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《シニア・シネマ・リコメンドVol.14》 『マリリン・モンロー 私の愛しかた』

爺ちゃん婆ちゃん.comが厳選した新作映画をご紹介するシリーズ《シニア・シネマ・リコメンド 》。今回はマリリン・モンロー生誕99年、セクシーアイコンとして世界中に愛された女性、マリリン・モンローのドキュメンタリー映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』を紹介します。

 

映画内シーンより©2023-FRENCH CONNECTION FILMS

笑顔で美と性を体現した女神!
そのパブリックイメージの陰に秘めた知性と芸術性

 時を超えて愛されるマリリン・モンロー。「セックスシンボル」として広く知られてきた彼女だが、再評価の呼び声も高い。抜群のコメディセンスをもった「女優」として、VOGUEで「20世紀で最も偉大なスタイルアイコンのひとり」と評される「ファッションアイコン」として、現代のインフルエンサーのように自らのイメージを完璧にコントールした「ビジネスウーマン」として・・・セクシーなイメージに隠された素顔は、野心的でユニークだった。
 本作はドラマチックな人生を豊富なフッテージで蘇らせ、スキャンダラスな私生活や謎多き死の真相にも新たな見解で迫ってゆくドキュメンタリー。圧倒的な「男性優位主義」だった時代に、自分自身を愛して、突き進んだマリリン。色褪せることのない才能と魅力、その生き方が脚光を浴びる時代が到来!

映画内シーンより©2023-FRENCH CONNECTION FILMS

セクシーアイコンだけに留まらない、多才で魅惑なモンロー

 本作は、今なおセクシーアイコンとして広く知られている女優マリリン・モンローの人生を追うドキュメンタリー映画。近親者の証言や作家や心理学専門家などの分析を通して彼女の生涯をたどっていく。
 彼女の幼少期の家庭の複雑さには、思わずため息がもれる。自分の両親と良好な関係をきずけている事は当たり前じゃないんだと思い知らされる。
 マリリン・モンローとしてスターダムを駆け上がってからの苦悩や葛藤も出てくるが、これが現代においてもまったく古臭い問題になってない。例えば、マフィアとの付き合いや、誹謗中傷への対処など。今の芸能界のスキャンダルと同じように見れてしまうのだ。現代にたまたまこの問題が刺さったわけではなく、人間の本質って良くも悪くも変わらないのかと思ってしまう。
 もちろん、スキャンダラスな部分にも踏み込む。もはや歴史的映像といえるケネディへの『ハッピーバースデイ』や元恋人の証言なども生々しい。しかし、セルフプロデュースを行いファンの期待に100%応え大スターとなっていく彼女の姿勢からは、したたかさや逞しさを感じる。顔と体がいいだけの女ではないのだ。

 話は少々それるが、私が数年前DVD取扱店で働いていた時の事。ある日、年配のご婦人から声を掛けられた。
「あの、すみません。映画?のDVDっていうのかしら。探してるんですけど。」
「はい、映画のDVDですね。タイトル名はおわかりですか?」
 タイトル名が分かっていれば話が早い。
「お父さんから頼まれたものだから、私は分からないんだけど。お父さん今入院してて、どうしても暇だから買って来いって言われて。」
 なるほど。それにしても最近は、ご年配の方からの商品検索の依頼が増えてきた。そもそも物理メディア自体がある一定の世代より上のものという雰囲気になってきている。私なんかは呼吸のように出来る『検索』という行為が、先輩方からすると当たり前ではないと言うことを実感している。(もちろんスマホを使いこなしている先輩方も多く知っているし、私自身生活に必須なテクノロジーのスピードに置いて行かれないようにしないといけないと思っている。)

 話を戻して、この商品検索の依頼、私は嫌いではない。いやむしろ好きなくらいだ。別にいい子ぶっているわけではない。映画探しゲームと言ったら語弊があるかもしれないが、映画好きとしての使命感のようなものが心に火を点けるのだ。お探しの映画、見つけてやろうじゃないか!と。
 見つけてやろうじゃないか!と言ったが、この時点ですでに私はどの棚にご案内しようか決めている。通常「カミさん(旦那)に頼まれたんだけど」といった場合、商品を間違えないようにメモを持参してくる。今回はそういった指定がなく、頼まれごとなので商品特定のための出演者や監督が誰かといった質問をこのご婦人にしても意味はない。これではほぼ無限の選択肢があるように見えるが、長年店員として培ってきた経験が答えを導き出す。この80歳前後に見えるご婦人の旦那さんなら年齢も同じくらいだと推察する。この世代の男性が好きな映画ジャンルといえば十中八九『西部劇』と決まっているのだ。間違いない。確かワンコインの名画DVDコーナーに『シェーン』も『駅馬車』もあったはずだ。イージー、イージー。
「旦那さん西部劇なんかお好きじゃないですか?あちらのコーナーに」
「そうじゃなくってね、私女だからよくわからないんだけど・・・。ベッドシーンって言うか、映画とかじゃなくって、女の人が出てくるような・・・。」
 そっちか。お父さんが好きなDVDって、そういうことか!
「そういった商品は取り扱ってないんですよ」
「困ったわ。これから病院に行くから、何か持って行かないと・・・。」
 正直、旦那は何を買いに行かせてんだという思いと、お元気で何よりですねという思いが駆け巡る。それはそうと、近所にそういったお店はないし、どうしたものか。するとご婦人が「何か適当に見つくろってくれませんか?」と言い出した。
 ちょっと待ってくれ。こんなもの間接的に性癖を聞かれているようなものだ。「ポルノではないけど、このシーンエロいと思うんですよね」とか言ってる場合ではない。一旦落ち着こう。自分自身のエゴは置いておいて、最大公約数的なお父さんが喜ぶ作品は何だろう。ふと棚を見まわした時、名画DVDコーナーに並ぶマリリン・モンローと目が合った。
 昨今セクシーであることがまるで不浄であるかのように扱われることには疑問を感じる。人間の本質は変わらないのに。消費するものとしてしか見ないからそう思うんであって、セクシーの中には生命力や力強さを見ることだって出来る。そんなことをマリリン・モンロー生誕99周年の年に思う。
 あのお父さんは喜んでくれただろうか。少なくとも病院で看護師さんに叱られることはないはずだ。

解説:イシヅカポケット
note:https://note.com/nice_koala354


作品情報
『マリリン・モンロー 私の愛しかた』
公式サイトhttps://marilynmonroe.ayapro.ne.jp/
監督・脚本・編集:イアン・エアーズ プロデューサー:エリック・エレナ
出演:マリリン・モンロー、トニー・カーティス、ジェリー・ルイス、ジョージ・チャキリス、ジェーン・ラッセル
原題:DREAM GIRL THE MAKING OF MARILYN MONROE
配給:彩プロ
©2023-FRENCH CONNECTION FILMS


― 5月30日(金)より ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー ―

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