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「スローな曲がお好き」。
週2回の女性フラダンスサークル
フラダンスを、50~60代からはじめる人が多いそうです。特に女性は、カラフルな衣装や、スローテンポの明るい音楽に合わせて、からだを動かすことができて、健康にもいいというのが理由のようです。
お揃いのムームー(ゆったりとしたワンピースタイプのハワイの女性の正装)で
ドアの向こうは、フラ(Hula)の世界
ドアを開けると、あざやかな赤い色の衣装が目に飛び込んできました。窓の外は、秋色の風景が広がっているのですが、部屋のなかは、常夏のハワイです。
フラダンスサークル『ハイビスカス』は 閑静な住宅街にある東京都杉並区の施設「ゆうゆう館」を利用してレッスンをしています。
11月21?22日に、「第55回 杉並区いきいきクラブ連合会福祉大会」(主催:杉並区いきいきクラブ連合会/後援:杉並区/開催場所:セシオン杉並ホール)に出演します。21日のプログラム、第二部の33番目です。
ほかには、コーラス、民謡、フォークダンス、太極拳、エアロビクス、詩吟などのグループが参加しています。特別出演の男性フラダンスのグループも、宮部洋子さん(76歳)の生徒さんなのだそうです。
話を伺ったのは、大会の前でした。
宮部洋子さん
宮部さんは、19年前からフラダンスを教えています。現在は、週に4日、2つのサークルを教えていて、そのうちの1つ、『ハイビスカス』は6年前から活動しています。
日本の曲で踊るフラダンスも人気
CDラジカセから流れてきた曲は『レイ ナニ(Lei Nani)』。「美しいレイ(ひと)」という意味のロマンティックな曲です。
レイも衣装の一部。ハワイの島々にはそれぞれシンボルの色や花があるそうです
大会では、『レイ ナニ』と『涙そうそう』(作詞:森山良子・作曲:BEGIN)を踊るそうです。
腕をきれいに上げる所作も大変です
日本の曲でフラダンスを踊るのですか?と聞くと
「日本のフラダンス人口は、本場ハワイより多くなっていて、数百万人以上ともいわれています。『見上げてごらん夜の星を』(作詞:永六輔 作曲:いずみたく)や、『花は咲く』(作詞:岩井俊二 作曲:菅野よう子)なども人気が高いようです」(宮部さん)
ハワイ語でフラダンスのレッスン
『レイ ナニ』を踊りながら、合間に、ハワイ語で宮部さんが声をかけます。
「アノ アイ(’Ano`ai)」=あいさつ
「ハイナ(Ha`ina)」=もう1度
「ホイマイ(Ho`i mai)」=戻ってきて
宮部さんは、動きも誘導します。「歩き出して」、「腕をクロスして」、「腕を斜めに」など。
髪飾りは、未婚者は右側に、既婚者は左側に付けます
曲が終わりに近づき、宮部さんが声をかけて、みんなが最後の決めポーズを取りました。ビシッと決まった、といかなかったのは、「撮影されていることを意識して、緊張してしまったから」。誰かがそう言うと、大きな笑いが起こりました。
話を聞いている間も何度も笑い声が響きました。明るくて、とても仲の良いサークルなのです。
レッスン後のお茶の時間も楽しみ
レッスンが終わると、お茶とお菓子を用意して、おしゃべりタイム。それも楽しみの1つなのです。『ハイビスカス』のメンバーは女性のみで、生徒は70代が9人、60代が1人、80代が2人。80代のメンバーはお休みでした。
メンバーそれぞれが、ほかの活動もしていて、この日も予定のある2人が途中で席を立ちました。
中村美智子さんは、9年前に、仕事の忙しさから気分を開放するためにフラダンスをはじめたそうです。
中村美智子さん
杉並区主催のフラダンスの講習会に参加した寺下千佳子さんは、フラダンスをはじめて約5年。以前はジャズダンスをしていたそうです。
寺下千佳子さん
杉並区の講習会がはじまり
全国の自治体の広報を見ると、様々な無料講習会が行われています。サークルの先生、宮部洋子さんがフラダンスをはじめたのも、22年前に杉並区のフラダンス無料講習会(4回)に参加したのがきっかけでした。
「参加者は50人くらいでしたが、講習会の講師の方に、引き続き、先生をお願いして、区の集会所ではじめました。そのあと月謝制になって、3年経ったころに、教えてみませんかというお話がありました。私はプロではありませんからと、おことわりしたのですが、一緒に楽しめばいいのではないですかと言われて、お引き受けしたのです」(宮部さん)
足腰を適度に鍛えるフラダンス
メンバーの一人ひとりに、フラダンスをはじめたきっかけなどを聞いてみました。
平井順子さん
平井順子さんは、以前、別の町に住んでいて、フラダンスを習っていたそうです。
「上半身の姿勢を保ち、腰を低くしてステップを踏むので、足腰が鍛えられて、老化による転倒防止にもいいそうです。ここでは、若いひとたちのサークルのような、早い曲は踊りませんが、それでもレッスンを受けると、汗をかきます」と言います。
ハワイのクルージングツアーの、船のなかでフラダンスを見て、それをきっかけに別ツアーで参加していた宮部さんを訪ねたと言うのは、富安祥子さんです。
富安祥子(さちこ)さん
富安さんは、ジャズダンスとエアロビクスをやっていましたが、年齢を重ねてもつづけられそうなフラダンスに興味を持ったそうです。
「ジャズダンスなどと比べると、フラダンスのスローテンポの曲は、音を聞き、感じとってから、からだを動かします。そのテンポ感が気持ちいい」と言います。
笑顔をつくりながらも、頭のなかでは「次の振り」
