趣味や愉しみ

《シニア・シネマ・リコメンド Vol.2》
昭和世代ならドはまり間違いなしの映画『エキストロ』

シニアの方に、編集部が選んだ映画をご紹介するシリーズ《シニア・シネマ・リコメンド 》。今回は昭和世代には少し懐かしく、嘘と本当が入り混じったモキュメンタリー映画『エキストロ』です。普段は日の目を見ないエキストラにスポットをあてた映画、制作は今何かと話題の吉本興業です。

(C) 2019 吉本興業株式会社

嘘と本当が入り混じった映画『エキストロ』

映画やテレビドラマなど、1つの作品が作られるまでは主役、脇役はもちろんの事、メインキャスト以上に沢山の「エキストラ」の方達が活躍されています。当サイトでもエキストラを副業にしているシニアの方をシニアのための“銭稼ぎのススメ” 【第3回】ドラマや映画に出演「エキストラで稼ごう」の記事の中でご紹介しました。そんなエキストラの方々はアクションスターを夢見る俳優志望の若者、付き合いでいやいや参加する町内の顔役、画面に映ったことをスナックで自慢するのが趣味のおじさん、セカンドライフとして撮影を楽しむ大企業の元社長など、実に様々な背景があります。この映画はそんな彼らにスポットをあてた映画です。

エキストラが主役で有名俳優が脇役で、どこまでが演技でどこまでがアドリブで、何が本当の話で何が嘘(架空)なのか、嘘と本当が入り混じった「モキュメンタリー」という偽ドキュメンタリーを意味するこの映画『エキストロ』の脚本を手掛けた後藤ひろひとさんと主役の萩野谷幸三さんにこの映画の見どころや誕生秘話などをうかがいました。

通称”大王”。後藤ひろひとさん/(C) 2019 吉本興業株式会社

ちょっとヘンテコな世界をつくりたい

まずタイトルについてお聞きしたいのですが、「エキストラ」という言葉はよく聞きますが、 「エキストロ」というのはどういう意味なのでしょうか?

後藤:最初の台本書いたとき、エキストラ・オーディナリィ(Extra ordinary)
というタイトルだったのですが、普通という意味の単語Ordinary にExtraをつけると、「異常」という言葉になるんですよね。エキストラを使いながら、ちょっとヘンテコな世界をつくりたいと思って、 エキストラ・オーディナリィ を縮めて「エキストロ」にしたんですよ。

今回何故「エキストラ」をテーマにされたのですか?

後藤: 茨城県のつくばみらい市にある、「ワープステーション江戸」という広大な敷地のオープンセット施設があるんですが、戦国時代、明治、大正、昭和など色々な時代があって、それを全部使って何か脚本が書けないか、と言われた時、下手にタイムスリップものとか書くよりも、自由に行き来できる人は誰か、と考えたらエキストラさんだったんですよね。


過去にタイムスリップしたかのような本格的なオープンセットを備えるワープワープステーション江戸/ (C)ワープステーション江戸

現役つくばみらい市市長さんも全面協力で茨城をPR

映画には、茨城のスポットが沢山出てきますよね

後藤: そうなんですよ。ワープステーション江戸って毎日凄いスターがいるところなのに、周りには何もない。お昼を食べるところもない。それで「ここはもっと盛り上がるべきじゃないの?」と思ったんです。
例えば今ブルガリアに、ニューヨークの街そっくりなものが建っていて、カーチェイスとか爆破とかの撮影のために皆ブルガリアに行くんですって。周りにはホテルとかレストランとかもあって、とんでもないハリウッドスターがブルガリアの街をうろうろしている。それやんなはれ茨城も、と。地域を盛り上げる必要性はなかったんですが、こんな面白い場所があるならねぇ。

― つくばみらい市市長役には、本物の現職市長さんが出演されてます。しかし、一般的には茨城の人の気質はシャイであまり前面には出ないそう。それが撮影場所付近が発展しない理由だと主役の萩野谷幸三さんは語っています。詳しいお話の内容は続編記事の「注目のあの人」の中でご紹介。-

