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《シニア・シネマ・レポート Vol.03》十年後の未来を考える映画『十年 Ten Years Japan(『PLAN75』)』
シニア世代をテーマにした映画を実際のシニア世代と一緒に鑑賞し、その作品の感想を語ってもらおうという《シニア・シネマ・レポート》。同世代にしか語れない、シニア視点のちょっと変わった映画紹介コーナーです。今回、10年後の日本をテーマにしたオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の中から、高齢者問題を取り上げた短編映画『PLAN75』を、団塊世代のヴォーカル・パフォーマー・ダボハゼのペペさんと一緒に観てきました。
映画『十年 Ten Years Japan』は、2018年11月3日(土)より、テアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開/© 2018 “Ten Years Japan” Film Partners
もしも日本で75歳以上の高齢者に安楽死を奨励する制度が施行されたら
香港の10年後を舞台に若手新鋭監督たちが近未来を描いたオムニバス映画『十年』(2015)は、世界の映画祭を席巻して社会現象にもなりました。その日本版が現在公開中の映画『十年 Ten Years Japan』です。今回、シニア・シネマ・レポートでは、5編のオムニバスの1つ、早川千絵監督の『PLAN75』に注目しました。
公務員・伊丹は貧しい老人たちを相手に?死のプラン?を勧誘する(映画『十年 Ten Years Japan』)/© 2018 “Ten Years Japan” Film Partners
『PLAN75』は、75歳以上の高齢者に安楽死を奨励する制度『PLAN75』が日本で施行されたという物語。貧しい老人たちを相手に?死のプラン?の勧誘をする公務員・伊丹の心の葛藤が描かれます。
映画『十年 Ten Years Japan』予告編/© 2018 “Ten Years Japan” Film Partners
10年後にありえそうな社会を目の当たりに、各自が考えさせられる
『十年 Ten Years Japan』公開前の10月31日(水)、『PLAN75』の試写および早川千絵監督と談話が行えるイベントが開催されました。参加者は65歳以上限定で、まさに10年後は『PLAN75』の対象ともいえる世代の人たちです。このイベントに、当サイトでコラムを書かれている団塊世代のダボハゼのペペさんと一緒に参加してきました。
65歳以上限定の試写会では、鑑賞後、早川千絵監督と参加者による談話の場が持たれた/撮影:弓削ヒズミ
『PLAN75』を見終えた参加者の皆さんは、深いため息のあと、口々に「ありえる話だ」と、映画の内容を深く受け止めたようです。早川千絵監督が登壇して、それぞれの感想に耳を傾けます。
「現実でも弱者が切り捨てられるようで怖かった」「状況が苦しくなったら、そうした選択肢が用意されていれば利用することも考えられそう」「このシステムがあることで集団心理で追い込まれてしまう人があらわれるかもしれない」「人の生死に他人が関わることはあってはいけない」など、さまざまな感想が述べられ、話は尽きることがありませんでした。
爺ちゃん婆ちゃん.comでコラムを書いてくれているダボハゼのペペさん(右)と、早川千絵監督/撮影:弓削ヒズミ
イベント終了後、ダボハゼのペペさんにも感想を聴きました。
●映画を見終えていかがでしたか。
ペペ 現実でもありそうだと思いました。こういう問題をテーマにした作品というのは評価したいです。映画を見ながら、社会保障費がパンクしてしまうから安楽死のような制度を国が取り入れてしまうのは短絡的で、別の方法もあるのではと、いろいろと考えながら見ていました。
●印象に残ったシーンはありましたか。
ペペ おじいさんがベッドに横たわり首筋にシールのようなものを貼ったシーンです。死を覚悟してたはずなのに、最後になって怖くなったのか手が震え、誰かがそっと手を押さえました。覚悟をしたとしても、「生」というものには執着があるものだと思いますね。
PLAN75を承諾した老人たちが施設に移動する(映画『十年 Ten Years Japan』)/© 2018 “Ten Years Japan” Film Partners
ペペ たとえ安楽死の制度が整ったとしても、人の死に関わった人間には「罪悪感」というものが残ると思います。ボクも倒れたおふくろの延命治療を施すか、施さないかの選択を迫られたことがあります。本人は延命を望んでいなかったので断ったのですが、いまでも、時々、本当に決断が正しかったのか胸が痛みます。死というのは個人的なものであって、それを他者に関わらせること自体は反対です。それはおかしいと思っています。
●早川千絵監督との談話イベントでも同じことをおっしゃっていました。
ペペ 自殺をしてしまっても誰かに迷惑をかけてしまいます。西部邁さんの自殺のように手伝った2人が自殺幇助罪になったケースもありました。でも、痛みに耐えられないような身体で、自らの意思で安楽死を望むというカタチであれば、救われるのかなとも思います。その場合においても他者が悪用できないように慎重にしないといけないでしょうね。
とにかく、考えさせられる映画であり、語り尽くせない映画です。
映画『十年 Ten Years Japan』/© 2018 “Ten Years Japan” Film Partners
今回、『PLAN75』だけをピックアップしましたが、『十年 Ten Years Japan』には、高齢化以外に、AI教育、デジタル社会、原発、徴兵制と、5人の新鋭監督たちの、鋭く未来に切り込んだ作品が詰まっています。ぜひ、映画館に足を運んでみてください。テアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開中です。
文=弓削ヒズミ(編集部)2018年10月31日取材
『PLAN75』監督・脚本:早川千絵 出演:川口覚
『いたずら同盟』監督・脚本:木下雄介 出演:國村隼
『DATA』監督・脚本:津野愛 出演:杉咲花
『その空気は見えない』監督・脚本:藤村明世 出演:池脇千鶴
『美しい国』監督・脚本:石川慶 出演:太賀
エグゼクティブプロデューサー:是枝裕和
日本/2018年/99分
11月3日(土)より、テアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開
■シニア・シネマ・レポート バックナンバー
《Vol.01》『輝ける人生』/《Vol.02》『ガンジスに還る』/《Vol.03》『十年 Ten Years Japan』/《Vol.04》『葡萄畑に帰ろう』/《Vol.05》『天才作家の妻』/《Vol.06》『バイス』/《Vol.07》『僕たちのラストステージ』
■Profile■
ダボハゼのペペ(だぼはぜのぺぺ)
東京都江戸川区の小岩生まれ。年齢不詳。クラウン、日本シャンソン協会正会員、元・笑い療法士など、七つの顔をもつヴォーカル・パフォーマーとして、福祉施設や老人ホームなどでボランティア活動を行う。シャンソン歌手としてライブにも出演。2010年より「カーボンオフセット・コンサート・アソシエーション」を立ち上げ、地球温暖化防止推進団体へ寄付するためのコンサートを主催する。
公式Facebookページ
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