いま注目のあの人

いま注目のあの人 第23回シニアと笑いをつなぐ落語家 三遊亭 圓福さん

いま輝いている素敵な人から幸せのヒントを頂く、このコーナー。今回は、福島県会津地方出身の落語家として史上初めて真打昇進を果たした三遊亭圓福(さんゆうてい・えんぷく)師匠を訪ねました。第一線の落語家でありながら、ボランティア活動や老人福祉センターの講師としても活動されている圓福師匠。初心者に最適な「落語の楽しみ方」を教えてもらいました。

 

はじめて落語を見て、これならイケるんじゃないかと。

インタビューは両国にある寄席「お江戸両国亭」で行われた/撮影:大屋覚

■落語家になろうと思ったきっかけは?

大学生の頃に寄席に行き始めたんです。でも落研(落語研究会)に入ってるわけでもなかったですし。その頃は、落語家なんて目指してませんでした。でも寄席を見にいっている間に「これはなんかオレにもできそうだな」と。

古典落語は、上手いのか下手なのかが分からなかったので、明らかに「オリジナルの噺(はなし)をしているな」という新作落語を目当てに通ってました。

で、難しそうな師匠もいるけどイージーな師匠もいるなあ、と。このレベルだったら、おれも(落語家)いけるんじゃないかと。その後、新作落語をやっている噺家をチェックして。するとだんだん、楽しく見られるようになって落語にハマっていきましたね。

■弟子入り時代は大変でしたか?

最初は、春風亭柳昇師匠のところに入門しました。新作落語で有名な師匠なんですけど、あの人の噺は三カ月で超えられるな、という気がして(笑)。

逆に難しかったんですけどね。ああいう、下手ウマみたいなね。それに噺がウケることもそうですけど、柳昇師匠のような天性のタレント性というか、ファンに愛されることが難しい。

1997年に、5代目の三遊亭圓楽門下に移籍しました。圓楽は切れやすい人でしたので、怒られるのが当たり前。慣れるのが大変でしたが、途中から慣れました。

怒られる理由があまりないんですよ。怒りたいから、怒るみたいな。そうかと思うと、急に芸論や人生論をとうとうと語りだす不思議な人でした。

■第一線で活躍している原動力は?

仕事になっちゃったので、やらざるを得ないところはあるんですが。寄席の当日になるとウケたい気持ちになる。スイッチが入るんです。そういう感じですね、日々。

以前はテレビタレントになって、アイドル番組でMCをしたかったんですよ。アイドルをいじるのが目標だったけど、その季節は過ぎ去ったかなあ。

落語家の旬は人によって違うんですよ。若くして活躍しても年齢を重ねて衰えたかな、という人もいる。逆に、衰えた方が、味になる人もいらっしゃる。

寄席では独特の間合いと、毒舌をまじえながら笑いに誘う/撮影:大屋覚

最近の師匠たちは高齢になっても若い。若干、徘徊気味になっちゃっている方もいるけど、まあみなさん元気。大ベテランも若いから負けてられないな、というのもありますね。

落語会の最高齢である桂米丸(かつら・よねまる)師匠は、90歳を超えても新作落語を作っていて高座で自分の作った内容を間違えたら、お客さんに「次回までには整えてきます」と言う。覚えるだけでも大変なのに精進を重ねている。


■高齢社会になると落語会も変わってくる?

100歳の師匠が多くなると、どうなるのかなあ。老人ホームの慰問で高齢者をテーマにした噺が増えるのかもしれませんね。でも、見ているお客さんの方が若いという。

最近は高齢者向けの『健康落語』を頼まれることも多いのですが、少しは勿論本当のところも有るのですが、真面目に聴いてると駄洒落のオチだったり。

お客さんもそもそも真面目に聴く気はねぇよ!みたいな。その笑い自体が健康効果みたいな仕事も良くあります。

こういった講座の場合、まず、専門の大学の先生なりの講座があって、そのあとに落語のアトラクションというかたちがベストかも知れませんね。

と、いうことで、お仕事よろしくお願いしま~す (誰に言ってるんだ?)

■師匠ご自身で、健康に気を遣われていることは?

ビフィズス菌を飲むようにしてます。腸内フローラってヤツですか。なんか最近、胃液が逆流しているような感じでヤバいんです。

与太郎のように生きれば、悩みはないかも

■落語から学ぶ、人生を楽しむヒントは?

落語には「与太郎」という、大人なのに働きもせず、ふわふわしている奴が登場するんですが、そんな生き方ができるなら悩みはないかもしれませんね。

与太郎は老人ではないんですよね、でも大人で変なやつ。貯金もなければ保険にも入ってない。それでも明るく生きている。

現代社会では難しいかなあ。最近は落語家でも、きっちりと保険に入っているのが増えてるし。うちの師匠なんか「年金のようなモン払っている奴は、ろくな芸人になれネェ」が口癖でした。

年金なんかに頼ってちゃダメだ。退路をたって芸をやれ、みたいな教えでした。今考えると随分乱暴な話ですが(笑)。

■落語の世界で「老い」をテーマにした噺はありますか?

落語には、間抜けな失敗をしでかす人物はよく登場します。

例えば「寝床」という演目では、迷惑な年寄りの大旦那がでてきます。昔は長生きする人も少なかったんで、高齢者の認知症とかボケとかは少ないかもしれないですね。

むしろ、やっている落語家が認知症じゃねえかってのは、いますけど。

定年後に落語にハマって寄席に初めて来る方も多い/撮影:大屋覚

■笑いには、健康効果があるといいますよね?