つくばみらい市市長”役”の本物の市長さん / (C) 2019 吉本興業株式会社

同じ時代劇の場所でも、京都の太秦(うずまさ)っていうと有名ですけどね。

後藤: そう、太秦よりも設備としては凄いんですよ。だってセットの中に電車が走ってますからね。それ1回動かすと50万かかると言われたから、俺らは皆で手で動かしましたけどね。そんな予算はないって(笑)。

路面電車も走ってる/ (C) ワープステーション江戸

― 後でワープステーション江戸のウェブサイトを見たら、料金表があり、路面電車1日50万 /日 ( 操演要員は別途 )、リヤカー2,000円 / 日等、細かく設定されてました。映画はお金がかかるといわれるのも納得です。-

リアルを追求するためにした、「普通の映画ではありえないこと」

脚本を書く上でこだわったことはありますか?

後藤: 萩野谷さんの役というのはもともと違う名前の役だったんですけど、その役者に全てがかかっていると思ったので、出来るだけリアルな演技をしてもらうために、セリフとしては書かずに箇条書きで、こういう言葉を引き出す、というのをインタビュアーの方に指示を書いて、萩野谷さんにもその箇条書きを渡しました。

後藤: (萩野谷さんに向かって)でも全部はくれないんでしょ?

萩野谷:うん、全部はくれない。「台本ください」と言っても全部はくれない。
「私は何をしたらいんでしょうか?」って。この顛末を知りたいわけですよ。でも知らない。作為に満ちてますよ(笑)

箇条書きの指示で演じる萩野谷さん/ (C) 2019 吉本興業株式会社

リアルな苦労姿を見せたかった。

主役が若い方ではなく初老の方にしたのはなぜですか?

後藤: 若い子はなんでもできちゃうでしょ。だから苦労して立ち向かうストーリーにはなりにくい気がしたんですよね。それでは現実味がないかなと思って。
今の若い子がエキストラになりたいなら、劇団に入ったり、プロダクションに入ったりしてスターを目指すじゃないですか。そうではなくて、どこかにそういう思いはあったんだけど、誰にも言えなくて、でもこの年になって子供も成長して自立したんだったらここらで俺の夢をちょっとやってみようかな、というほうがリアルかなと思って、現れたのが萩野谷さんだったんですよ。

実際にいる、問題児エキストラ

映画の中では問題あるエキストラが多かったですが、実際の現場でもエキストラの方達が原因で撮影を中断されるようなことはあるのですか?

後藤:この映画に登場するエキストラのお話は、撮影を始める前に茨城の民間のエキストラ事務所の代表と実際にエキストラをされている方3人くらいからお話を聞いたのが元になっているんですけど、実際にあるんですって。映画に出てくるようなエキストラの人たちが。

そうなんですね、まるでカトちゃん、ケンちゃんやドリフターズのコントみたいだなと思いましたが、実際にあった出来事なんですね。

後藤: そう、実際にあったエピソードをネタに盛り込んでいるんですよ。 もちろん少しでも不祥事を起こしたらすぐクビになるそうですが。

困りもののエキストラもいる/(C) 2019 吉本興業株式会社

あの懐かしさがもう一度観れる。

シニア世代にはどんなポイントを見て欲しいですか

後藤: 萩野谷幸三という農家で歯科技工士である一人の俳優が、この映画に挑む姿というのは感動的になるように作りましたし、 最後のラストシーンは俺はとても好きですよ。 刑事のバカさ加減であったり、古いタイプのコメディであるので。どこも斬新な部分はないと思いますね。もともと俺らは木曜スペシャルとか、川口浩とか、矢追純一とか、新倉イワオみたいなもので育っているんでね。 だからもう一度その文化を取り戻すために作っているので、途中で怪獣になるのも必然的な事で(笑)。 そういうのはシニアのかたにも伝わると思いますよ。

有難うございました。

(萩野谷さんのお話は続編に続きます。)

