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今なぜ生涯学習?【後半】~70歳で学芸員の資格取得を目指すワケ
「人生100年時代」を豊かに過ごすために生涯学習に取り組む高齢者が増えています。とくに最近多くなっているのは、定年後のセカンドキャリアを見据えて、資格取得を目指すシニア世代です。今回は70歳で学芸員の資格を目指す現役のシニア大学生を取材!学びの楽しさや発見、元気の秘訣について伺いました。
人生をより充実させたい
「人生100年時代」に向けて社会が大きな転換点を迎える中、生涯学習の重要性は一層高まっています。「生涯学習」という言葉も、以前よりポジティブに語られるようになりました。
とくにシニア世代においては価値観が多様化する中で、学習活動や社会参加活動を通じて人生を豊かにしたい、充実した生活を送りたいという方は増えています。
こうしたニーズに応えるように東京都では生涯現役を目指すシニアを応援するセカンドキャリア塾を2018年に開講。高齢者が「生涯現役」としていきいきと活躍できる社会の実現に向けて動き出しています。
以前、筆者が取材した時には参加者から「第二の人生を充実させたい」「キャリア塾を通じて新しい出会いや刺激を受けるのが楽しみです」などの声が聞かれ、元気なシニアの熱気に圧倒されたのを覚えています。
各大学も「生涯学習」の場を提供
シニア世代の「生涯学習」を応援する大学も増えています。学習意欲の高い中高年齢者の学び直しを支援するために授業料を低く抑える大学や、授業料減免制度を設けている大学なども出てきています。
東洋大学は、日本で最大規模の夜間部(イブニングコース)を設置、授業料を低く抑え、大学独自の奨学金などのサポート体制も配備している。
立教大学では、50歳以上の方を対象に、人文学的教養の修得を基礎として、
学び直しと再チャレンジのサポートを目的とした場を提供している。
日本女子大学は、リカレント教育課程として、大学卒業後に就職し育児や進路変更などで離職した女性に1年間のキャリア教育を通して、高い技能・知識と働く自信・責任感を養い、再就職を支援するプログラムを提供している。
変わり種?生涯学習を提供する大学
大学の中には独自の取り組みをしているところも多いです。
例えば、明治大学大学院商学研究科の入試では、職業経験豊かな60歳以上の定年退職者を対象に特別の入学者選抜を実施しています。長年の職業経験が学位取得に繋がるという珍しい取り組みかもしれもしれません。
一方、僧侶を目指す高齢者の育成を目的としている大学もあります。
正眼短期大学では、定年退職後のシニア世代を対象として、僧侶になるために必要な知識を身に付けられる社会人教育プログラムを用意。シニア世代僧侶育成プログラムを実施しています。
大学では2年~2年半の学習(坐禅・授業等)を経て僧侶として就職。2015年12月には、正眼短期大学で学んだ高齢得度者として初の住職が誕生したそうです。
「来校不要」で資格を目指す
シニア世代の中には資格取得を目指す方もいます。定年退職後のセカンドキャリアを見据えた方や、知的好奇心を満たすために資格を取る方は増えているように思います。
高齢者の資格取得に積極的に取組んでいるのが、2004年に開学した八洲学園大学です。八洲学園大学は日本で初めてインターネットを利用しての学位や国家資格の取得を実現しています。
八洲学園大学では社会教育主事、図書館司書、学芸員、学校図書館司書教諭などの国家資格等をインターネットを利用して取得することができます。また50歳以上の方を対象に授業料の割引や特別サポート体制を敷いています。
八洲学園大学では幅広い世代の方が学んでおり、様々な理由で資格取得を目指す高齢者の方も多いそうです。今回は大学の協力を得て、現役の70歳の受講生から話を聞くことができました。
体験者に聞く。70歳で資格取得を目指すワケ
今回、取材したのは現役の歯科医師として働いている羽田久美夫 (ハネダクミオ)さん(70歳)です。毎日の診療の他、週に1度は介護施設に訪問診療をしている羽田さんは今、学芸員の資格を目指して八洲学園大学に在籍しています。
Q.なぜ、資格を取ろうと思ったのでしょうか?
羽田さん:私は美術が趣味で、油絵を描くこともあります。将来は美術館のボランティアをやりたいと考えていて、学芸員の資格を取ろうと思いました。八洲学園は大学に通わなくても資格が取れるので、現在の生活スタイルにも合っているなと思い、籍を置いて学んでいます。
学芸員とは、美術館をはじめ総合博物館、科学博物館、歴史博物館、動物園、水族館等で資料の収集、 保管、展示、調査研究その他関連する業務を行う専門の職員です。
Q.入学することに不安はなかったのでしょうか?
羽田さん:学ぶことへの不安はなかったのですね、いつも当たって砕けろの精神なので。ただ、学習時間をどう都合するかは頭に引っかかっていましたね。ある程度、決まった時間に講義を受けることも多いですから。もちろん後からでも視聴はできるのですが、オンラインで質問したいこともあるので時間の調整はしています。
八洲学園大学では、授業は決められた日時にパソコン上で受講します。リアルタイムで受講できない場合は、録画された授業を当日中に視聴し、指定日時までにレポートを提出することで出席扱いとなるそうです。
Q.70歳になっても勉強を続ける楽しさとは何なのでしょう?
羽田さん:いちばん楽しいのは、勉強することで周りの若い人とコミュニケーションを取れるようになることですね。美術館に行って、たまたま出会った人と美術の話で盛り上がったり。また、学び直すことによって新しい発見があるのも嬉しいです。意外と正しいと思っていたことが間違っていたりして、そうしたことを調べ直せることは楽しいですね。
羽田さんの友人には定年退職した方も多いそうです。高齢になると女性に比べて男性は引きこもりがちになるとも言われています。いつまでも元気でいられる秘訣はあるのでしょうか?
羽田さん:私は訪問歯科もしているんですが、本を読んだり、頭を使っている高齢者は元気ですね。逆に好奇心がなくなると認知症が進んだり、足腰も弱くなるような気がします。生きている間に迷惑をかけたくなかったら、常に好奇心を持つことが大事なように思います。
Q.羽田さんの今後の夢とは?
羽田さん:常に好奇心を持ち続けて生きていきたいです。自分は正しいと思いこむのではなく、学習して成長していく。そして社会に役立つことをしていきたいですね。
何事もはじめなければ始まらない
八洲学園大学が2020年4月に実施した学生アンケートによると、大学生活を送る7割の方が学習は楽しいと感じているそうです。
今回の取材で分かったことは、シニアになってからの学習は大変ではあるけれど楽しく生きがいを感じている人が多いということでした。
好奇心を持ち続けて学習することは、「人生100年時代」を豊かに過ごすためのヒントを与えてくれそうです。しかし、何事もはじめなければ始まらない。まずは小さな一歩を踏みだす勇気が必要かもしれませんね。
<取材協力>
<参考文献>
内閣府 平成25年度 高齢者の地域社会への参加に関する意識調査結果(全体版)
文=大屋 覚
■ Profile ■
大屋 覚(ライター)
放送作家として、テレビや書籍・WEBメディアの企画、構成、執筆を担当。また高齢者、障がい者、子ども育成の支援事業も展開している。早稲田大学・同大学院修了(博士後期退学)。