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《シニア・シネマ・リコメンドVol.8》深い感動を呼ぶ物語『83歳のやさしいスパイ』
シニアの方に、編集部が独断で選んだ映画をご紹介するシリーズ《シニア・シネマ・リコメンド 》。今回はユニークな切り口が世界各地の映画祭で高く評価され、深い感動を呼ぶドラマタッチのドキュメンタリー『83歳のやさしいスパイ』をご紹介します。
実際の新聞広告から生まれた奇跡のドキュメンタリー
本作を観始めて、あれ?これドキュメンタリーって書いてあったよな?と思わず再確認してしまった。それほど個性豊かな登場人物のキャラ設定やコミカルなセルヒオの振る舞いがよく出来ていたのだ。
本作は製作チームが、「年配の人たちについてのドキュメンタリーを作るために、施設内で職員と入居者に起こる 、 良いことも悪いことも全て撮影したい 」と、事前に施設に撮影許可を取り、またセルヒオが入居する2週間前から撮影を開始したので、入居者に怪しまれることなく済んだ。
マイテ・アルベルディ監督が私立探偵の助手として働いていた際に、身内が老人ホームでどのような生活をしているか調べてほしい、という依頼が繰り返し入ってきた。お互いにちゃんと話し合えば、探偵や探偵事務所の助けを借りなくても問題を解決することができる、と思った監督は、結果の報告以上のことをドキュメンタリーで描きたいと思い、今回の映画を作ったのだそう。
“高齢男性 1名募集。80歳から90歳の退職者求む。長期出張が可能で電子機器を扱える方”という求人広告に応募してきたセルヒオの娘は、仕事内容が老人ホームへの長期潜入調査だったことを知り、父を心配するが、セルヒオは「毎日同じ散歩の生活に飽きた。頭を使って大変だが心はすっきりしている」と説得し、スパイの仕事を受ける。現役を引退した老後生活はゆっくり過ごすのが良いと若者には思われがちだが、実際にはそんなことはない人達が多いのだ。
久々の仕事に張り切ったセルヒオは、毎日ターゲットである高齢女性をマークし、スパイ活動に励むものの、まめで人のいいセルヒオは、雇人のロムロ へ報告をする度、依頼に関わる報告以外のセルヒオ個人の感想がだんだんと増えていく。それに対し依頼人の任務を遂行したいロムロは証拠写真がないことや報告内容のズレに対し苛立ちを覚える。だが最後は、セルヒオが本当に伝えたかったことに気づかされる。
セルヒオが入居してから三か月間の中で、これまた脚本に書かれていたかのようなドラマティックな出来事が沢山起こる。高齢になって、身寄りもなく、居たとしてもあまり会う事も出来ず、突然一人知らない群の中に入って生活するというのはどういうことか、自分自身の老後や、両親を施設に入れようと考えている人が、考えるきっかけになる映画だと思う。
アルベルディ監督は 「映画館を出た後に、親やおじいさんやおばあさんに電話をかけてくれたらすごくうれしいです 」と語っている。
映画『83歳のやさしいスパイ』 は7月よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開です
■STORY
“高齢男性1名募集。80歳から90歳の退職者求む。長期出張が可能で電子機器を扱える方”この不思議な新聞広告を見て、何人もの男性が A A 探偵事務所を訪れた。多くの候補者の面接を経て選ばれたのは、83 歳の男性セルヒオ。4カ月前に妻を亡くしたばかりで、新たな生きがいを探していた彼がスパイにふさわしいと採用されたのだった。
スパイの仕事はなんと、老人ホームへの潜入 捜査だった。ある依頼者が、自分の母親が施設内で虐待を受けている、そして盗難にあっているのでは?という疑念を抱き、聖フランシスコ特養ホームの施設内を捜査して証拠を押さえて欲しいという依頼を出した。
セルヒオは毎日、ターゲットである高齢女性をマークし、生活の様子を誰にも気づかれずに ロムロにスマホで 報告することになった 。スマホを使ったことの な いセルヒオは写真撮影やメールなど、電子機器の使い方に悪戦苦闘する有り様で、探偵事務所のロムロを心配させる。
しかし、誰からも好かれる心優しいセルヒオは、すぐに施設内の人気者になる。入居している女性たちから惚れられたり、人生相談を受けたり、一切嫌がらずとても丁寧に対応する。
果たして 、潜入捜査は解決に向かうのか。そして、セルヒオが長期間施設の中にいて感じ、語った、ある重要な真実とは―。
【作品紹介】
公式サイト : 83spy.com
監督・脚本:マイテ・アルベルディ
出演:セルヒオ・チャミー ロムロ・エイトケン
2020年/ドキュメンタリー/チリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン/ 89 分/カラー/ビスタ/ 5.1ch
日本語字幕:渡邉一治
配給・宣伝:アンプラグド