趣味や愉しみ
《コラム》ダボハゼ見聞記『お帰り! 寅さん!』
山田洋次監督50作目となる『男はつらいよ お帰り 寅さん』を観た。渥美清が亡くなってから24年経つが、今作は、成長した満男とイズミの再会を軸に過去の映像をコラージュした作品となっている。
憧れのマドンナ達
過去の映像の中で、懐かしい面々が出て来て、思わず声を上げたくなる。中でも寅さんが憧れたマドンナ役の女優さんが次から次と一瞬だが出て来て、目を楽しませてくれる。新珠三千代、栗原小巻、若尾文子、池内淳子、吉永小百合、八千草薫、京マチ子・・・・。物故者となった女優もいるが、マドンナとしてオイラが忘れられないのは、太地喜和子と浅丘ルリ子だ。二人共芸者と旅回りの歌手という世人とは違う世界に生きる明るく気っ風のいい女性だ。渡世人である寅さんとは、肌が合うようで、観ている我々も寅さんを応援したくなる。寅さんの性格は、せっかちで慌てものだが、意外と気が小さく優柔不断なところがある。そうした性格とは反対の二人が演じる芸者ぼたんと旅回りの歌手リリーの明るく気っ風のいい性格に寅さんも惚れたのだろう。一面、寅さんは山田洋次監督の反映でもある。山田監督も、この二人の女性に好感、憧憬を持っていたことは想像に難くない。
何故今、寅さん?
今作の詳細、評判については、既に各メデイアで取り上げられているので、ここでは触れないが、何故今、寅さんを復活させたのか?を考えてみたい。
最終作の49作から既に20数年が経過している。時代は21世紀を迎え、日本は何度も大きな災害に見舞われた。少子化とともに超高齢化社会となり、日本の人口は減少し続け、社会保障を支える働き手も先細りだ。IT化、グローバル化も一層進み、SNSの普及とともに、世界中のことが瞬時に手に取るようにわかる、が、何が真実で何がフェイクなのかわからない様相となっている。
家族や組織をみると、家庭では、核家族化が一層進み、親が子供を虐待し、子供が親を殺し、家族団欒という言葉は死語になりつつある。会社では、ITを通じたやり取り、一日中パソコン画面に縛られ、人間関係の希薄化、能力・成果主義が跋扈(ばっこ)している。
こうした社会と寅さんの世界は、両極端にある。「男はつらいよ」の第1作は、1969年に制作されたが、ちょうど日本が高度経済成長期の時期だった。当時も、寅さんは異端の人であり、一般社会制度の枠組みから外れた渡世人だった。しかし、寅さんはそうしたレールから外れた生き方であっても人の世の道から外れることはなかった。昭和、平成、令和と迎え、世の中は複雑化する一方であり、他方日本は未曾有の災害に見舞われ、そうした中で家族という絆をもう一度見つめ直す機会でもあった。寅さんを観ると、なぜかホッとする。それは上昇志向でない生き方、社会のレールから外れた生き方、そうした生き方もありということを教えてくれている。寅さんといえば、困った人がいれば黙っていられない世話好きで、義理と人情に厚い男だ。こうした多様な価値観を持つ人を受け入れる社会こそ健全で住みやすい社会と言えるだろう。社会が高度化複雑化し、世知辛い世の中になればなるほど、寅さんのような生き方に憧れるのかもしれない。
憧れの寅さん
山田洋次監督の多くの作品に一貫して見られるのは、家族の絆の大切さと弱者への暖かい目だ。頭でっかちな数字だけで判断される世の中の仕組み、競争社会の中で勝ち抜き、富める人達、社会制度の枠組みの中にいて自らの権限を行使できる人達など勝ち組・強者に対し、アンチテーゼとして、寅さんのような生き方、家族のあり方を提示している。
寅さんを敬愛するオイラも、寅さんのように生きたいと思う。しかし、現実には、社会制度の枠組みの中で生きているし、揉め事には関わりたくない。
寅さんは、月光仮面やスーパーマンのように強くて正義の味方でもない。恐らくそうした場面に出くわしたら、そっと立ち去るだろう。市井のなかで自分ができることをよくわきまえており、自分ができる範囲で無理せず行動するのだ。
だからこそ、彼を身近に感じ、家族の絆の大切さに気づかされ、旅に出る寅さんに憧れる。旅に出ても「お帰り!寅さん!」と言ってくれる場所があることが大事であることを教えてくれる。
もう一度言おう!お帰り!寅さん!
寅さん、万歳!!
文=ダボハゼのぺぺ
■Profile■
ダボハゼのペペ(だぼはぜのぺぺ)
東京都江戸川区の小岩生まれ。年齢不詳。クラウン、日本シャンソン協会正会員、元・笑い療法士など、七つの顔をもつヴォーカル・パフォーマーとして、福祉施設や老人ホームなどでボランティア活動を行う。シャンソン歌手としてライブにも出演。2010年より「カーボンオフセット・コンサート・アソシエーション」を立ち上げ、地球温暖化防止推進団体へ寄付するためのコンサートを主催する。
公式Facebookページ
■ダボハゼ見聞記 バックナンバー
第1回「ボランティア活動」
第2回「リタイア後」
第3回「同窓会」
第4回「ほらほらあれあれ」
第5回「新年を迎えて」
第6回「団塊の世代」
第7回「前立腺がん顛末記」