趣味や愉しみ
《シニア・シネマ・レポート Vol.02》
インドから届いた感動の終活映画『ガンジスに還る』
いま、シニア世代をテーマにした映画が増えています。そこで、実際にシニア世代の人と一緒に鑑賞し、その作品の感想を語ってもらおうという企画です。同世代にしか語れない、シニア視点のちょっと変わった映画紹介コーナー《シニア・シネマ・レポート》。今回、インド映画『ガンジスに還る』を、70代のユーチューバー・成羽さんと一緒に観てきました。
映画『ガンジスに還る』は、10月27日(土)、岩波ホールほか全国順次公開/(c)Red Carpet Moving Pictures
雄大なガンジス河のほとりで向かい合う親子
インド映画『ガンジスに還る』は、自らの死期を悟った詩人の父が、ある日、突然、ガンジス河のほとりの聖地「バラナシ」へ行くことを家族に告げるところから物語が始まります。家族の反対もよそに決意を曲げない父ダヤ。仕方なく、働き盛りで仕事人間の息子ラジーヴは付き添うことに。
たどり着いたのは、安らかな死を求める人々が暮らす施設「解脱の家」。施設の仲間たちと打ち解けながら、ダヤは残された時間を有意義に過ごそうとします。一方、ラジーヴは父に寄り添いながらも残した仕事が気になり、追い詰められた精神状態に。
ダヤとラジーヴの父子による解脱の家での生活が始まる/(c)Red Carpet Moving Pictures
衝突しあうダヤとラジーヴでしたが、雄大に流れるガンジス河は次第に父子の関係をゆっくりとほぐしていきます。果たして、ダヤは幸福な人生の終焉を迎えられるのか? というのがストーリーです。
旅立つ者、見送る者、それぞれの心の機微を丁寧に捉え、家族の結びつきとは何かを深く考えさせられる本作。誰にでも訪れる「死」というテーマを、ユーモアと人情味溢れるタッチを交えて描き、心温まる作品となっています。
映画『ガンジスに還る』予告編/(c)Red Carpet Moving Pictures
自分の介護体験と重ねながら観ていました
今回、70代のユーチューバー成羽さんと一緒に、一足早く、映画の試写を観せていただき、鑑賞後に作品の感想を語り合いました。
映画『ガンジスに還る』を観終えたユーチューバーの成羽さん/撮影:弓削ヒズミ
●映画を見終えていかがでしたか。
成羽 インド映画というと、歌やダンスが入ったエンターテイメントな作品だと思っていたのですが、これは真逆のような話で、とても不思議な映画でした。死を迎えるための「解脱の家」という存在自体、日本人にはない感覚なので、まず、そこに驚きました。日本で死を迎える場所に行くというと、「楢山節考」のような、姥捨山、口減しを想像してしまいますが、それとも違いました。強いて言えば「出家」に近い感覚なのかもしれませんね。
●ガンジス河、そして聖地「バラナシ」が、インドの人にとって、どんなところなのか、なんとなく理解はしてましたが、それでも文化の違いを感じましたね。
成羽 洗濯や沐浴、さらには遺灰を流しているガンジス河の水を「聖水」として、ダヤさんが飲んでいたのはビックリでした(笑)
映画『ガンジスに還る』/(c)Red Carpet Moving Pictures
●物語では、「死」「家族」というキーワードがありましたが、成羽さんの着目した点はどこですか。
成羽 じつは私は映画を観ながら、末期がんの父を看取った時のことと重ねていました。
映画では、息子のラジーヴさんはお父さんの面倒見るために長期休暇を取りましたが、私の場合、65歳という年齢的なものもありましたが、介護のために退職しました。会社からは介護休暇でもと言ってくださったのですが、会社に気持ちを置いたままでは、気になってしまい、介護に専念できないと思ったからです。ラジーヴさんのスマホにひっきりなしに仕事の電話が入るシーンを観て、やはり、そうなってしまうなと思いました。
映画『ガンジスに還る』/(c)Red Carpet Moving Pictures
