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悪徳商法に騙されやすい人の特徴―「自分は大丈夫」と思った人ほど騙されるワケ
今、悪徳商法の格好のターゲットとなっているのが高齢者です。全国の消費生活センター等に寄せられる相談は後を絶たず、2018年は65歳以上の消費生活相談件数は約35.6万件に上り、過去10年で最も多くなりました。老後を破綻に追い込む悪徳業者の新たな手口と巧妙な罠を知ることで未然にトラブルを防ぐことができます。今回は悪質商法の特徴や対処法などをご紹介します。
電話勧誘に架空請求、情報通信…シニアを狙う悪徳ビジネス
高齢者を狙った悪質商法といえば電話による投資商品や健康食品への勧誘、架空請求などが知られていますが、最近ではデジタルコンテンツ、インターネット接続回線などの情報通信関連のトラブルも増えています。
特に60歳代・70歳代においては情報通信関連の相談が多く、80歳以上になると訪問販売や電話勧誘販売によるトラブルが多くなる傾向があります。
例えば情報通信関連では、携帯電話に届いた広告メールのURLをクリックしたとたん、サイト料金を不正に求められたり、アダルト情報サイト等を閲覧したとして債権回収会社から督促メールが届いたなどの相談が増えています。また無料SNSサイトを使ったサクラサイト商法、インターネット通販でのトラブルも少なくありません。
何より深刻なのは高齢者がトラブルに巻き込まれた場合、被害金額が大きくなることです。高齢者の平均契約金額は178万円で、全年代の平均である135万円を大きく上回っています。背景には一人暮らしや夫婦のみで暮らす高齢者が増えており、身近に相談相手がいないという問題もあります。
<60歳以上のトラブルの特徴>
○情報通信関連の相談が非常に多い
○高齢になるにつれ、訪問販売や電話勧誘販売の相談が増加している
悪質業者のテクニックは優秀なセールスマンと同じ
「私は一度も騙されたことはない」という高齢者も、話していくと高額な契約をさせられていたケースがあります。悪質業者は一流の営業マンを装います。
優しい言葉で近寄ってきて、高齢者の話し相手になりながら契約を結ばせる。疑うことを前提としない高齢者の中には、自分が騙されているとは思っていない人も多いのです。
一方、被害に遭ったと気づいても、それを恥ずかしく思ったり、家族に迷惑をかけたくない、騙された自分が悪いと自らを責める人もいます。そのため被害が表面化しにくく、さらに過去の被害を取り戻そうとして、さらに被害に遭う方もいます。
巧みなセールストークで不安を煽ったり、「誰にも言ってはいけない儲け話」などと口止めするのは悪質業者の常套手段です。その特徴をまとめてみました。
悪質商法に騙されやすい人の9つの特徴
-
□ 自分は大丈夫と思っている。
□ プライドが高い。
□ 人の言葉を信じやすい。
□ 断るのが苦手。他人からよく、いい人と言われる。
□ お得感に弱い。損をしたくない。
□ 昼間、家に一人でいることが多い。
□ 頼れる家族や友達が少ない、いない。
□ 認知症など判断能力が低下している。
□ 一度被害にあったことがある。
- 自分は大丈夫と思っている。 -
自分は騙されないという「思い込み」は危険です。その思い込みが「疑う」気持ちを軽減させてしまいます。騙されるかもしれないと警戒していれば悪徳業者の言葉や言動におかしいことがあれば気づくことができます。騙されないためには、危機察知能力を高めることが大事です。点検商法などは高齢者の油断をついてきますので気をつけましょう。
- プライドが高い。 -
プライドが高いため、詐欺かもしれない?と思っても、騙されたと認めるのが恥ずかしい、失敗を人に知られたくない、などと考えてしまう人は最後まで騙されてしまいます。家族や知人に「これは悪徳商法かな?」と聞いてみることは恥ずかしい事ではありません。ワンクリック請求などはこの「人に言えない」という気持ちを利用した商法です。利用に心当たりがなければ、堂々と対応しましょう。
- 人の言葉を信じやすい 。断るのが苦手。他人からよく、いい人と言われる。 -
人から誘われて、「悪いから」と、断れない人は、商品を勧められても断ることも悪いと思ってしまい断れません。業者は高級な服を着たり、警官の制服のような格好をしたりします。必ず身分証明証などを提示してもらいましょう。
- お得感に弱い。損をしたくない。 -
「今だけ」「ここだけ」「特別に」「安い」などの言葉に魅力を感じてしまう人は、騙されやすいです。次々販売や催眠(SF)商法などは消費者心理をうまく利用してくるので、相手がどんなにいい言葉をいっても、不要なものや不当と思うものは買わないようにしましょう。
- 昼間、家に一人でいることが多い。 -
昼間、一人の時間が多いと相談できる人も少なく、悪質業者の格好のターゲットになりやすいです。業者は不安で寂しい気持ちにつけ込んできます。またインターネットを利用している場合は、サクラサイトなど出会い系サイトに誘導してくる場合もあります。
