は、防衛医科大学を卒業後、慶應義塾大学整形外科の門をたたき、腰ひざ股関節全般にわたる術式をマスターした経歴の持ち主です。今年58歳とは思えぬほど若々しくエネルギッシュ。そんな三輪医師は治療に当たっては「医者選び」が最大の関門だと語ります。
三輪:腰ひざ股関節シンドロームは、寝たきりになる大きなリスク要因ですが、正確な情報の不足や、逆に選択肢が多すぎて「迷っている、困っている」そんな人が多いです。重症で手術しなければいけないと思っている家族にとっても、誰にかかったらよいのか、手術費はどれくらいかかるのか知らないことも多いですよね。
三輪:手術を受けるときは、医者選びが最大の難関です。安心して任せてよいドクターの確認ポイントもあります。
一般的には多くて年間200件と言われる手術数をはるかにしのぐ、年間1,000件以上の手術を20年以上続けて成功させてきた三輪医師。あまり知られていない賢い医者選びのポイントやおすすめの食事やストレッチ法など本音で語ってくれました。続きは後半戦で!
文=大屋覚
『腰、ひざ、股関節の痛み~諦めたら損する!?名医が教える痛みの危険性と対処・治療法【後編】』に続く
<参考著書>
腰ひざ股関節シンドローム/著書 三輪道生(幻冬舎メディアコンサルティング)
年間1,000件以上の手術を成功させる「整形外科のゴッドハンド」が腰、ひざ、股関節の不調のメカニズムと治療法をやさしく解説。
本書では、加齢による関節軟骨の摩耗という共通の原因で、歩行困難になる腰、ひざ、股関節のトラブルを、それぞれに精通した著者が説く「腰ひざ股関節シンドローム」という一体の概念でとらえている。痛む腰、ひざ、股関節が治ることを知らず、適切な治療を受けずに寝たきりになっていく多くの高齢者を救うためにも、高齢化が進む国民の健康を守るためにも、一般、関係者の枠を超えて読まれるべき一冊である。
最新刊『最強のひざ治療』
https://wadainohon.com/hizachiryo/
宇都宮記念病院 腰・膝・股関節センター
https://seikeigeka.nakayamakai.com/
■ ライタープロフィール ■
大屋覚(ライター/ソーシャルワーカー)
テレビや書籍・WEBメディアの企画、構成、執筆を担当。ソーシャルワーカーとしても高齢者、障がい者、子ども育成の支援事業を展開している。早稲田大学・同大学院修了。