趣味や愉しみ

《シニア・シネマ・レポート Vol.07》
伝説のお笑いコンビの晩年を描いた映画『僕たちのラストステージ』

いま、シニア世代をテーマにした映画が増えています。そこで、実際にシニア世代の人と一緒に鑑賞し、その作品の感想を語ってもらおうという企画です。同世代にしか語れない、シニア視点のちょっと変わった映画紹介コーナー《シニア・シネマ・レポート》。今回、伝説のお笑いコンビ「ローレル&ハーディ」の晩年を描いた『僕たちのラストステージ(原題:Stan&Ollie)』を、団塊世代のクラウン・ダボハゼのペペさんと一緒に観てきました。

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映画『僕たちのラストステージ』は2019年4月19日(金)より新宿ピカデリー他全国順次公開/© eOne Features (S&O) Limited, British Broadcasting Corporation 2018

「ローレル&ハーディ」の晩年を描いた実話

今回、ご紹介する映画『僕たちのラストステージ』は、サイレントからトーキーの時代にかけて活躍したアメリカのお笑いコンビ「ローレル&ハーディ(極楽コンビ)」の晩年を描いた実話です。1920〜30年代にかけては、チャップリンやキートンらと並ぶ、人気コメディアンとして、数々の長編・短編映画に出演してきました。

ストーリーは、1953年に行われたイギリス巡業(ホールツアー)でのこと。かつて世界中から愛されたスタン・ローレルとオリバー・ハーディも、この時、すでに過去の人として扱われ、小さなホールとガラガラな客席を相手に自分たちのショーを懸命にこなしていきました。

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映画『僕たちのラストステージ』のシーンより/© eOne Features (S&O) Limited, British Broadcasting Corporation 2018

それでも、イギリス中をめぐる過酷なツアーを頑張り続けるうちに、二人はファンを取り戻し、会場には以前のような大きな笑い声が溢れていました。コンビの巡業は順調でしたが、ある日の口論をきっかけに、オリバーはコンビ解消を心に決め、スタンに「引退する」と告げます…。

現在のシニア世代なら、心に刺さるシーンが詰まった「絆」を描いたヒューマンコメディ作品です。ここから先は、ぜひ、劇場でご覧ください。

映画『僕たちのラストステージ』予告編/© eOne Features (S&O) Limited, British Broadcasting Corporation 2018

団塊世代のクラウンから見た映画『僕たちのラストステージ』

今回は、コメディ映画ということで、歌唱やパントマイムで人を楽しませている団塊世代のクラウン・ダボハゼのペペさんと一緒にマスコミ試写会に行ってきました。

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試写会場を出たダボハゼのぺぺさん/撮影:弓削ヒズミ

●映画を観ていかがでしたか。

ぺぺ コミカルな動きで笑わせるという点では、あたしのやっているクラウニング(クラウンが演じるコミカルな所作)と共通するものがありました。映画でも描かれていましたが、2人がすれ違う姿を面白おかしく演じたコントに似たものは、クラウニングでもあります。

あたしが印象に残っているシーンは、ローレルが映画会社に行って、受付で待たされているところです。受付嬢に向かって帽子を上げ下げしたり、いたずらっぽく細かな芸を見せているのに、お嬢さんはクスリともせず、ましてやローレルの名前をローレンと間違ったまま呼んでいる始末。自分を知らない若い女性をなんとか笑わせようとする仕草が彼女に無視され、それが返って滑稽さとペーソスを醸し出していました。

●団塊世代のクラウンとして、映画内のコントや笑いはいかがでしたか。

ぺぺ あたしは、相方を叩いたり、人格を否定したり、貶めたり、過激なことで笑わせる最近の芸があまり好きではありません。ローレル&ハーディの笑いにも、相手へのツッコミもありますが、お互いを敬愛し、尊重しあっていることが伝わってきました。そうした2人のお互いを尊重する心が根底にあってこそ、彼らの演じるコントにお客さんは共感をできるんだろうと思います。

●ペペさんは、どのあたりに一番共感できましたか。

ぺぺ 脚色か史実かわかりませんが、二人とも日常生活でもスーツにネクタイ、ピシっとした身なりで行動していました。あれはコメディアンという職業を馬鹿にされたくない、かつての人気に対するプライドの表れなんじゃないかと思いました。

