健康な体づくり
「うつ病」と「認知症」の違い
-症状や見分け方、正しい接し方とは?
高齢になると、うつ病になりやすいと言われます。定年退職で環境が変化したり、近親者が死亡したり、いろいろな病気にかかったりとライフイベントの変化が引き金になることが多いです。高齢者のうつ病は、認知症と間違われるケースがあります。それぞれの症状の違いや原因、接し方について紹介します。

高齢者の「うつ病」の原因
高齢者のうつ病は、「老人性うつ病」と呼ばれています。発症の大きな原因には「重大なライフイベント」や「加齢による身体機能の低下」などがあります。
■重大なライフイベントによる発症
仕事を定年退職したり、同年代の人が亡くなると「ああ、もう若くないな」と落ち込んで、うつ病の引き金になることがあります。
また、子どもの独立や離婚、配偶者との別れなど、大きな悲しみや寂しさから、うつ病になることも少なくありません。
<うつ病発症のきっかけになるライフイベントの例>
・配偶者や近親者との死別、ペットとの別れ
・退職などの社会的役割の低下
・経済的な不安や危機、社会的孤立
・家族の介護
■身体機能の低下による発症のきっかけ
年を重ねると疲れがとれなかったり健康状態が悪くなったりします。そうしたことで慢性的なストレスとなり、知らないうちにうつ病の症状へと進んでしまうこともあります。身体疾患の合併症としてのうつ病というケースもあります。
<うつ病発症のきっかけになる身体機能の低下の例>
・健康の減退、体の不調
・認知機能の低下、行動力の低下
・視覚、聴覚、知覚など感覚の低下や喪失
老人性うつ病の症状とは
老人性うつ病は正式な病名ではありませんが、65歳以上の高齢者がかかるうつ病のことを老人性うつと呼びます。
2週間以上、下記の症状が続くようであれば可能性が高くなります。
✅気分がひどく落ち込んだり、何事にも興味や喜びがわかない
✅おっくうで、なんとなく体がだるい
✅何も考えたくない、焦燥感にかられる
✅食欲がなく、眠れない
老人性うつ病になると、「頭痛」や「めまい」「肩こり」「吐き気」「耳鳴り」などの身体的な不調を頻繁に訴えるようになります。
検査を受けても特に異常が見当たらず、直接的な原因がわからない状態が続くケースがあります。
そのまま放置していると病状はどんどん悪化していきます。 最悪の場合は、自殺に至るケースもあるので早期に治療を受ける必要があります。

老人性うつ病は早期に正しく治療をすれば治る病気なのですが、認知症との見分けが付きにくいため、周囲も本人も知らない間に悪化してしまうことがあります。
「なんとなく様子がおかしいな」と思ったら安易に認知症と決めつけず、うつの可能性を疑ってみましょう。
「老人性うつ病」と「認知症」の見分け方
老人性のうつは、認知症の初期に見られる症状と同じような部分が多いです。
例えば、「なんとなく元気がない」「もの忘れが多くなる」なども認知症で見られる症状なので間違われることがあります。
老人性うつ病は、認知症と違い適切な治療を行えば改善する病気です。そのため、適切な処置をするためには、認知症との違いや見分け方を知っておくことが重要です。
老人性うつ症 | 認知症 | |
きっかけ | 何かの出来事で発症することが多い。 | 特になし。 |
初期の症状 | 気分が落ち込む。憂鬱な気分になる。体が痛い。 | 記憶障害。性格の変化。 |
進行速度 | 比較的短い時間に複数の症状が現れる。 | ゆっくり進む。 |
物忘れ | 突然、数日前のことが思い出せなくなる。 | 軽度の記憶障害から、徐々に重くなる。 |
1日の変動 | 朝の方が調子が悪い。夕方になると良くなる。 | 特になし。 |
攻撃性 | 特になし。 | 攻撃的になることもある。 |
統計によると高齢者のうつ病のリスクは女性が高く、過去のうつ病の既往や配偶者との死別・離婚も影響するそうです。
病気にかかっている人や身体的な障害がある人はうつ病になりやすく、そうした人の介護に当たっている人もうつ病になりやすいので注意が必要です。
老人性うつ病の予防法
うつ病にならないためには、前向きな気持ちで日常を過ごすことが大切です。
新しいことにチャレンジしてみたり、趣味や習い事をはじめて生き甲斐や興味を見つけることも効果があります。また食事や運動で予防することもできるそうです。
■栄養バランスの良い食事
うつ病の予防には、栄養バランスの良い食事をとることが効果的です。
一人暮らしや体が不自由になるとコンビニ弁当やサンドイッチ、おにぎりなど炭水化物に偏った食事になる傾向があります。
また脳の動きを良くするためにはビタミンやミネラル、脂質やたんぱく質といった栄養素も重要。肉や魚、野菜、豆、海藻といった食材をバランス良く食べるようにしましょう。

■散歩など適度な運動を心がけましょう
うつ病と関係が深い神経伝達物質に「セロトニン」があります。
セロトニンは精神を安定させる働きがあり、太陽光を浴びたり運動をしたりすると分泌を促すことができます。
天気の良い日には散歩をしたり、簡単な運動を習慣にすることで心身の健康を維持しましょう。
■治療法
老人性うつ病の治療には「環境調整」「薬物療法」「精神療法」などの方法があります。
具体的な治療方法については病状や期間、その人の性格によっても異なるため、専門医に相談しましょう。
うつ病の状態が回復してきたら徐々に社会との接点を持たせながら、精神的な刺激を与えることも必要になります。家族だけで対応できない場合は、介護サービスなどを活用するのもお勧めです。

老人性うつ病の方へ接し方。7つのポイント
老人性うつ病の方は、リラックス教室や通所リハビリテーションなどの集団に対応するのが難しい傾向にあります。
そのため、訪問介護や訪問指導の家庭訪問で個別の相談や指導を行っていくことが一般的です。家族や周囲の人は本人の主張を丁寧に受けとめて、共感する姿勢で接しましょう。
■老人性うつの人への具体的な対応
- 心配しすぎず、自然に接する
- 励まさない
- 原因を追究しすぎない
- 重大な決定は症状がよくなるまで先延ばしにする
- ゆっくり休んでリフレッシュしてもらう
- 医師の指示を守りながら、薬をうまく利用する
- 時には距離を置いて、見守る環境を作る
うつ病のサインを見逃さない

老人性うつ病は、認知症と症状が似ているために間違われることも少なくありません。本人がつらさや体の痛みを訴えても、家族も「年齢のせい」と見過ごしてしまいがちです。
家族や周囲は高齢者のうつ病のサインを見逃さないように、日頃からコミュニケーションをとることが重要です。遠方にご高齢の家族がいる方は、電話などで積極的に連絡を取り合うこともサインを見逃さないひとつの方法です。
老人性うつ病は、適切な治療を行えば改善する病気なので、いつもと様子が異なると気づいた時はすみやかに医師に相談しましょう。
文=大屋 覚
≪参考ウェブサイト≫
■ Profile ■
大屋 覚(放送作家・ライター)
テレビや書籍、Webマガジンを中心に活動中。医療・福祉・介護分野を中心に取材や執筆を行う。NHK、民放キー局の情報やスポーツ番組なども手がける。早稲田大学・同大学院修了(博士後期課程退学)。日本認知・行動療法学会会員。