趣味や愉しみ
《シニア・シネマ・レポート Vol.15》
『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』
いま、シニア世代をテーマにした映画が増えています。そこで、実際にシニア世代の人と一緒に鑑賞し、その作品の感想を語ってもらおうという企画です。同世代にしか語れない、シニア視点のちょっと変わった映画紹介コーナー《シニア・シネマ・レポート》。今回は2020年02月28日 (金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他公開予定の映画『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』に団塊世代の読書の方と一緒に試写会へ行って参りました。
家族を捨て、仕事に生きた男が出会った作者不明の「運命の絵」。引退間際、人生すべてをかけた “最後の大勝負’’がはじまる。
年老いた美術商のオラヴィは、なによりも仕事を優先してきた。家族も例外ではなかったが、長年音信不通だった娘に頼まれ、問題児の孫息子・オットーを職業体験のため数日預かることに。そんなとき、オークションハウスである一枚の肖像画に目を奪われる。長年の経験からひと目で価値ある作品だと確信したが、絵には署名がなく、作者不明のまま数日後のオークションに出品されるという。「あと一度だけでいい、幻の名画にかかわりたい」オットーとともに作者を探し始めたオラヴィは、その画風から、近代ロシア美術の巨匠イリヤ・レーピンの作品といえる証拠を掴む。画家の命とも言える署名がないことだけが気がかりだったが、落札へ向け資金繰りに奔走するオラヴィ。そんな折、娘親子が自分の知らないところで大きな苦労をしていたことを知るが…。
その絵はだれが描き、どこから来て、なぜ署名がないのか。「幻の名画」に秘められた真実が明かされるとき、すれ違いだらけだった家族は絆を取り戻すことができるのか?
絵画に魅せられ生涯を捧げた男とその家族がたどり着いた、 “本当に価値のあるもの’’とは一?フィンランドでもっとも成功した監督のひとり、名匠クラウス・ハロ監督最新作!
長編デビュー作でベルリン国際映画祭クリスタル・ベア賞を受賞。その後制作した長編のうち4作がアカデミー賞®外国語映画賞フィンランド代表に選出。出世作『ヤコブヘの手紙』(11)ではフィンランドのアカデミー賞と呼ばれるユッシ賞で4冠に輝き、前作『こころに剣士を』(15)は代表に選ばれただけではなく、ゴールデングローブ賞外国語映画賞にもノミネートされた経歴を持つ、卓越したストーリーテリングの名手であるクラウス・ハロ監督の最新作。本作では前作『こころに剣士を』の脚本家と再タッグを祖み、18年トロント国際映画祭コンテンポラリーワールドシネマ部門に正式出品されると、その後、世界各地の映画祭で上映され喝采万来。引退間際、自身の存在の証明のためにも究極の作品を見出したいと願う老美術商と、長年確執を抱えたままの家族が出会った「幻の名画」をめぐるそれぞれの悲喜や葛藤を、丁寧に、エモーショナルに描き出した。
オットーの商才に脱帽!
絵画について何も知らない孫に、絵画とは何かを教えるべくして美術館へ連れて行き、孫に値段あてクイズをするが中々金額が合わない孫に向かって「絵画は複雑なんだよ」とオラヴィがオットーに言った一言。この映画はまさにこの一言とに集約されていると思った。
問題児の孫とあったので、いったいどんな問題児なんだろうと観ていたら、幼少期の ウォーレン・バフェット※さながら卸販売をして利益を得たり、おじいちゃんのお店でいとも簡単に通常よりも高い価格で売ってしまうなんて、 問題児どころか素晴らしい商才をもった少年ではないか! そんな商才の持ち主オットーだからこそオラヴィの商売にもより興味を持ち、意気投合したのではないか。
初めは職業研修なのだから食事を出せ、とオットーにせがまれ、渋々オットーを食事に連れて行ったオラヴィだったのが、徐々に心を許し、自らの手でコーヒーを振舞うほどオラヴィの中にオットーの存在が大きくなる、と同時に観ているものにとってオラヴィの不器用さが愛らしく思えてくる。。
また昔ながらの経験と勘に頼るオラヴィと、現代の利器を操るオットーがまた名コンビで、新しいものだけでもなく、古いものだけに頼るのでもなく、新旧融合させて成功していく姿は現代を生きる私達の教訓になる。
それにしても、おい、オラヴィ!いくら資金が足りないからといって、そこにまで手をだすか!
最初は商才あるオットーを若きビジネスパートナーとして利用していたのが大切な家族に変わる瞬間をどうか見届けてほしい。
※アメリカ合衆国の投資家、資産家。幼少の頃 祖父からコーラを6本25セントで購入し、それを1本5セントで売ったという話がある。
映画『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』予告編© Mamocita 2018
忘れがちな大事なものを思い出させてくれる
今回は団塊世代の青島さんと一緒に試写会へ行き、試写後に感想を伺いました。
映画をご覧になっていかがでしたか?