- 頼れる家族や友達が少ない、いない。 -
頼れる家族や友達がいれば、怪しい話を持ち込まれた時に「あぶないかもしれない、やめたほうがいいよ」などと助言してくれます。また、自分だけでは調べられない情報も人脈がある知人がいれば教えてくれます。
- 認知症など判断能力が低下している。 -
悪質業者は判断能力が弱っている人を見抜く能力に長けています。特に認知症の初期などはオレオレ詐欺の被害に遭いやすいと言われています。騙されていることに気づいていないケースも多いので周囲の見守りが重要です。
- 一度被害にあったことがある。 -
悪質業者は一度騙された人を、二度三度と狙ってくるケースが多いです。また一度騙された高齢者は、被害を取り戻そうとして、さらに被害を増大化させる事もあります。これは家族には迷惑をかけずに、自分が元気なうちに問題を解決したいという心理が影響しています。二次被害を防ぐためにも安易な儲け話には乗らないようにしましょう。
「お金」「健康」「孤独」の不安につけ込む
悪質業者がつけ込むのは、高齢者の「お金」「健康」「孤独」に関する不安です。こうした不安に加え、高齢者の判断能力の衰えに乗じて次々と新たな手口で言葉巧みに、あるいは強引に勧誘を行います。
では、詐欺や悪質手法から身も守るためにはどうすればいいのでしょう。
重要なのは「どんな手口があるのか」「被害に遭わないために何に気をつけるべきか」を知ることです。こうした情報を自分だけでなく、周囲の高齢者に伝えることで未然に被害を防ぎ、財産を守ることができます。
高齢者を狙う「悪質商法」9つの手口
①点検商法
「無料で点検」「近くで工事をしているので見てあげる」などと訪問し、「点検した箇所に問題がある」「すぐに直さないと大変なことになる」と不安をあおって高額な工事や商品を売りつけます。
【対処法】「今契約すれば半額にする」と言われても、すぐに契約してはいけません。必ず複数の業者から見積りをとって比較しましょう。契約・工事がされてしまっても、訪問販売の場合は契約日から8日以内であればクーリング・オフが可能です。
②送りつけ商法
注文していないのに勝手にエビなどの生鮮食品や健康食品などの商品が送られ、料金を請求されます。代金引換で送られてきた場合、代金を払ってしまうと返金が難しい場合があります。
【 対処法】 購入した覚えのないものは生ものでも受け取ってはいけません。誰も注文していないのであれば代金は支払わず、受け取りを拒否しましょう。
③かたり商法
市役所や消防署などの公的機関や、有名企業の関係者であるかのように装って、商品やサービスを購入させようとします。それらしい服装や「○○の方から来ました」とあいまいな表現で巧みに消費者をだまそうとします。
【対処法】公的機関、有名企業を名乗っても身分証の提示を求めましょう。その場で関係機関に電話をするなど確認を取ること。訪問販売の場合は契約日から8日以内であればクーリング・オフが可能です。
④次々販売
1人の消費者に業者(複数の業者の場合も含む)が商品等を次々と販売しようとします。判断能力が低下していたり、1人暮らしなどで周囲の見守りが必要な高齢者を狙ってきます。
【対処法】 必要でないものならはっきりと断りましょう。業者が長時間居座ったり、脅したりするなどあまりにもしつこい場合は警察へ連絡を。訪問販売の場合は契約日から8日以内であればクーリング・オフが可能です。
⑤利殖商法
未公開株や社債などの儲け話を持ちかけ、多額のお金をだまし取ろうとします。複数の業者にみせかけて実は同一業者だったり裏でつながっている「劇場型」や、被害回復をうたって更にお金をだまし取ろうとする「二次被害」など様々な手口があります。
【対処法】払ったお金を取り戻すことは困難です。突然のもうけ話や被害回復の話は鵜呑みにせず、毅然とした態度ではっきりと断りましょう。
⑥催眠(SF)商法
人を集めて無料サンプルなどを配り、閉め切った 会場内で集まった人を興奮状態にさせることで 冷静な判断を鈍らせ、最終的に高額な商品を売りつけます。
【対処法】一番有効な対処法は会場に行かない こと!タダでもらえるなどの呼び込みがあっても行かないようにしま しょう。契約しても 8日以内であればクーリング・ オフが可能です。
⑦ワンクリック請求
アダルトサイトなどで「年齢は○歳以上ですか?」の問いに「はい」をクリックしたら突然、登録完了となり、登録料等を請求されるトラブルです。登録料請求画面が張り付いたまま消えなくなる場合もあります。
【対処法】意図せず登録された場合、契約の有効性に疑義がある場合が多いので安易に支払わないようにしましょう。「IPアドレス」や「ユーザー識別番号」等を表示して個人を特定したように脅す事業者もいます。事業者に連絡を取るのは、電話番号やメールアドレスを教える可能性もあり危険です。しつこい場合は消費生活センターに相談しましょう。
⑧サクラサイト商法
無料SNSサイトで知らない人からメッセージが届き、「相談相手になってくれたらバイト料を払う。やりとりは別のサイトでしたい」などと出会い系サイトに誘導して、必要なポイントを購入させる商法です。もちろん、やり取りをしても実際にお金はもらえません。
