健康な体づくり
間違えてはいけない「不眠症」対策
~高齢者が知っておくべき5つのこと
高齢になると健康な人でも睡眠が浅くなり朝が早くなります。これは体内時計の加齢変化によるもので、血圧・体温・ホルモン分泌など睡眠を支える多くの生体リズムが前倒しになるためです。しかし不眠症になると「寝つきが良くない」「眠りが続かない」「熟睡感がない」といった症状が続いて体調不良が起きます。この記事では不眠症のタイプ、原因、対処法など知っておくべき4つのことを解説します。
①症状から見る不眠症の種類
不眠症は主に「入眠障害」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠障害」の4つの種類に分類されます。加齢とともに不眠に悩む方は増加傾向にあります。60歳以上では3人にひとりが不眠の症状があるといわれています。
下記の不眠症の4つのタイプを見て当てはまらないかチェックしてみましょう。
Q 寝床についても30分から1時間以上は眠りにつけない
→ 入眠障害の疑い
Q いったん眠りについても、翌朝起きるまで夜中に何度も目が覚める
→ 中途覚醒の疑い
Q 起床時間の2時間以上前に目が覚めて、その後眠れない
→ 早朝覚醒の疑い
Q なんだか眠りが浅く、睡眠時間は十分なのに熟睡した感じがない
→ 熟眠障害疑い
■入眠障害の特徴
ベッドや布団に入ってもなかなか寝つけないのが特徴です。眠るのに30分から1時間以上はかかってしまい、それを苦痛と感じます。不眠症の訴えで最も多いタイプです。不安や緊張が強い時に起こりやすいとされています。
■中途覚醒の特徴
睡眠中に何度も目覚めて、その後なかなか寝つけないのが特徴です。高齢になると眠りが浅くなるため、中途覚醒が出やすくなります。尿意やちょっとした物音でも目が覚めるなど中高年・高齢者に多く見られます。
■早朝覚醒の特徴
起きる時刻よりも2時間以上、早く目が覚めてしまうのが特徴です。高齢になると体内時計のリズムが前倒しになるので早寝早起きになる傾向があります。
年による早起きかと思っていたら、実はうつ病だったというケースもありますので気をつけましょう。
■熟眠障害の特徴
十分に睡眠時間をとっているのに寝た感じがしない。眠りが浅く、満足感が得られないのが特徴です。
熟眠障害の場合は、睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害などの病気が関係していることもあります。本人は気づきにくいので、周囲の注意が必要です。
②不眠症の原因はひとつではない?
不眠症の主な原因には環境、身体・心理的な要因の他、薬や病気が影響している場合もあります。最近ぐっすりと眠れないと感じている方は、下記の要因に思い当たることがないか確認してみましょう。
✅生活リズム、環境による不眠
仕事の交替制勤務、出張や時差などによる生活リズムの乱れも不眠につながります。引っ越しや工事による騒音や光などの環境の変化も影響します。
熱帯夜など寝室の温度や湿度が不適切で、不眠が生じることもあります。
✅心に関連した不眠
親しい人の死や経済的な心配や不安などで不眠に陥るケースも。心のストレスや緊張は本人が思っている以上に安眠を妨げる要因となります。
神経質でマジメな人はストレスを感じやすく不眠症になりやすいといわれています。「ダメだ今夜も眠れないかも」という心配によって慢性的な不眠症になることもあります。
✅クスリや飲み物による不眠
治療のために飲んでいる薬によって不眠になることもあります。アレルギーの薬や降圧剤、抗がん剤など不眠につながる薬は色々とありますので眠れない日が続く場合は、かかりつけ医に相談しましょう。
就寝前にコーヒーや紅茶を飲む方がいらっしゃいます。含まれるカフェインには覚醒作用・利尿作用がありますので分量には気をつけましょう。
✅病気に関連した不眠
高血圧や心臓病、呼吸器疾患、糖尿病など様々な病気でも不眠は生じます。それらの症状である痛み、かゆみ、咳、下痢などに伴っても起こります。
精神疾患であればうつ病・不安障害・統合失調症で不眠の症状が現れることがあります。例えば「早朝覚醒が続く。朝は無気力だが夕方にかけて元気になる」という症状(日内変動)が見られる場合は、早めに専門医に相談しましょう。
③不眠症の診断基準はない?
