活躍の場を探す
カッターと紙で表現する創作の世界。
「調布きりえ あざみの会」
おとなの「塗り絵」「折り紙」「きりえ」が人気となっているそうです。「調布きりえ あざみの会」では、指導者はおかず、会員一人ひとりの独自性を尊重し、きりえの創作とおしゃべりを楽しむというスタイルで37年間、活動をつづけています。
調布市文化会館たづくりの11階で
東京都調布市は生涯学習を推進
約束の時間に、「調布市文化会館たづくり」11階に行くと、「調布きりえ あざみの会」のメンバーが大きなテーブルを囲んで、きりえをつくっていました。
代表の遠藤きみ子さん
「学習室(個室)を予約しようと思ったのですが、予約がいっぱいで取れなかったんです」
会の代表を務める遠藤きみ子さんが、そう言いながら出迎えてくれました。
11階の市民の活動を支援するためのスペース「みんなの広場」には、大きな長方形のテーブルが7つ。テーブルは、すべて埋まっていて活気にあふれています。
「きりえ」という言葉のイメージから、繊細で、黙々とカッターを動かしているところを想像していたのですが、調布きりえ あざみの会のテーブルでは、隣にすわってるひとに感想を聞いたり、カッターを動かしながらおしゃべりしたりと楽しそうです。
『何見つけたの?』/作者:遠藤きみ子
メンバーは、現在、40代から80代までの17名。勤めているひともいるので、いつもは第2日曜日に集まっているそうですが、今日は平日なので7名が集まってくれました。
創作表現に重点をおいたもの。それが「きりえ」
調布市文化会館たづくり
会のはじまりは、1979年の「きりえ実技講座(3回)」(調布市文化協会主催)に集まったひとの間で、講座の終了後に、「このまま終わらせてしまうのはもったいない」という話になり、同好会としてスタートしました。
初代代表は、講座で講師を務めた日本きりえ協会の武田祈さん。翌年には、「調布きりえ あざみの会」を結成し、2001年からの「植物切り絵展」(神代植物公園)をはじめとし、「東京きりえ美術展」や「日本きりえ美術展」にも出展したりしています。会の活動は、何度かメディアにも取り上げられているそうです。
今年開催した、「第30回あざみ展」(調布市文化会館たづくり にて)を記念して「きりえ作品集」(5月30日発行・48ページ)を制作
きりえというひらがな表記が気になって調べてみると、日本きりえ協会のウェブサイトに説明がありました。「切り絵」という字から想像される伝承の細工物というイメージを払拭し、「創作」に重点を置いていることを「きりえ」という字で表現しているそうです。
調布きりえ あざみの会も、指導者のもとで同じ絵をきれいに切ることを習得するのではなく、創作=個性と捉えて、一人ひとりの表現を大切にすることや、わからないことは会員同士で教えあうというスタイルを37年間続けてきたそうです。
「メガネをかけているのに、メガネがナイナイって探す世代もいますからね。いろいろな意味で助け合わないと」(竹政敬子さん)が、そう言うと、みんな、大笑いです。
ノビノビとした雰囲気が、そのまま作風にも
昨年7月に加わった、一番新しいメンバーの吉川幸子さんは、「朝顔の細い部分がうまくいかなかったのですが、すぐに教えてくれて。そんなふうにオープンに教えてもらえる、ノビノビと明るいところが、とても気に入っている」のだと言います。
吉川幸子さん
吉川さんは、与勇輝の人形をつくる教室に10年ほど通っていたそうですが、きりえをはじめたきっかけをこんなふうに話してくれました。
「人形は顔を造形することからはじまるので、1体できあがるまでには半年くらいかかります。年齢や体力のことを考えると、もう少し簡単にできるものをと思ったのです。それで、興味のあった“きりえ”のデザイン誌を買ってきて、1人でつくりはじめました。この年齢になって、自分の自由になる時間が持てるようになったので、1日に1回はカッターを持ち練習しました」
吉川幸子さんのスケッチブック
きりえを貼ったスケッチブックは、すぐにいっぱいになっていました。そのノートを見た友人が、調布きりえ あざみの会のことを教えてくれて、見学してすぐ入会したのだそうです。