脚本を手掛けた後藤ひろひとさん(右)主役の萩野谷幸三さん(左)/撮影:山本恵子

今回お話を聞いて、映画を見ただけでは知りえない 「それって実話だったの?あれは嘘なんだ・・」というような驚きの事実がいくつも判明しました。

映画『エキストロ』 は嘘と本当が入り混じった、エキストラが主演で豪華キャストが脇役で、この映画のエキストラというのもまた存在し、スタイルもコメディのような、コントを観ているような、メイキング映像を観ているような、これまた型にはまらない新スタイルの映画です。

あなたも是非劇場で昭和の懐かしさを楽しんでみてください。

映画『エキストロ』2020年3月13日(金)より新宿シネマカリテ他全国順次ロードショーです

■Profile
後藤 ひろひと(ごとう ひろひと)
通称“大王”。俳優・作家・演出家。1987年遊気舎に入団。89~96年の退団まで二代目座長を務め、劇作・演出を手がける。98年に「Piper」を結成。Piperでの劇作 活動以外でも、パルコプロデュースやG2プロデュースなど数多くの舞台で脚本や演出を手がけ、2001年より自身が主宰する「王立劇場」を旗揚げ。カラフルでハートウォームなコメディは多くのファンの支持を得ている。08年公開『パコと魔法の絵本』(脚本・監督:中島哲也、主演:役所広司)の原作者としても注目を集める。脚本を担当した19年公開映画『Diner ダイナー』(監督:蜷川実花、主演:藤原竜也)は大ヒットを記録した。

【作品紹介】
映画『エキストロ』
公式サイト: http://extro.official-movie.com

出演:萩野谷幸三 山本耕史 斉藤由貴 寺脇康文 藤波辰爾 
黒沢かずこ(森三中) 加藤諒 三秋里歩 石井竜也 荒俣宏 大林宣彦
監督:村橋直樹 
脚本:後藤ひろひと 

制作:吉本興業 NHKエンタープライズ 
製作・配給:吉本興業 
宣伝:フリーストーン ガイエ

2019 年/日本/89 分/カラー/アメリカン・ビスタ/5.1ch デジタル


【イントロダクション】

ありえない!この豪華キャスト!!前代未聞のモキュメンタリー!!


テレビや映画の時代劇撮影が数多く行われる茨城県つくばみらい市にある巨大ロケ施設「ワープステーション江戸」を舞台に、エキストラたちの悲喜こもごもの営みを描く骨太なドキュメンタリー・・・と思いきや!?

キラキラ輝く主役スターたちの脇で、文句も言わずに撮影に参加するエキストラたち。そんな中、ある撮影の現場で彼らを取り巻くとんでもない事件が発覚。物語が一気に急展開を迎えるのだった!

大林宣彦監督はじめ、山本耕史、斉藤由貴、寺脇康文など、脇を固める主役級の役者の“狂”演と、藤波辰爾、黒沢かずこ(森三中)、加藤諒、三秋里歩、石井竜也、荒俣宏らが、それに輪をかけて”嘘か本当か”リアルに出演!

映画製作の夢と名もなき人生の愛おしさを謳い上げる本作は、すでに海外の映画祭で大反響!!全てが前代未聞、珍事大発生、でもこれが人生。人生の主役は、あなたなのです。


映画『エキストロ』のシーンより/ (C) 2019 吉本興業株式会社

【あらすじ】
萩野谷幸三、64歳。普段は歯科技工士として黙々と働きながら、男手ひとつで息子を育てた実直な男。だが実は、彼にはひそやかな情熱がある。それは、自身がエキストラとして、様々な映画やドラマに出演すること。彼が所属している地元のエキストラ事
務所「ラーク」には、他にも実に様々な人間が集まっている。そんなある日、萩野谷を密着するドキュメンタリー番組のカメラが、様々な真実をとらえ始め、ある一つの事件を露呈させる。映像に映り込む”何か”が、ある事件の大きな鍵を握ることに・・・。


映画『エキストロ』ポスター/ (C) 2019 吉本興業株式会社

参考:ワープステーション江戸
※昨今の新型コロナウィルス対応のため、2020年3月16日(月)まで臨時休館いたします。

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