趣味や愉しみ
第4回 : ミュージック駄話 「Wasted Time」
レコーディング雑記 vol.4
1950年代生まれは、ロカビリー、ロックンロール、フォーク、ポップスと、音楽市場の黄金期とともに青春を過ごしてきました。そんな「音楽」を愛し続けた60オーバー世代に送る音楽コラム「Wasted Time」。竹内まりや独身期のマネージャーを務め、いまも音楽業界を見守る元ライブハウス店長・中島 睦さんによるミュージック駄話。
「レコーディング雑記 vol.4」
ミュージシャンにとって、楽器や機材は「命」ともいうべき大事な存在。自分ならではの表現を求め、それぞれが試行錯誤しながら、自分の「音」にたどりつきました。それだけに楽器や機材へのこだわりも尋常ではないほど。今回は、当時の音の職人たちのこだわる姿を垣間見てみましょう。
第3回:レコーディング雑記 vol.3
今回はレコーディングの周辺事情や、さまざまな楽器や機材に関するお話です。
当時も今もですが、売れっ子のミュージシャンはビッグネームアーティストのコンサートツアーの仕事も行います。
80年代は今よりもツアー本数が多く、半年で50本以上のコンサート数も普通でした。そんなロングツアーの最中、スタジオミュージシャンとして空き日に東京へとんぼ返りして、リズム録りやダビングレコーディングを行うこともしょっちゅうでした。
レコーディングに呼ばれるとギターやベースの人は自分で弾くギターそのもの(いわゆるサオ)やエフェクター類とアンプを持ち込みますが、ツアー最中だと自分のアンプ類は機材車に乗せっぱなしの事がほとんどです。
移動日などに地方から持ち運ぶには、さすがにアンプまではムリ。なので、ツアー最中に呼ばれた場合は、アンプを都内の機材レンタル屋さんから借りるケースが多くなります。
逆にツアーへ楽器レンタル屋さんのアンプを出すと、相当な費用がかさむので需給バランスでこうなった訳です。レコーディングの方が、機材費レンタルの予算が使えてたのです。
レコーディングでアンプレンタルの場合、プロミュージシャンからの指定で、例えば○○(楽器レンタル屋)のフェンダーツインリヴァーヴ(ギターアンプの機種名)の識別番号の何番、もし空いてなかったら○○(別のレンタル屋)の何番とか細かく指示されます。つまりアンプの個体差やメンテ状態を把握していた訳ですね。
当時、需要に伴い東京の楽器レンタル各社は、程度の良いメンテ済みのアンプを数台ずつ用意していました。これもレコーディング数が多かったから成せる環境ですね。
ドラムやパーカッションの方々は、いわゆる生楽器なので自前の調整済みの楽器を持ち込む事がほとんどでした。もちろん、調子のいい数セットを楽器車に常時用意しています。またツアー用も別途用意しています。
何故それが出来るのかというと、ドラムセットは日本のメーカーが多く、当時各社せめぎ合いで、モニターとして貸出しと言う名の提供が出来たのです。トッププロに使って貰えればメーカー名に箔が着きますからね。
ただパーカッションの方は、楽器メーカーは海外がほとんどなので大変でしたが…。
ギターやベースアンプも当時は同じく海外メーカー製が多かったですし、アンプのモニター提供はほぼありませんでした。
写真はDavid Hungateがレコーディングで使用したベースアンプ/写真提供:中島 睦
キーボーディストは、ある意味一番楽だったかもしれません…。
大抵のスタジオにはちゃんとしたグランドピアノが設置されています。アレンジャーがキーボーディストの場合、鳴りの良いグランドピアノが置いてある○○スタジオの1stでと、スタジオまで決める場合もあります。
同時にフェンダーのローズピアノ(スーツケース)や、ハモンドオルガン+レスリースピーカー(たまにホーナーのクラビネットも)なども使用するケースが多かったのです。これらもレンタルで、楽器屋さんと機種別の個別番号が指定されます。
キーボーディストは体一つでスタジオに向かえばよかった訳です。
ハモンドやローズはスタジオにあるだけで存在感を持ち、その代え難いサウンドが僕は大好きでした。
写真はDavid Fosterの使用したローズピアノ/写真提供:中島 睦
ハモンドB-3などその大きさや音色変更のドローヴァー、レスリーの回転数スイッチを操作する故の独特の体を張った演奏スタイルがあり、キーボードプレイヤーはキース・エマーソンに負けじといつも楽器と格闘していました。演奏に夢中になり、グリッサンド奏法で指から出血する事すらありました。
いまでも小さなライブハウスであろうと、ハモンドオルガンとレスリースピーカーを持ち込んでプレイをするミュージシャンはいる/撮影:弓削ヒズミ
こんな場面はシンセサイザーが台頭し始めても、しばらく続いていましたが、打ち込み物が増えていき徐々に少なくなっていき、寂しい思いを感じたものです。
何種類かの判りやすいキーボード大物楽器を運び、セッティングするレンタル楽器屋は徐々に廃れ、代わりに最新電子楽器・機器の導入競争が始まりました。80年代半ばにはブースでは無く、コントロールルームに無機質なシンセが並ぶ時代へと移行していくのです。
■ Profile ■
中島 睦(なかじま・むつむ)
東京都出身。大学在学中に、音楽制作のアシスタントを始める。
竹内まりや独身期のマネージャーを務め、その後、音楽制作・コーディネイト会社に入社。松任谷由実、久保田利伸始め、数多くのコンサートコーディネイトを担当し、数十枚のCD音源制作ディレクション・プロデュースを手掛ける。またプロミュージシャン・アレンジャーのマネージャーなどを兼任。
2002年ライブバー、渋谷WastedTimeを立ち上げるが、2016年5月惜しまれつつ閉店。
現在はフリーランスで音楽制作プロデュース、ライブハウスのブッキング等を行っている。