いま注目のあの人

今注目のあの人 第24回
64歳で映画『エキストロ』初主演 萩野谷 幸三さん

前回《シニア・シネマ・リコメンド Vol.2》 でご紹介した映画『エキストロ』に、64歳にして映画初出演、初主演を務めた「萩野谷幸三」さん。俳優をすることになったきっかけや、この映画に対する思い、制作中の苦労話等を伺いました。

63歳で初主演を務めた萩野谷さん/(C) 2019 吉本興業株式会社

歯科技工士と農家と俳優。 どれも”一生懸命”やりたい。

歯科技工士が本業ということですが、何故俳優をされたのでしょうか

萩野谷:芝居の方が先なんですよ。高校生の時に、その道に進もうと思い、早稲田の文学部に演劇科というのがあるんですよ。その先に早稲田小劇場というのがあって、 そこに白石加代子さんという方がおり、なんとか共演したいな、と思ってそれを目指したんですよ。そしたら親父に「もう帰ってこなくていい」と言われ、よくある俺の時代の勘当ものですよ。親父にそんなこと言わせてしまったあれがあるんでね。
それで 18歳の時に 笠間市の岩間町というところに劇団をつくるんですよ。それで親父に随分言われてね、「技工士になれ」と。で、技工士になって。

※ 茨城県西茨城郡にあった町。2006年3月19日に笠間市、西茨城郡友部町と合併し、(新)笠間市が成立したことにより廃止された。

役でも事実でもある農家のシーン /(C) 2019 吉本興業株式会社

萩野谷: 農業はそのあと。親父がもうやらない(田んぼを)と言ったんで、35歳の時に「よし、田んぼやろう」と思って。それでやっているうちに色々な事をやるようになってしまったんですよ。芝居はやりたい、歯科技工士は本業、農業は米を作っていつか飢え死にしないようにするために。それでいつの間にか3つやるようになっちゃった。

どれか一つに絞ろうとは思わなかったのですか?

萩野谷:う~ん。どれもなんとかやろうと思ってしまうんだよね。

器用なんですね。

萩野谷: いや、器用じゃないんですよ。不器用なんですよ。 器用だったらどれか一本に絞りますよ。いやほんとに。ダメなんですよ。どれも一生懸命やる。どうせ作るならうまい米を作る。無農薬でやる。技巧やるなら、自分で言うのもあれだけど、普通技巧物は240種類くらいあって、開業には12種類あれば出来るんですが、200種類まで目指すんですよ。で、190種類は超えましたね。入れ歯においてはトップになろうと。でも皆ね、過酷でやめちゃうんですよ。
まぁ、ここからの話は「長くなるんですか?」と言ったらやめます(笑)。

まだまだお話は聞きたいところですが、お時間が限られているので・・・

技工を理解していただくためにもね、本当は頑張って上に行きたかった仕事でもあるので、取り上げて頂いてありがたいですよ。
技工をやっていてよかった。芝居もやっていてよかったし。

都道府県魅力度ランキング最下位のわけ

映画『エキストロ』のシーンより /(C) 2019 吉本興業株式会社

後藤: でもこの映画って、萩野谷さんの田んぼや自宅で撮影されていて、萩野谷さんも歯科技工士で、農業やってて、萩野谷さんの友達が見たら、普通のドキュメンタリーだと思っちゃうんでしょうね。友達の反応とか聞きたいですよね。

萩野谷:そうでしょうねぇ。同級生も応援してくれて、皆チラシとか配ってくれて。萩野谷が出るなら配るってね。

後藤: じゃあ昔懐かしい宣伝カーとか走らせてくださいよ。

萩野谷: そうだねぇ。(といいかけて)あ、いやいやぁ。

後藤:「芝居、萩野谷幸三~、エキストロ~、堂々上映~」って。

萩野谷: そうそう、俺昔セリフ言ったことあるんですよ。子供の頃。地域とともにですよ。そんな茨城を撮ってくれたのはありがたいですよ。限界集落であと10年で終わりますから。
茨城県の人の気質って、知っていれば知っているほど素通りしてしまうんですよ。普通ならワープステーション江戸のようなところがあったら、周りに盛り上がった部分が出来るんですよ。ところが素通りしてしまう。逆に盛り上がりを恥ずかしがってしまうのが茨城県民なんですよ。ノリが悪い。だから茨城が
都道府県魅力度ランキング 最下位なのかなって。。

1位というのはいい事だと思いますけど。なんでも”1位”というのは。

萩野谷: 一番ね。一番下にあるんですよ。

一番ってことは皆知っているという事ですから。

萩野谷: いや、それでいいんですよ。

出演者たちさえも知らない映画の顛末

エキストラ役を熱演する萩野谷さん /(C) 2019 吉本興業株式会社

今回初主演とのことですが、舞台と映画は大分違いますか?

萩野谷: やっぱり違いますよね。後藤さんのようにナチュラルな方に持っていくというのは大変な集中力が必要ですね。

後藤:しかも結末知らないで役をやれって演劇ではありえないですよね。

映画でもないんじゃないですか?

