社会の知識を学ぶ
コーディネイターに聞く
現代の葬儀のかたち②僧侶のかたち
家族葬も一般的になり、葬儀のかたちが変化している。なかでも目立っているのは儀礼的なものの排除。もともと葬儀って何だろう?
僧侶の読経とは
Aさんの職業は、葬儀社から依頼されて、寺院をコーディネイトすること。15年のキャリアを持っています。
人が亡くなったとき、僧侶の読経には、ご遺体の枕元での枕経にはじまり、お通夜、告別式、繰り上げ法要(初七日法要、四十九日法要など)、火葬炉前、戒名授与などがあります。
「お通夜、告別式、繰り上げ法要をしない、『釜前葬』も増えてきました」(Aさん)
釜前葬とは、直葬や炉前葬ともいい、その名の通り、火葬炉前での僧侶の読経のみで、亡くなった人をお見送りするものです。
寺院も檀家も持たない僧侶
寺院や檀家を持たずに、葬儀の読経のみを行っている僧侶も増えていて、そのような僧侶を称して、「マンション坊主」と呼ぶことがあるそうです。寺院に住まわず、マンションなどに住んでいることから、そう呼ばれるそうです。
「そうした方たちに読経だけを頼むケースも増えています。修行をして僧侶になったことに違いはなく、なかには、実家に寺はあるものの兄が継いでいて寺院を持つことができないという人もいるようです」(Aさん)
先日、お通夜なしで告別式と初七日法要のみという、いわゆる「1日葬」のあとに、続けて、火葬炉前での読経のみの「釜前葬」の手配をしたそうです。
「宗派によっても考え方は様々ですが、読経は亡くなった方をお見送りするためのご供養であると考えている僧侶には、火葬炉前で短い読経のみをお願いしますとは言いにくいものです。マンション坊主といわれている方たちは、そうしたことにこだわらず、お布施も相場より低いことが多いので、宗教性にはこだわらない遺族の方たちの需要にはマッチしていると思います」(Aさん)
葬儀は宗教儀式? それとも…
昨年12月に、通販サイトAmazon(アマゾン)で、僧侶の法事法要の手配チケット『お坊さん便』(株式会社みんれび)の販売がはじまり話題になりました。仏教界からは、「宗教とはまったく異質」や「ビジネスである」という反発の声が出たようですが、同じようなサイトや、寺院を持たない僧侶たちがそうしたサイトへ登録することも増えているそうです。
「寺院墓地の場合は、同じ宗派の儀式で死者を送らなければ墓地に入れてもらえないこともありますが、菩提寺がない場合は、極論すれば、決まった送り方があるわけではありません。年配の方から、家族と話すきっかけをつくって、話をしておくとよいと思います」
Aさんは、そのように言っていました。
人は生まれて死ぬまでに、必ず主役になれるイベントがあるといいます。その1つが葬儀です。葬儀のかたちは時代とともに変化しても、大切なのは「どうしたいか」という気持ちです。最後は、本人、あるいは遺された家族が故人をどのように送りたいのか、やはり、これにつきるようです。
文=水楢直見(編集部)2016年7月取材