うちは最初は自宅介護だったのですが、病状が進んで、父は延命はしないと、本人の意思でホスピスに移ることになりました。治療中はお医者さんからは診察内容についてはっきり教えてもらえなかったのですが、ホスピスでは、だいたい、これぐらいでしょうと教えてくださいました。
ホスピスには毎日通っていました。だけど、だんだん辛い気持ちになってきました。なんだか自分が父の死を待っているような気持ちになったんですね。映画でもラジーヴさんと奥さんが同じような会話をしてましたね。
●送る側としては、死を待ちたいわけではないですが複雑な心境だというのは、とても伝わってきました。
成羽 はい、見通しの立たないジレンマが、よく描かれていたと思います。
映画『ガンジスに還る』/(c)Red Carpet Moving Pictures
●家族、特に父子の描かれ方もよかったですね。
成羽 ダヤさんとラジーヴさんの父子が夜の屋外で会話したシーンが印象的でした。ラジーヴさんの「生まれ変わるなら同じ家族になるか?」という問いに、ダヤさんは「わしはライオンになりたい」と答えたところです。別に人間じゃなくてもいいじゃないかと笑いながら、あそこで父子の気持ちが通じあえたのかなと思いました。それまでギクシャクしていた会話も、やっと親子らしくなりましたね。
●親子の関係が戻ったところで、別れが訪れました。
成羽 たしか「老いたゾウは死ぬ時に群れから離れていく」というセリフでしたか、自分の死を悟って、一人になりたかったのかもしれませんね。でも、ダヤさんは強い人なのだと思いました。
映画『ガンジスに還る』/(c)Red Carpet Moving Pictures
●とにかく、この映画は見終えた後に、ズシンとのしかかるものがありましたね。
成羽 はい、とても深い映画でした。インドの死生観や風習・文化の違いなどカルチャーショックもありましたし、観る人の年齢、世代によっても違った感想になりそうですね。私の場合は、送られる側の気持ちも考えましたし、若い人は息子のラジーヴさんや奥さんに感情移入して観られるのではないでしょうか。この映画はユーチューブで、どうやってお話ししたらいいのか悩みます(笑)
映画『ガンジスに還る』/(c)Red Carpet Moving Pictures
美しいバラナシの風景と、淡々と家族の生活を映し出す本作は、いつの間にか映像の中に引き込まれるようで、いろいろな想いを交錯しながら観ていました。インドの死生観は理解できない部分もありましたが、看取られる側、見送る側、家族の気持ちは万国共通の想い。終活について、考えてみたくなる映画でした。『ガンジスに還る』は、10月27日(土)、岩波ホールほか全国順次公開です。ぜひ、映画館に足を運んでみてください。
文=弓削ヒズミ(編集部)
映画『ガンジスに還る』
監督:シュバシシュ・ブティアニ
出演:アディル・フセイン、ラリット・ベヘル 他
インド/2016年/99分
10月27日(土)、岩波ホールほか全国順次公開
■シニア・シネマ・レポート バックナンバー
《Vol.01》『輝ける人生』/《Vol.02》『ガンジスに還る』/《Vol.03》『十年 Ten Years Japan』/《Vol.04》『葡萄畑に帰ろう』/《Vol.05》『天才作家の妻』/《Vol.06》『バイス』/《Vol.07》『僕たちのラストステージ』
■ Profile ■
成羽(なりわ)
1945年生まれ。2015年にユーチューバーとしての活動を開始。1人でスマホを使って、撮影から動画編集まで行っている。2018年10月時点で、チャンネル登録者約5,000人、視聴回数1,340,000回を数える。趣味は、書道、チョークアート、旅行など多数。書道は師範の免許を取得する腕前だとか。何事にも好奇心旺盛。PERSOL Work-Style AWARD 2019 シニア部門受賞。
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