萩野谷・後藤:(声を揃えて)ないですね(笑)。

萩野谷: 「この後どうなります?」「萩野谷さんが突然出なくなります。」なんてね。

後藤: 急に刑事ドラマにかわるし。

萩野谷:後でDVD観て、「あ~こういう映画だったのか」ってね。もっと早く教えてくれよって。
でもありがたいね。特殊な映画に関われたという事も、リアルな芝居をやらせてもらえたという事も、財産ですよね。

後藤: 映画って「これだ」というその一瞬さえ決まれば、もう二度と撮影をする必要がないですが、演劇だと何回も毎日やらなければならないという難しさがありますからね。
急に髭剃ってくれと言われた萩野谷さんの反応なんて、「じゃあもう一回行きます」では撮れない反応ですからね。

萩野谷:あれリアルな反応なんですよ。

え、あれそうなんですか?

だって剃らないでくれって言われてたから。でも頭の中で混乱してるから。で、うすうす気づくわけですよ。あ、仕掛けか!って。しばらくトラウマですよ。騙されてるんじゃないかって。

今後はバラエティ番組出演も!?

今回映画出演されて、今後も更に出演してみたいですか?

萩野谷: そうですね。機会があればまた出させてもらいたいです。

後藤: 映像の仕事とか、俺はあると思いますよ。どう変わっていくか楽しみですね。気づいたら『 ダウンタウンDX 』 に座ってたりして。

萩野谷: 延々と俺困惑した顔で、キョロキョロしながらね。

有難うございました。 是非ダウンタウンDXで拝見できるのを楽しみにしております。

撮影を終えて 萩野谷幸三さん(左) 後藤ひろひとさん(右)/撮影:山本 恵子

萩野谷さんの印象は本当にその辺で畑耕していそうな普通の人良さそうなおじさん。(失礼!)映画の主役にもかかわらず、でしゃばったり着飾ることも一切なく、また茨城県気質なためか、非常に謙虚で自然体な方でした。取材したこの日はバレンタインデーだったので、気持ち程度のチョコレートを差し上げたのですが、そんなプレゼントに対してもたいそう喜んで頂いて、萩野谷さんの人の良さが伝わりました。そんな自然体の萩野谷さんだからこそ今回の役に抜擢されたのかもしれませんね。
(撮影時も萩野谷さんの右手にしっかりと握られているのが上記写真でわかります。)

是非、箇条書きの指示で名演技をしている萩野谷さんを劇場でご覧になってください。

映画『エキストロ』 は2020年3月13日(金)より新宿シネマカリテ他全国順次ロードショーです

■Profile
萩野谷 幸三(はぎのや こうぞう)
1954年生まれ。茨城県出身。現在65歳。歯科技工士として働く傍ら、茨城県で活動する劇団創造市場に所属。高校卒業後から現在までの48年間、劇団創造市場の座員として、地元に根付いた演劇活動を行っている。偶然にも今作撮影前の、2018年に後藤ひろひと作「パコと魔法の絵本~MIDSUMMER CAROL~」を上演し、主役である大貫役を演じている。今作が、映画初出演にして、初主演となる。将来が楽しみな大型ルーキーとして、映画業界の注目を集めている。

関連記事: 《 シニア・シネマ・リコメンド Vol.2》昭和世代ならドはまり間違いなしの映画『エキストロ』
映画の誕生についての裏話等をご紹介しております。

【作品紹介】
映画『エキストロ』
公式サイト: http://extro.official-movie.com

出演:萩野谷幸三 山本耕史 斉藤由貴 寺脇康文 藤波辰爾 
黒沢かずこ(森三中) 加藤諒 三秋里歩 石井竜也 荒俣宏 大林宣彦
監督:村橋直樹 
脚本:後藤ひろひと 

制作:吉本興業 NHKエンタープライズ 
製作・配給:吉本興業 
宣伝:フリーストーン ガイエ

2019 年/日本/89 分/カラー/アメリカン・ビスタ/5.1ch デジタル


【イントロダクション】

ありえない!この豪華キャスト!!前代未聞のモキュメンタリー!!


テレビや映画の時代劇撮影が数多く行われる茨城県つくばみらい市にある巨大ロケ施設「ワープステーション江戸」を舞台に、エキストラたちの悲喜こもごもの営みを描く骨太なドキュメンタリー・・・と思いきや!?

キラキラ輝く主役スターたちの脇で、文句も言わずに撮影に参加するエキストラたち。そんな中、ある撮影の現場で彼らを取り巻くとんでもない事件が発覚。物語が一気に急展開を迎えるのだった!

大林宣彦監督はじめ、山本耕史、斉藤由貴、寺脇康文など、脇を固める主役級の役者の“狂”演と、藤波辰爾、黒沢かずこ(森三中)、加藤諒、三秋里歩、石井竜也、荒俣宏らが、それに輪をかけて”嘘か本当か”リアルに出演!

映画製作の夢と名もなき人生の愛おしさを謳い上げる本作は、すでに海外の映画祭で大反響!!全てが前代未聞、珍事大発生、でもこれが人生。人生の主役は、あなたなのです。

映画『エキストロ』のシーンより/ (C) 2019 吉本興業株式会社

【あらすじ】
萩野谷幸三、64歳。普段は歯科技工士として黙々と働きながら、男手ひとつで息子を育てた実直な男。だが実は、彼にはひそやかな情熱がある。それは、自身がエキストラとして、様々な映画やドラマに出演すること。彼が所属している地元のエキストラ事
務所「ラーク」には、他にも実に様々な人間が集まっている。そんなある日、萩野谷を密着するドキュメンタリー番組のカメラが、様々な真実をとらえ始め、ある一つの事件を露呈させる。映像に映り込む”何か”が、ある事件の大きな鍵を握ることに・・・。


映画『エキストロ』ポスター/ (C) 2019 吉本興業株式会社
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