青島さん:いや~、意外な展開でした~。
いい意味で裏切られましたよね。
主人公と同じ男性として、また近い年齢の人間として、いかがでしたか?
青島さん:自分の時代はバブルを前に、独立して成功し、一旗あげようと躍起になった人たちが多かった。しかも一度バブルを経験している人はバブルを引きずってるから、まだまだ自分は出来ると思ってるんだよね。だから主人公のオラヴィももう一回一旗あげてやろうって気持ちが強かったんじゃないかな。
ギャンブルと一緒ですね。一度うまく行くと、その快感が病みつきになって止められなくなる。
青島さんも一発当てようとか、何か似たような経験をしたことはありますか?
青島さん: 昔東京で事業をやろうとしていたことがあって、途中まで順調にいっていたんだけど、パートナーが事業とは関係のないところでやらかしちゃって。。。続けることが出来なくなってしまった。
パートナーがやらかしちゃったとき、一人でやろうと思わなかったのはなぜですか?
青島さん: やってやれなくはなかったんだろうけど、パートナーとの関係もあったし、そこから立ち直らせるというのはリスクが大きかったから、それ以上はしなかった。そして何より自分は家族を犠牲にしてまで無理は出来なかったのだと思う。
そこはオラヴィとは違ったわけですね。
監督はこの映画を通して何を伝えたかったと思いますか?
青島さん: 家族を大事にしなさい、ということだと思います。
自分にもしばらく会っていない(おそらくもう会えないかもしれない)家族がいて、オラヴィの孫との関係は共感できるものがあった。もしまた会える機会があればお手本にしたいなと思った。
最後に読者へ向けてメッセージをお願いします。
青島さん: 日本は裕福だけど、家族の絆はかけがえのないもの。短い人生悔やまないように、裕福な人だろうがそうでなかろうが家族との絆を大切にしたい、と思う映画なので、是非多くの人に観て欲しい。
■あらすじ
フィンランドの首都ヘルシンキで長年小さな美術店を営む老美術商オラヴィ・ラウニオ、72歳。毎朝の日課は昔馴染みのベーカリーでブリオッシュを購入すること。顧客リストは手書きで管理、領収書はタイプライターで発行、まるで何十年も時が止まっているかのような古びた店も、オラヴィにとってはかけがえのない居場所だ。しかし、近頃はオンラインギャラリーの勢いにおされ、客足も遠のき資金繰りも悪化。店を畳むことも考え始めた。若いころに絵画の奥深さに魅せられて以来、家族さえ顧みず仕事一筋で生きてきたオラヴィには、もうこの店しか残っていない。それでもまだ絵画への情熱は冷めていなかった。
生涯を美術品に捧げた男がたどり着いた、人生にとって本当に価値あるものとは?
ロシア激動の時代である19世紀に文学のトルストイやドストエフスキー、作曲家のチャイコフスキーなどと並び、近代ロシア美術を牽引した国宝級と称される画家のひとり。「ヴォルガの船曳き」「イワン雷帝とその息子」などの風俗画や肖像画を数多く手掛けた。ロシア写実主義の旗手としても活躍し、リアリズム美術家の集まりである移動展派として活動していたことでも知られる。
■映画情報
公式サイト:https://lastdeal-movie.com/
原題:ONE LAST DEAL
監督:クラウス・ハロ
脚本:アナ・ヘイナマー
出演: ヘイッキ・ノウシアイネン、ピルヨ・ロンカ、アモス・ブロテルス、
ステファン・サウク
製作年:2018
製作国:フィンランド
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
上映時間:95分
2020年02月28日 (金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他公開
■シニア・シネマ・レポート バックナンバー
《Vol.01》『輝ける人生』/《Vol.02》『ガンジスに還る』/《Vol.03》『十年 Ten Years Japan』/《Vol.04》『葡萄畑に帰ろう』/《Vol.05》『天才作家の妻』/《Vol.06》『バイス』/《Vol.07》『僕たちのラストステージ』/《Vol.08》『パリ、嘘つきな恋』/ 《Vol.09》 『家族にサルーテ!イスキア島は大騒動』 /《Vol.10》『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』 /《Vol.11》『英雄は嘘がお好き』 /《Vol.12》『エセルとアーネスト ふたりの物語』』 / 《Vol.13》『新・幸四郎と猿之助が魅せる 若者の孤独と狂気の物語『女殺油地獄』 / 《Vol.14》『METライブビューイング2019-20 プッチーニ《トゥーランドット》』