不眠症を断ち切るには原因を見つけて、取り除くことです。
病院では、本人が「睡眠で悩んでいる」「適切な睡眠環境でも眠れない」「普段の生活に支障がでている」場合に、不眠症と診断されることが多いようです。
不眠症と診断される前に、日常的に行える「不眠対策」について紹介します。
④間違ってはいけない不眠対策
起床や就寝時間は自由でいい?
間違いです。睡眠時間を調整しているのは体内時計です。夜更かしが増えたり不定期な昼寝は体内時計を乱してしまいます。
就寝・起床時間を一定にする習慣を身につけましょう。
睡眠時間にはこだわらなくていい?
本当です。睡眠時間が短いと不眠症と考えそうですが、全日本民医連の松浦健伸医師によると「睡眠時間の短さは診断上、必須ではない」とのことです。
季節や年齢でも睡眠時間は変わりますし、睡眠も6時間ですっきりする人もいれば9時間以上寝ないとダメな人もいます。
大切なのは「○○時間は眠りたい」と目標を立てないこと。日中に眠気があるときは午前3時前までに30分以内の昼寝をとると効果的です。
不眠症には「寝酒」が効果あり?
間違いです。「寝酒」は寝つきが良くなりそうなイメージがありますが、実は効果は短い時間しか続きません。
むしろ安眠のコツは睡眠前にリラックスタイムを設けて心身の緊張をほぐすこと。例えば静かな音楽や読書、ぬるめのお湯に半身浴で入るのも副交感神経を優位にさせてくれて効果的です。
寝るときの室温は20℃前後で湿度は40~70%に保つのが良いといわれています。
太陽光は脳を刺激するので浴びないようにする?
間違いです。太陽光は体内時計を調整する働きがあります。
太陽光を浴びてから14時間目以降に眠気が生じてくるそうなので午前中に散歩をするのも良いかもしれません。
運度は激しすぎると刺激になって寝つきを悪くするため逆効果です。負担にならない程度の有酸素運動を長時間継続するようにしましょう。
⑤不眠症は病院に行かなくてもいい?
不眠が気になってすぐに医療機関を受診する人は少ないかもしれません。しかし症状を甘く見て悪化させる可能性もあります。
不眠が続く場合は、専門医に相談しましょう。
■受診する診療科
不眠症は精神科や心療内科で扱います。
精神科へ行くのはハードルが高いという方は、まずはかかりつけ医に話を聞いてもらうといいでしょう。病院で状況を相談するだけでも心配や不安は和らぎます。
■睡眠薬で注意するポイント
最近は市販の睡眠薬も売られています。これはアレルギー薬(眠気)を利用したもので、あくまでも短期間の使用に限られています。
長期に渡って漫然と使い続けると、依存症になったり、睡眠薬無しでは眠れなくなるなど、長期の服用は良くないといわれています。
気になる方は、病院を受診して医師の指示を仰ぎましょう。
気になる人は専門医に早めに相談を
以上、不眠症の種類や原因などについて説明しました。
眠れない日が続くと、その不安や心配でさらに悩み、心身に悪影響を与えてしまうことがあります。また、いつかは眠れるはずと高を括り無理をしたために症状を悪化させるケースも少なくありません。
慢性的な不眠で日常生活に支障をきたすなど困った症状があれば、早めに医療機関で相談しましょう。
文=大屋 覚
≪参考ウェブサイト≫
■ Profile ■
大屋 覚(放送作家・ライター)
テレビや書籍、Webマガジンを中心に活動中。医療・福祉・介護分野を中心に取材や執筆を行う。NHK、民放キー局の情報やスポーツ番組なども手がける。早稲田大学・同大学院修了(博士後期課程退学)。日本認知・行動療法学会会員。