スローテンポの曲に合わせて、ゆったりとからだを動かしているように見えるフラダンスですが、実際にやってみるとそのイメージとは違っていた、とメンバーは口を揃えます。
太田瑞代さん
太田瑞代さんは言います。
「きれいな音楽を聴きながら、きれいな衣装を着て、からだを動かすことができる。そう思って、4年前にはじめたのですが、振りを覚えるのが大変で、覚えたと思ってもすぐに頭から抜け落ちて、また覚える。それもよい刺激です(笑)」
太田さんは、スキーやゴルフなどの運動が得意で、体力とリズム感には自信があると思っていたそうですが、スポーツとダンスは違うようです。
「宮部先生のような手の柔らかい動きや笑顔。これが難しいんです」
太田さんの話によると、振りつけを覚えやすい曲とそうでない曲があるそうです。それを聞いて、先生の宮部さんが、
「ほんの少しだけテンポの速い曲を教えたことがあるのですが、結局、みんなが覚えてくれなくて…好きな曲しかやってくれないんですよ(笑)」
普通のサークルとは少し違っているようですが、そんなところも自由で楽しそうです。
自然な笑顔がつくれるまでには…
岩田知子さん
岩田知子さんがフラダンスをはじめたのは約20年前。介護をするために中断していましたが、宮部さんが『ハイビスカス』で教えるようになって、声をかけられて再入会したそうです。
「最初は、地域のひととおつきあいできるものを探していて、フラダンスをはじめたんです。このグループは、気兼ねなく、話ができるので、ほんとうに楽しくて。華やかな衣装を着ると、パッと気持ちを切り替えられるのもフラダンスのよいところです」(岩田さん)
笠原光子さん
笠原光子さんは、3年前、定年退職後にはじめるものを探していたときに、寺下さんに誘われたそうです。曲を聞いて、手と足、別々に動かし、頭のなかで、次の振りを考えていると、顔が強張っていることに気づくこともあるそうです。
「寺下さんの笑顔が素敵で、どうしたら、そういう表情になるのと聞くと『踊っていると自然に笑顔になる』のだそうです。最近、私もやっと、踊っているときに歯を見せて笑うことができるようになりました」
笠原さんが、そう言うと、「表情が柔らかくなったわよね」と、みんなが口を揃えて言います。
笠原さんは、自宅にいるときに、テレビからレッスン曲が流れてくると、つい振りをはじめてしまうこともあるそうです。「主人も息子も、見ないふりです(笑)」
知れば知るほど奥の深いフラダンス
日?弘子さんと大月久子さんは姉妹です。
「2年前に私がフラダンスを習いはじめて、楽しかったので、社交ダンスをやっていた姉(大月さん)にも勧めました」(日?さん)
日?弘子さん
大月さんは、18歳のころから、子育ての時期をのぞいて、現在も社交ダンスをつづけています。長年、高いヒールの靴で激しい動きをつづけてきたことと、のめりこんでしまう性格が災いして、60代後半になると膝を痛めてしまいました。横断歩道も1度で渡れないくらいになったそうです。
大月久子さん
「フラダンスは、膝の柔らかさも大事なのですが、いまは痛みはなくなりました。はだしで、しっかりと床をつかんで踊るので、それがいいのだと思います。社交ダンスに比べると、動きはソフトで簡単そうに見えたのですが、最初は難しかったです。フラダンスには、社交ダンスとは違う奥の深さを感じます」(大月さん)
神聖な儀式の「カヒコ」と、西洋の音楽と融合させた「アウアナ」
フラダンスのHula(フラ)は、ハワイ語の「踊り」。
ことばを持たなかったころに、男性が、神話や伝説など、歴史を継承するための物語を伝えたり、自然や神に祈りを捧げたりするための神聖な踊りだったのだそうです。19世紀に、アメリカの宣教師たちが、外見が近代的ではないとして、約50年間、フラダンスやサーフィンなどハワイ独自の文化は禁止されていました。
ハワイ王国第7代目の国王が、西洋の音楽や、メロディを奏でる楽器(ギター・ウクレレなど)と融合させた新しいハワイアン・ミュージック、新しいフラダンスとして、復活させたそうです。
メロディに合わせて踊るフラダンスを「アウアナ」といいます
カラフルな衣装で踊る、新しいフラダンスは「アウアナ(Auana)」。詠唱(オリ)や歌(メレ)、ハワイ古来の打楽器を打ち鳴らしながら厳粛に勇敢に踊る古典的なフラダンスは「カヒコ(kahiko)」。1964年から、そのように区別して呼ばれるようになったそうです。
フラダンスが、人生の先輩たちと交わすことばに
「フラダンスは、振りが言葉を現すこともありますが、手話のようにすべての言葉があてはまっているわけではないのです。ただ、イメージを表情や手などの動きで伝えようとすることが、もしかしたら、ひとと接するときに活かされているかもしれないと思うことがあります」(宮部さん)
フラダンスサークル『ハイビスカス』は、社会福祉法人 杉並区社会福祉協議会で推進するボランティア活動に参加しているそうです。協議会から、あるいは老人ホームから直接連絡が来て、デイサービスでは、フラダンスや、ウクレレをひいたり、半分の時間は歌を歌っています。
見習いたい、しなやかな手の動きと笑顔
「目にあざやかなフラダンスの衣装は大変喜ばれます。歌と一緒に当時の記憶がよみがえることも多いようで、涙ぐまれる方もいらっしゃいます。いつかはわたしたちもその年齢を迎えると思うと、デイサービスのひとたちと共有する時間も、わたしたちの大切な時間となっています」(宮部さん)
フラダンスは、ふだんの生活のなかでも活きているようです。
素敵な笑顔で、部屋のなかは常夏のハワイのように明るく
文=水楢直見(編集部)2016年11月取材
東京都杉並区 ゆうゆう館