【対処法】不審に思ったら、メールのやりとりを証拠として印刷しましょう。警察や消費生活センターに相談するときに役に立ちます。メール交換時やランクアップを謳って追加のサイト利用料が発生する仕組み(都度課金)の場合は、特に注意しましょう。
⑨インターネット通販
通信販売で購入した商品が「イメージと違うけど返品できない」といったトラブルも増えています。通信販売にクーリング・オフの適用はありません。広告に記載されている返品特約に従うことになります。返品可能期間が表示されている場合は、その期間のみ返品可能です。ただし、返品特約が表示されていない場合は、商品到着後8日間は送料消費者負担で返品が可能です。
【対策法】申し込む前に返品や交換の条件だけでなく、引渡しや支払いの方法などの販売条件をしっかり確認すること。 特に支払い方法が前払いである場合は「代金を支払ったにも関わらず商品が送られてこない」といったケースもあるので、十分に注意しましょう。
以上の手口だけでなく悪質商法は年々、巧妙になり複雑化しています。一人暮らしの自宅に営業マンからの電話や訪問があった場合は、必ず信頼できる人に状況を話すようにしましょう。
騙された時の対処法-クーリング・オフ制度
被害に遭ってしまった(あいそう)なら・・・
まずは慌てず、クーリングオフできるものはクーリングオフをし、振込詐欺系のお金を振り込んでしまったり渡してしまった場合は警察へ相談しましょう。
契約が成立すると、お互いにその契約を守らなければなりません。しかし消費者が訪問販売などの不意打ちな取引で契約したり、マルチ商法などリスクの高い取引で契約した場合は、一定期間内であれば無条件で契約を解除できます。これがクーリング・オフ制度です。
クーリング・オフをすれば解約の際には損害賠償も違約金も必要ありません。ただし解約できる期間は決まっているので気をつけましょう。
クーリング・オフできる期間
✅8日間(期間は契約書面を受け取った日を含めて数えます)
●訪問販売(寝具類、リフォーム工事など)
●電話勧誘販売
●特定継続的役務提供(エステティックサロン、語学教室、結婚相手紹介サービスなど)
●訪問購入(押し買い)突然事業者が自宅を訪ね、指輪やネックレス等の商品を強引に安価で買い取っていく等の行為。
✅20日間(期間は契約書面を受け取った日を含めて数えます)
●連鎖販売取引(マルチ商法)
●業務提供誘引販売取引 (内職商法、モニター商法など)
高齢者トラブルの未然防止や拡大防止には、本人だけではなく周囲が気付いて対応する「見守り体制の強化」が必要です。
ケアマネジャーやホームヘルパーなどの介護従事者と消費生活センター等との連携や、成年後見制度利用支援事業、一人暮らしの高齢者を見守るネットワーク作りなど見守り体制強化は今後の大きな課題となっています。
高齢者の見守りと気づきのポイント
高齢者がいる家族は次のポイントに心当たりがないかチェックしてみましょう。
✅家の様子について
□ 家に見慣れない人が出入りしていないか
□ 不審な電話のやりとりがないか
□ 家に見慣れないもの、未使用のものが増えていないか
□ 見積書、契約書などの不審な書類や名刺などがないか
□ 家の屋根や外壁、電話機周辺などに不審な工事の形跡はないか
□ カレンダーに見慣れない事業者名などの書き込みがないか
✅本人の様子について
□ 定期的にお金をどこかに支払っている形跡はないか
□ 生活費が不足したり、お金に困っていたりする様子はないか □ 何かを買ったことを覚えていないなど、判断能力に不安を感じることはないか
騙される背景には老後への不安も
消費者トラブルは決してひとごとではありません。自分は大丈夫と思いこまず、日頃からいろいろな消費者トラブルについて知っておくことが大切です。
筆者の知人もある日、住宅地域に作業服を着た2人の男性が「水道管が古いから取り換えなければなりません」と訪ねてきたそうです。取り換え費用を聞くと総額20~30万円。住民全員で割ればそれほど高くない額でした。しかし住民の一人が名刺を求めても出さず、会社名も言わない。不審に思って追及すると翌日から彼らは来なかったといいます。
これは住民の機転で難を逃れたケースかもしれませんが、悪質業者は巧妙に私たちの生活に忍び寄ってきます。少しでも怪しいと思った場合やトラブルになったら消費生活センター等に相談しましょう。
消費者ホットライン:「188(いやや!)」番
最寄りの市町村や都道府県の消費生活センター等を案内する全国共通の3桁の電話番号です。
文=大屋覚
■ Profile ■
大屋覚(ライター・介護福祉アナリスト)
高齢者、障がい、保育の現場に携わり問題解決のサポートを行っている。Webメディアやテレビ、書籍など数多く担当。早稲田大学・同大学院修了。
≪参考≫
・独立行政法人 国民生活センター
・あきるの市消費生活相談情報
・高齢者見守りハンドブック 東京都
・消費者トラブルクイズブック 相模原市