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《コラム》ダボハゼ見聞記 第23回『ウッディ・アレンはお好き?』

七つの顔をもつヴォーカル・パフォーマー、ダボハゼのぺぺさんが、好奇心の赴くまま、自ら見て、聞いて、体験したことを、シニア世代の本音として、また団塊世代の視点で綴る不定期連載コラムです。今回のテーマは、『ウッディ・アレンはお好き?』です。

 ウッディ・アレン監督のロマンチック・コメディ『サン・セバスチャンへ、ようこそ』をTOHOシネマズ 日比谷で観た。

<あらすじ>
※ネタバレを含みます。

 物語は、小説家である主人公モートがプレス・エージェントの妻スーに同行し、サン・セバスチャン映画祭に赴くところから始まる。というのもモートは、愛する妻スーが映画監督フィリップと浮気しているのではないかと心配でならないのだ。案の定、スーがフィリップと海岸でデートしているのを友人から聞かされる。
 妻の気を惹こうと心臓が痛いとか言って、友人に紹介された医者に行く。そこで、モートは女医ジョーに一目惚れ。彼女とドライブをして家まで行くと、画家の夫の浮気現場に出くわす。一方妻スーは、フィリップと結ばれ、モートに別れを告げる。ジョーへの恋心も結局実らなかったモートは、一人寂しくニューヨークに帰るのだった。

<背景>

 スペイン北部のフランスとの国境をまたぐバスク地方にあるサン・セバスチャンで開催される映画祭を舞台にロマンチック・コメディというよりシリアスな一人の老人の哀愁を描いた映画だ。もちろん、アレンらしいコミカルで皮肉でウイットのある会話が多い。主人公モートは、〇ゲ〇ビの冴えないジイさんだ。もともと映画論を大学で教えていた教授だが、今は大作を書こうともがいている小説家だ。これは、監督であるウッデイ・アレン自身を投影しているようだ。彼の作品は、過去の偉大な監督作品へのオマージュと偉大な作家たちへの憧憬が描かれることが多い。この映画でも、ゴダール、ルルーシュ、トリュフォー、フェリーニ、ベルイマンなどの映画作品が散りばめられている。現実と夢想が入り乱れながら進行していくので、観客の頭は混乱する。しかし、これがウッディ・アレンの真骨頂だ。過去の作品『ミッドナイト・イン・パリ』も、1930年代のパリに主人公がタイムスリップし、ピカソやダリ、ヘミングウェイなどの偉人と遭う場面が描かれている。ビスケー湾の真珠と称される美食と風光明媚なサン・セバスチャン。モートと女医ジョーのドライブでもその美しい街並みと風景が目に飛び込んで来て楽しめる。

イメージ/イラストAC

アレンの魅力

 御年88歳。その製作意欲はいまだ衰えず、次回作にも取り組んでいるらしい。彼の作品に惹きつけられる魅力は何なのだろう。彼は、ニューヨークブロンクス出身の生粋のニューヨーカーだ。1935年12月にユダヤ人の家庭に生まれた。家庭の中では虐げられた存在だったようで、現実逃避で映画やジャズに傾倒するオタクな少年だった。そのオタク少年がマジックやコメディに目覚め、やがてスタンドアップ・コメディアンとして舞台に立ち、放送作家としても注目されるようになる。そして、映画「アニー・ホール」でアカデミー賞まで獲得する今や名監督となった。作品の主人公は、アレン自身も演じているが、いやにプライドは高いが、小心者で猜疑心が強く、一見人生に懐疑的な思考を持っているが、かといって死ぬ勇気は持っていない、年老いてもロマンを夢見る永遠の少年だ。これは、まさにアレン自身と言えよう。また、彼は権威主義が大嫌いで、ハリウッドの大仰な仕掛けが肌に合わない。こう書いていくと、何か「男はつらいよ」の寅さんと共通するものがある。山田洋二監督が描く寅さんも小心者で猜疑心が強く、権威主義が大嫌い、美女にすぐ惚れるロマンチストだ。ただ、アレンが描く主人公と寅さんが大きく異なるのはアレンが描く主人公はインテリだ。だから、観客は彼の言葉に辟易することがある。そういう高慢さのあるインテリをアレン自身は自嘲気味に皮肉っている。作品は、いつも饒舌でアイロニーに満ちた会話に満ちていて、ともすればストーリーがお座なりとなるが、最後は人生の哀切と喜びを密かに奏でているのである。人生は複雑で苦渋に満ちているがそれでも人は愛おしく生きる価値があることを・・・・。

立ち位置

 オイラがなぜアレンが好きかというと、彼が描く主人公の立ち位置がいつも弱者の立ち位置であるからだ。それは、ユダヤ人の家庭に生まれ、小柄で根暗のコンプレックスの塊だった少年時代に由来していると思われる。常に正義をかざし、勝者である者には、弱者の痛みはわからないだろう。彼はアメリカ人なのにアメリカらしくない。どちらかというとフランス人ぽい。現にパリを舞台にした作品も多い。オイラもコンプレックスの塊だ。オイラ、アレンと似ているところがある。〇ゲ〇ビ!だから、好きなのかな・・・。

文=ダボハゼのペペ


■ Profile ■
ダボハゼのペペ(だぼはぜのぺぺ)
東京都江戸川区の小岩生まれ。年齢不詳。クラウン、日本シャンソン協会正会員、元・笑い療法士など、七つの顔をもつヴォーカル・パフォーマーとして、福祉施設や老人ホームなどでボランティア活動を行う。シャンソン歌手としてライブにも出演。2010年より「カーボンオフセット・コンサート・アソシエーション」を立ち上げ、地球温暖化防止推進団体へ寄付するためのコンサートを主催する。
公式Facebookページ

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