健康な体づくり
若返りや認知症予防が期待される「幸せホルモン」とは?
若返りや認知症予防に効果がある「幸せホルモン」をご存じでしょうか?海外や国内で興味深い研究報告が発表され注目が高まっています。今回は幸せホルモンの正体から、シニアライフを充実させる「幸せホルモン」活性化の方法について解説していきます。
不思議な幸せホルモンの正体とは
幸福感を与えてくれたり、身体の痛みが軽くなったり、肌の新陳代謝が活性化されたり。それを可能にするのは「幸せホルモン」と言われています。
幸せホルモンの正体は内分泌ホルモン「オキシトシン」。母性や社交性、愛情関係などの社会性に関わる脳内物質で、親しいヒトとの共感やスキンシップによって脳の中で増えることが分かっています。
オキシトシンはもともと出産・育児の際に分泌されるホルモンとして知られています。例えば、赤ちゃんがお母さんの乳首をくわえると、母親の体内のオキシトシンが増えて母乳の分泌が促されます。そのためオキシトシンは母子間のスキンシップで生まれるホルモンと認識されていました。
ところが研究を進めていくと、母子間以外でもスキンシップによってオキシトシンは分泌され、ストレス軽減や免疫力アップに効果があることが分かりました。
<オキシトシンの主な効果>
●幸福感を高めてくれる
●肌の新陳代謝が活性化される
●不安や恐怖心が軽減される
●認知症予防に役立つ
●ダイエット効果がある
認知症予防に役立つ、オキシトシンの効果
認知症のリスクとして報告されているのが脳内炎症です。脳内の炎症性物質を産生する物質にミクログリアがありますが、オキシトシンはこのミクログリアに対して、炎症を抑制する可能性があると考えられています。
国立病院機構・京都医療センター臨床研究センターを中心とする研究チームはマウスの脳における免疫担当細胞・ミクログリアを用い、オキシトシンの新しい作用機序の解明に取り組んだ結果、神経や血管を傷つける炎症物質の産生を抑制することを世界で初めて明らかにしました。
この研究報告は、オキシトシンによる新しい脳保護作用の可能性を示すもので、脳内炎症が病態に関わる認知症や自閉症に対しても効果的予防が期待されています。
若返り!オキシトシンのダイエット効果
2017年に英科学誌「Scientific Reports」(電子版)で発表されたのが、オキシトシンを含むエサを食べたマウスは、体脂肪が15~20%も減り、さらに太ったマウスほど効果が高いという研究報告でした。
これは福島県立医科大学の下村健寿教授、前島裕子助教授らと高須クリニック(高須克弥院長)との共同研究で明らかになりました。
研究によると「オキシトシンは脳に作用して食べ物を減らすだけではなく、抹消の臓器にも作用しエネルギー消費量を増加させ、内蔵脂肪と皮下脂肪をともに減少させた」可能性も示唆されています。
つまりオキシトシンは太った体を正常に戻す「痩せホルモン」であり、心地の良い肌への刺激が美肌効果につながる美と若返りの強い味方でもあるのです。
最近、肌や肥満が気になる方はオキシトシン・ダイエットを行うと高い効果がのぞめるかもしれませんね。
幸せホルモンの増やし方①「タッチケア」
幸せホルモン「オキシトシン」はスキンシップで分泌が促されます。とくにパートナーや家族とのスキンシップは高い効果があるといいます。
幸せホルモンの効果が浸透しているスウェーデンでは、痛みやストレスを抱える患者の背中をさする「タッチケア」を取り入れている医療機関が多くあります。
タッチケアを行うことで血圧が下がったり、認知症の徘徊が減ったり、驚くようなパワーがあるそうです。
✅簡単!座ってできるタッチケア
① タッチケアは2人(受ける人・マッサージする人)で行います。
②受ける人は椅子やベッドで楽な姿勢をとります。
③マッサージをする人は背中に両手のひらをつけて、全体をなでます。
④背中の真ん中から、弧を描くようにまんべんなくなでましょう。
⑤次に腰の位置から首の方向に両手で小さな円を描くようになでていきます。
⑥ポイントはゆっくりなでること。1回10分程度を目安にしましょう。
幸せホルモンの増やし方②「ペットと見つめあう」
最近はペットと暮らせる民間の老人ホームが増えています。その中でも「奇跡のストーリー」の舞台としてマスコミでも話題となったのが特養老人ホーム「さくらの里・山科」です。
ペットと暮らせるこの施設に、認知症の70代の女性が愛犬のプードルと入居しました。入所から1年後に女性は大腿部を骨折して病院に移り、愛犬と離れ離れになりました。
しばらくして女性は退院。施設に戻りますが、愛犬の存在を忘れてしまうくらい認知症は進んでいました。愛犬は飼い主が自分を忘れたとは知らずに毎日のようにじゃれてきますが、わが子のように可愛がっていたペットの想い出は消えていました。
しかし半年後、奇跡が起きました。いつものように愛犬が女性の手や顔を舐めていると、彼女は思い出したように愛犬の名前を呼んだのです。
認知症が進んだ女性の記憶を呼び起こした理由に「オキシトシン」が関係していると専門家は見ています。先行研究ではペットと見つめあうことでオキシトシンの分泌量は増えるという報告があります。しかも通常の3倍増えるとも言われているのでペットを飼われている方は日頃から、その恩恵を受けているのかもしれません。
幸せホルモンの増やし方③「クッションを抱きながら孫と電話」
新型コロナウイルスの影響で家族や孫と会えない方も多いと思います。オキシトシンは家族との団らんや会話でも効果的に分泌させることができます。
そこでオススメなのがクッションを抱きながら電話をすることです。もちろん枕を抱きながらでも構いません。電話で可愛い孫の声を聞くだけよりも、クッションなどの抱き心地が加わると、より相手の存在を強く感じてホルモンの分泌が増えるそうです。
オキシトシンは、向社会的な行動応答を高める傾向があるという研究も報告されています。つまり相手を思いやったり、何かを与えたり、社会のために無私の行為をすることもオキシトシンの分泌に関係しています。
コロナ渦においてイライラや不安が募ることも増えますが、よりオキシトシンを増やして幸せになるためには「人に優しくすること」が何よりも大切なのかもしれませんね。
文=大屋覚
■ Profile ■
大屋覚(放送作家・ライター)
テレビや書籍、Webマガジンを中心に活動中。医療・福祉・介護分野を中心に取材や執筆を行う。プロデューサーとしてもTV番組やゲーム、アーティスト等を手掛ける。早稲田大学・同大学院修了。静岡生。
≪参考≫
Oxytocin Suppresses Inflammatory Responses Induced by Lipopolysaccharide
through Inhibition of the eIF-2-ATF4 Pathway in Mouse Microglia