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いつから定年70歳?【高年齢者雇用安定法】業界別働き方のススメと注意すべき点

急速に進む高齢化に対応するため、2020年6月「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下、高年齢者雇用安定法)の一部が改正されました。今後のシニアの銭稼ぎ(働き方)にも大きな影響を及ぼす改正です。一体どう変わるのか解説していきます。

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高齢者雇用安定法の改正とは

いよいよ来年、2021年4月(予定)から70歳までの就業機会確保が企業の努力義務になります。

これは「高年齢者雇用安定法」の改正によるもので、シニア世代、子育て世代、現役世代の安心を支えていくための「全世代型社会保障改革」の一環として行われるものです。

コロナ渦の中、大きく報じられていませんでしたが、いよいよ定年70歳時代が現実味を帯びてきました。

現在、事業主である企業は、①65歳までの定年引上げ、②65歳までの継続雇用制度の導入、③定年廃止-のうち1つを選択しなくてはいけません。

しかし来年からは、①と②が70歳以上に引き上げられ、新たに2つの選択肢が加わります。重要なポイントなので厚生労働省の資料を引用したいと思います。

<新設・高年齢者就業確保措置>(70歳まで・努力義務)

①70歳までの定年引上げ

②70歳までの継続雇用制度の導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によ
るものを含む)

③定年廃止

④高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

⑤高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に(a)事業主が自ら実施する社会貢献事業( b)事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業-に従事できる制度の導入

少々分かりづらい文言ですが、大きなポイントとしては実質的に会社が「定年起業を支援してくれる」ことです。

例えば65歳になったらフリーランス、または法人を立ち上げて、今働いている会社と業務委託契約を結ぶこともできます。顧客がいない状態で起業するのではなく今まで勤めていた会社が顧客になるので、変わらない業界で働くことができます。

今まで勤めていた会社での人脈を生かしながら、一国一城の主として活動できるのはシニアにとって大きなチャンスといえるかもしれません。

業界別、定年70歳までの働き方とは

定年70歳時代がもうすぐ到来/無料イラスト素材 イラストAC

2021年4月から高齢者雇用安定法が改正されると、企業側は働く意欲のある高齢者をもっと活用することが求められます。

業界ごとにどのよう人材が求められているのか「65歳超雇用促進マニュアル」を参考にまとめてみました。

建設業

建設業は、労働者全体に占める55歳以上の割合が高い業種です。中長期的に担い手は不足しているのでシニア層にも受注活動や技術・安全指導、後進教育など力を発揮できる場は多いです。ただし現場では過重労働や安全面での配慮など問題が残されているのも事実です。体調管理に気を配りながら高いスキルを獲得して指導的立場で働くことが長く働くコツかもしれません。

建設業、製造業では体調管理が大切/無料写真素材 写真AC

製造業

ものづくりの現場では、熟練した技能を有する高齢者は代えがたい人材です。しかし製造現場は高温となったり、負担のかかる作業姿勢や重量物の運搬など、高齢労働者には働きやすい環境とは言いがたい場合があります。企業側にも環境整備や仕事ぶりの評価、処遇に反映する仕組み作りが求められています。

定年70歳時代には、建設業と同じく安全や体力負担に配慮した働き方をすることが重要です。

情報通信業

現在、情報通信業界では高齢労働者の比率は低いです。将来性の高い業界ですが、デジタル庁の創設など新たな時代に突入し、求められるスキルも多様なものになっていきます。2020年代後半には、現在40代の技術者も60歳を超え始めます。

定年後まで見据えた複線的なキャリアパスや、スキルを確実に上げていくことが定年70年時代を生き抜くコツかもしれません。

シニア層が活躍できる場としては、情報サービス部門特有のサポート部門、保守メンテナンス部門などもあります。

運輸業、運送業

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Amazonや楽天などのオンラインショップの普及で、ドライバー不足は深刻化しています。そのため経験値の高い従業員はシニアになっても大事な戦力となりますが、加齢に伴う判断力・注意力の低下も心配されます。

また長時間運転などによる仕事の危険性の高い仕事です。運行時間や車種の見直しによる負荷軽減、健康診断・運転者適正診断による健康管理の徹底などに努めることが大切です。

高齢労働者にはドライバーとして働く以外にも、積荷の補助や倉庫における配送準備・後始末等の軽易な作業で活躍出来る場もあります。

宿泊業

宿泊業は「人材」が最も重要な資産である業界の一つです。

今までが培ってきたノウハウや、フロント業務やクレーム対応業務などシニアが活躍する場所は幅広いです。

接客マナーや得意先に合わせたサービス提供のしかたについて、若手や中堅へ指導するなどの働き方も求められそうです。

また、温泉旅館やホテルで働く際、持っていると職の幅が広がるのがボイラー技士免許です。 2級ボイラー技士は国家資格ですが、さほど難しい試験ではありません。また更新の必要もなく生涯つかえます。


シニアの経験が求められている/無料写真素材 写真AC

社会福祉・介護業

人生100年時代を迎え、福祉介護業界の人手不足は深刻な状況です。

高いコミュニケーション能力や観察能力、利用者に寄り添うサービス提供が求められる介護業界では、高齢労働者は貴重な戦力として期待されています。

しかし体力負担の大きい業務が多いのも事実です。

チームでケアする力を高めたり、配置の工夫や福祉用具の導入などを提案するなどシニアならではの知恵と経験を活かすと活躍の場が広がりそうです。


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定年70歳、注意すべき社会保険の扱い

60歳を超えて働く場合には、社会保険の取り扱いについても知っておく必要があります。

厚生年金保険については、厚生年金保険に加入している企業で勤務しているなら、70歳まで加入することが義務づけられています。

ただし、70歳未満の人が厚生年金に加入しながら働いた場合は、老齢厚生年金額と給与額に応じて老齢厚生年金額が調整される制度があります。

これは在職老齢年金と呼ばれるものです。給与額によっては年金の全額が支給停止されることもあるので注意しましょう。

高齢者労災を知っておこう/無料写真素材 写真AC

災害や病気の備えで注意すべき点

定年後も働く高齢者が増える中、注意すべきなのが「労災」の扱いです。労災とは労働災害の略で、業務上従業員が病気や怪我にかかることです。

個人事業主やフリーランスの場合、雇用された労働者ではないため、労災などの救済が受けられないケースも少なくありません。生活を支えるため、建設現場や交通整理など危険にさらされながら働く高齢の方も多いです。

定年70歳時代に向けて動き出した高年齢者雇用安定法の改正ですが、セーフティーネットの整備などまだまだ課題も多く残されています。

シニアになっても安心・安全に働ける環境づくりを優先させることが、高齢者が活躍する社会には何より大事だと思います。


文=大屋覚

≪参考ウェブサイト≫

厚生労働省・雇用保険の一部を改正する法律の概要

高齢・障害・求職者雇用支援機構

「 全世代型社会保障検討会議中間報告(案)(令和元年12月19日)」

■ Profile ■

大屋覚(ライター/介護福祉パフォーマー)
医療、社会福祉を中心に取材や執筆を行う。認知症・障害者の支援にも携わり、介護福祉の楽しさや問題を伝えるパフォーマーとしても活動中。早稲田大学・同大学院修了。日本認知・行動療法学会会員。

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