代表の遠藤さんは言います。
「この会は、切ることよりも、自分で絵を描いて、それをどう表現するかということを大切にしているんです」
小沼照子さん
その話を横で聞いていた小沼照子さんが、
「私は、絵を描かなくていいと思って、きりえを選んだのだけど…」
そう言って笑っています。
『しまうま』/作者:小沼照子
きれいに切ることより、何をどう表現するかがおもしろい
利根川行子さん
「絵は上手に越したことはないけれど、こんな感じで大丈夫なんですよ」
利根川行子さんが見せてくれたのは、ハロウィンをテーマにした下絵です。その絵は、絵が下手なひとが安心するような絵ではありませんでしたが、絵が上手でなくても問題ないのだそうです。
「まほう使いになりたい」/作者:利根川行子(2015年)
調布きりえ あざみの会では、年に1度、「1泊スケッチ旅行」に行きます。
「今年は河口湖を中心に、日本三大奇矯の『猿橋』(山梨県大月市)、西湖の『いやしの里』にも行きました」(奥田里美さん)
2016年の1泊スケッチ旅行の写真
そのとき行った「河口湖オルゴールの森」からインスピレーションを得たのが利根川さんのハロウィンの下絵なのだそうです。
海老水喜美代さん
「小川さんのきりえはいつ見ても、すごいなって思う」海老水喜美代さんが、そう言うと、みんながうなずきます。
『ゴーヤ』/作者:海老水喜美代
名前が出てきた小川政子さんは、会の創立時からのメンバーの1人で、小さなこどもでも安全に、細かい手の動きが難しくなる高齢者にもつくることができる「水きりえ」を考案して、本を出版しているそうです。「水きりえ」を簡単に説明すると、新聞紙のカラーページに水をつけた筆で絵を描き、濡れた線のとおりにちぎって台紙に貼り付けていくというもの。カッターを使わず、力もいらないけれど素敵な作品ができあがるので人気となっているようです。
光と影が、デザインカッターと紙から生まれる
『京都の町』/作者:竹政敬子
メンバーのなかには、高齢で車イスの生活を送るようになった方もいるそうですが、息子さんに連れ添ってもらって、会に参加しているそうです。
「その方は、自宅できりえを創作している時間がとっても楽しいと言っています。ほかにも、以前はボンヤリ景色を眺めていただけだったのに、きりえをはじめてからは、テーマになるものはないかと景色のなかから一生懸命探すのが楽しいという方も。その気持ちわかるね、ってみんなで言っているんです」(遠藤さん)
竹政敬子さん
鉛筆型のデザインカッター1本とカッターマットそして紙。それだけあれば、わずかなスペースででき、お金もかからず、年齢を重ねても長く続けられるところが、きりえの魅力のようです。
下絵をカッターで切っているところ
作品を発表する場として、春の「あざみ展」(調布市文化会館)、秋には「植物切り絵展」(神代植物公園 植物会館)と、年に2回の展覧会を開いているそうです。
奥田里美さん
調布市文化会館たづくりの12階が展望室になっていることを聞いて行ってみました。秋晴れの日だったので、少し遠くに見える多摩川の水面がキラキラ光っていました。丹波山系や、よみうりランドの観覧車なども見えます。富士山も見えるそうですが、その日は残念ながら見えませんでした。
きりえで折った鶴/作者:奥田里美
型紙を置いて切る。それを折ると上の写真のような鶴になる
そういえば、11階の窓から景色を眺めていたときに、
「この景色をきりえにできたらいいね」
そんな話が出ていました。
山や川、家並みなど、全体を表現したいというひともいれば、水面のきらめきだけを表現したいと言うひと、遠くにある富士山をデフォルメして、近くに持ってきたらどうかしら、と言うひと。同じ風景を見ていても、それぞれの個性で表現するものが違う。それを認め合うからこそ、この会は、こんなにも楽しくつづいているのだと思いました。
文=水楢直見(編集部)2016年10月取材
※11月18日(金)?24日(木)に、会のなかで一番若手の3人が原宿(東京)のデザインフェスタギャラリー EAST203で展示会を開いています。
左:「鳥」をテーマにした3人展 右:デザインフェスタギャラリー