落語は芝居と違って配役を一人でやっているので、結構見ている人は頭を使うんですよ。いまは誰の役やってるんだろう、とか。集中力が必要なんです。

そういう意味では認知症の予防にもなりやすいと思うんですけどね。

シニアの男性とかに寄席はおすすめですよ。友達がいなくて一人で来ても不自然じゃないし、気安い場所です。

帰りには同世代の客に声をかけて飲みにいってもいい。そして「あの落語家ヘタだったな」とか悪口を言って盛り上がると、ストレス発散にもなりますし。

落語初心者は、腕組みをして見ればいいんです

相撲の街の地域密着型演劇場で圓楽一門会の寄席が見られる/撮影:大屋覚

■寄席は敷居が高いイメージもありますが。

寄席は気安い場所ですよ。落語の豆知識とか必要ありません。シニア世代の中には「歳を取って落語初体験は恥ずかしい」とおっしゃる方もいますけど、気にすることはない。

寄席にきたら堂々と腕を組んで見ていればいいんです。すると周りの客は、「この人、相当通ってるな。ツウだな」とビビる。

落語初心者で恥ずかしいと思ったら、ぜひ腕を組んで高座を見てください。

とはいえ私も寄席に初めて行った時は、もぎりの婆ちゃんが怖くて直ぐには入れなかったんです。新宿の末廣亭だったんですけど、その前を行ったり来たり……。

たまたまカップルがいたので後ろを付いて行って勢いで入っちゃった。


■最近は客席が数十程度のミニ寄席も増えていますね?

ミニ寄席は気合を入れて行くのではなくて「普段使い」で足を運べる雰囲気があります。伝統的な演芸場と比べるとアットホームだし、パイプ椅子だし。

そういう意味では敷居が低いから、落語を知らない人もポンと行きやすい場所かもしれませんね。寄席は映画館や博物館とかに入るのと同じで、手続き的には変わらないんです。

客席が数十程度のミニ寄席が続々と誕生している/撮影:大屋覚

■本格的に落語を習いたい人にアドバイスは?

落語を趣味にしている人もいますよね。落語を仕事にしないと思えばラクですよ。技術とかは特にいらない気がしますし。

落語教室に行くのもイイですけど寄席に来て、気に入った芸人に声をかけて「習いたい」と言えば教えてくれると思いますよ。

■そうなんですか?

まあ教わるときは酒の一杯も呑ませれば、教えてくれます。そしてゆくゆくはご自身で「独演会」をひらいて他人に聴かせたくなるでしょう (正に寝床!) 

そのときは、教わった落語家をゲストとして呼ぶことをお忘れなく。

笑う門には福来る!寄席は人気落語家との交流の場/撮影:大屋覚

 

落語を「10倍楽しむ」3つのポイント

落語の扇子、羽織、マクラに芸人のこだわりがある/撮影:大屋覚

圓福師匠によると、初心者が寄席に行ったときには、落語家の「扇子の置き方」「羽織の脱ぎ方」「マクラ」と呼ばれる導入部分に注目すると、より落語の世界を楽しめるそうです。

扇子の置き方

高座に上がったとき、扇子の置き方は人によって違うんです。はじめは前に置きまして、横に置いたり、立てかけたり、座布団の中に半分だけ刺す人もいる。

私も最初は座布団に立てかけてたけど安定感ないから、今は刺しています。扇子の置き方は性格が出るから、チェックしてみると面白いですよ。

落語の楽しみは座布団からはじまっている/写真:無料写真素材AC

羽織の脱ぎ方

落語家は羽織を着て出てくるのですが、噺をはじめて少したつと脱ぎます。これは、ここから本題に入るよ、という合図でもあるんです。

この時に羽織をあえて雑に脱ぐ人や、袖口を両手で引いて肩の関節を外すようにスルリと脱ぐタイプもいます。羽織の脱ぎ方には、かなり落語家のこだわりを見るコトができるんです。

流れるような自然な動きで、観客の心を一気にひきつける達人もいますしね。なかには羽織ハンガーのようにきっちりと脱ぐタイプもいて、そういうヤツは大体、神経質だったりしてね。

まくらコトバ

まくらコトバはやらない人もいる。笑いはとらねえ、みたいな。こいつ格好つけてんな。おお、恰好いいね、とか思っちゃう。

まくらは言わない方がいいときもある。逆にお客を冷ましちゃうみたいなね。

まくらコトバを考えるのは、まあ、そう大変でもないですよ。ノリで言っちゃったりね。で、あとで後悔することあります。時間ものびちゃって、お客も疲れちゃってんなーとか。

新作落語派の圓福師匠、ギターで路上ライブも計画中/撮影:大屋覚

今回のインタビューでは、独特の感性で社会を斬る、三遊亭圓福師匠から「落語を楽しむポイント」を聴きました。シニアライフで落語を楽しみたい方、新しい趣味を見つけたい方は、ぜひ寄席に足をお運びください。きっとワクワクするような発見があるはずです。

文・写真=大屋覚


■ Profile ■
三遊亭 圓福(さんゆうてい・えんぷく)

1967年(昭和42年3月8日 )福島県磐梯町出身の落語家。円楽一門会所属。本名は大塚信。会津出身の落語家としては史上初めての真打(福島県内で二人目)。お江戸両国亭を拠点に活躍している。

大屋 覚(放送作家・ライター)

テレビや書籍、Webマガジンを中心に活動中。医療・福祉・介護分野を中心に取材や執筆を行う。NHK、民放キー局の情報番組やスポーツ番組なども手がける。早稲田大学・同大学院修了。静岡生。

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