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《シニア・シネマ・リコメンドVol.12》 『けものがいる』
爺ちゃん婆ちゃん.comが厳選した新作映画をご紹介するシリーズ《シニア・シネマ・リコメンド 》。今回は第80回ヴェネチア国際映画祭の公式批評スコアで一位を獲得した映画『けものがいる』をご紹介します。

本作は、イギリス人作家ヘンリー・ジェームズの小説『密林の獣』をフランス人監督のベルトラン・ボネロが映画化。主人公・ガブリエルをレア・セドゥ(『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』)、その相手役ルイをジョージ・マッケイ(『1917 命をかけた伝令』)が務める。
2044年、人間が重要な職業に就くには、感情を消去しなければならない世界。仕事のために感情を消去することにしたガブリエルは、AIの指示に従う。感情を消去するには前世のトラウマを解消する必要があるのだという。そのためガブリエルは精神を1910年、2014年へとさかのぼらせる。
ガブリエルとルイ、各時代ごとの二人の男女の出逢いが描かれる。しかし、この映画が面白いのは単なる恋愛映画ではないという点だ。鑑賞後に感じたのはむしろ「クラシック・ホラー」の趣きだ。
映像で言うと、1910年の場面では35ミリフィルムで撮影されていたりと、各時代ごとの違いを画として楽しませてくれる。2044年の街並みの映像では、もの悲しさ、退廃感を感じられるが、それと同時にフランスの街並みの美しさが際立つ。他の時代の映像では感じられないミニマリズム的なキレイさが、AIによって導き出された「正しい世界」を具現化しているようにも見える。時代が切り替わっても観客が混乱しないような画作りと、ストーリー的な解釈を持たせているのは非常に好感が持てる。
先ほど「クラシック・ホラー」と書いたが、何もこの映画が古臭いと言いたいわけではない。逆にそれが新鮮に感じたのだ。
主人公ガブリエルは、各時代で様々な恐怖に苦悩する。近年、女性が主人公のホラー・サスペンス系映画では、しばしば女性が強く描かれる(例えば、『サプライズ』、『ハッピー・デス・デイ』、『透明人間(2020)』など)。時代の流れもあるだろう。ストーリーの展開的にも、弱者(と思われていた者)がやり返すようなお話は胸がおどる。かつて筋肉ヤロウが映画界を席巻していた時代から、今は女性が映画界を席巻し強さを誇る時代になった。ただそれが当たり前になってしまった。飽和状態と言ってもいい
本作最大のポイントは、レア・セドゥがちゃんと怖がる所だ。「キャー!」と思い切り叫び怖がるだ。このクラシックな叫び声が今の時代、ものすごく新鮮に映る。そして、レア・セドゥが放つ「キャー!」には、気持ち良ささえ感じる。彼女は様々な場面で「キャー!」と叫び恐怖を演出する。1か所笑ってしまう「キャー!」もあって見逃せない。
現代において「キャー!」に大きな価値を見出す監督のセンスには脱帽。そして、社会的な立場・役割とは何かを考えさせられる。今観るべき価値のある作品。
解説:イシヅカポケット
note:https://note.com/nice_koala354

映画内のシーンより©Carole Bethuel
Introduction
ヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』を始め、世界中から選りすぐりの話題作が集結した第80 回ヴェネチア国際映画祭の公式批評スコアで一位を獲得し絶賛された話題作がついに4 月公開となる。本作は『SAINT LAURENT サンロー
ラン』、『メゾン ある娼館の記憶』などでカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された実績を持ち、現代のフランス映画界で最も独創性豊かなフィルムメーカーのひとりである鬼才ベルトラン・ボネロ監督が、イギリスの文豪ヘンリー・ジェームズの傑作中編小説「密林の獣」を自由かつ大胆に翻案。近未来をクールに映像化した2044 年、35 ミリフィルムで撮影された1910 年、実際の事件にインスパイアされた2014 年と、3つのコンセプトの世界観を驚くべき手腕で緻密に構築し、100 年以上の時を超えて転生を繰り返す男女の数奇な運命を、スリルとロマンで描いている。

STORY
その選択は、愛か、恐れか——人間が<感情の消去>をした世界で、何が起きるのか
2044年、AI中心の社会で人間の感情は不必要とされ、有意義な仕事を得るには<感情の消去>をしなければならなかった。
孤独な女性ガブリエル(レア・セドゥ)は<感情の消去>に疑問を抱きながらも、仕事に就くために浄化を決意する。
そして、トラウマとなった前世—1910年、2014年へ遡り、それぞれの時代で青年ルイ(ジョージ・マッケイ)と出会い
惹かれていくが、「何かが起きる」という強い恐れに苛まれる…。
■作品情報
『けものがいる』
公式サイト: kemonogairu.com
監督・脚本・音楽:ベルトラン・ボネロ『SAINT LAURENT/サンローラン』 ヘンリー・ジェイムズ「密林の獣」を自由に翻案
共同プロデューサー:グザヴィエ・ドラン
出演:レア・セドゥ、ジョージ・マッケイ、ガスラジー・マランダ』、グザヴィエ・ドラン(声)
原題:La bête
配給:セテラ・インターナショナル
― 4/25(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開 ―