時代に置いていかれたのかもしれないけど、かつて自分たちが売れてきたプライドを持ち続け、自分たちの芸に誇りを持って挑戦していく姿に、「あ〜、なるほど、わかる!」って思いながら見ていました。

芸人はお客を呼んでナンボのところがあるので、少ないお客さんを前にしている彼らに共感しましたね。あたしの場合、芸を見せることが目的なのか、人を呼ぶことが目的なのかわからなくなることもあります(笑)

●ペペさんは1人ですが、コンビの活動をどう思いましたか。

ぺぺ 長い間、男同士でコンビを続けるのは難しいと思います。男は仕事にプライドを持っているから、衝突することもたくさんあったんじゃないかな。それでも大ゲンカして解散したのに仲を修復できるなんて、なかなかできることじゃありません。

友情を越える信頼があったんでしょうね。そんな相手がいることに、正直、羨ましかったです。歳を重ねていくと、本当に腹の底を割って話せる親友は少ないです。あたしはお酒も飲まないから、トコトンやり合うこともないし、男同士でそんな関係を続けるのは大変だと思います。

人間は成功しても1人ぼっちじゃつまらない。お互いに愛すべき妻がいて、尊敬しあえるコンビ仲間がいる、あの2人は、とても素晴らしい人生を歩まれたんじゃないかな。

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映画『僕たちのラストステージ』のシーンより/© eOne Features (S&O) Limited, British Broadcasting Corporation 2018

●ペペさんも、最後ではなくても、こんなステージをやってみたいという想いはありますか。

ぺぺ 映画の中で彼らが踊るシーンがありますが、とてもコミカルで愛嬌がありました。あのダンスの一部をシャンソンの間奏の中で取り入れたら面白いなと思いました。ただ、あたしがダンスを踊っても、お客さんはあたしがダンスができなくて地団駄踏んでいるんじゃないかと思われるのがオチですけど…。

●最後に同世代に向けて、この映画の見どころは。

ぺぺ コメディ映画というカタチですけど、「男の友情」が描かれた作品です。人生にとって大事なものは何か、お金ではなく、友情や家族、人同士の「絆」だということを再確認させてくれる映画です。

映画『僕たちのラストステージ』/© eOne Features (S&O) Limited, British Broadcasting Corporation 2018

日本では馴染みの薄いローレル&ハーディの2人ですが、喜劇映画の礎を築いた伝説コンビのラストステージに込められた想いに、きっと胸を熱くすることでしょう。映画『僕たちのラストステージ』は、2019年4月19日(金)より新宿ピカデリー他全国順次公開です。ぜひ、映画館に足を運んでみてください。

文=弓削ヒズミ(編集部)2019年3月19日取材


映画『僕たちのラストステージ』

監督:ジョン・S・ベアード
出演:スティーヴ・クーガン、ジョン・C・ライリー、ニナ・アリアンダ、シャーリー・ヘンダーソン、ルーファス・ジョーンズ、ダニー・ヒューストン
配給:HIGH BROW CINEMA
イギリス・カナダ・アメリカ/2018年/98分
2019年4月19日(金) 新宿ピカデリーほか全国順次公開

■シニア・シネマ・レポート バックナンバー
《Vol.01》『輝ける人生』《Vol.02》『ガンジスに還る』《Vol.03》『十年 Ten Years Japan』《Vol.04》『葡萄畑に帰ろう』《Vol.05》『天才作家の妻』《Vol.06》『バイス』《Vol.07》『僕たちのラストステージ』

■Profile■
ダボハゼのペペ
(だぼはぜのぺぺ)
東京都江戸川区の小岩生まれ。年齢不詳。クラウン、日本シャンソン協会正会員、元・笑い療法士など、七つの顔をもつヴォーカル・パフォーマーとして、福祉施設や老人ホームなどでボランティア活動を行う。シャンソン歌手としてライブにも出演。2010年より「カーボンオフセット・コンサート・アソシエーション」を立ち上げ、地球温暖化防止推進団体へ寄付するためのコンサートを主催する。
公式Facebookページ

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