趣味や愉しみ
《シニア・シネマ・レポート Vol.13》
新・幸四郎と猿之助が魅せる 若者の孤独と狂気の物語『女殺油地獄』
いま、シニア世代をテーマにした映画が増えています。そこで、実際にシニア世代の人と一緒に鑑賞し、その作品の感想を語ってもらおうという企画です。同世代にしか語れない、シニア視点のちょっと変わった映画紹介コーナー《シニア・シネマ・レポート》。今回は、十代目松本幸四郎襲名記念シネマ歌舞伎『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』の試写会に、団塊世代の藤野さんと一緒に行ってまいりました。
松本幸四郎襲名披露作品が早くもシネマ歌舞伎化!
平成30 年 1 月歌舞伎座からスタートした二代目松本白鸚、十代目松本幸四郎八代目市川染五郎の高麗屋三代襲名披露。今回は平成 30年 7月に大阪松竹座での襲名披露公演「七月大歌舞伎」で上演された『女殺油地獄』が新たな映像作品に生まれ変わり、「十代目松本幸四郎襲名記念シネマ歌舞伎」として満を持して全国の 映画館に登場します。
あの衝撃の事件を未だかつてない鮮烈な映像で描く !
近松門左衛門が複雑な家庭環境により荒んだ生活を送る青年の孤独と狂気を巧みに描いた名作 。 無軌道な青年の姿は、300 年の時を経て今なお色あせることなく、より身近な存在として人々の心に映し出されます。
襲名披露公演の名に相応しい顔ぶれ
主人公で油屋の放蕩息子与兵衛を演じるのは、 松本幸四郎。市川染五郎時代から、 歌舞伎のみならず、現代劇、ドラマや映画と様々なフィールドで活躍してきた幸四郎が襲名後初出演となるシネマ歌舞伎 にも新たな風を吹き込みます 。 また、与兵衛が金の工面を頼む同業の油屋女房お吉を演じるのはステージアラウンド東京にて初の歌舞伎公演となるスーパー歌舞伎「 ヤマトタケル」で主演 ・演出をつとめることでも話題の市川猿之助。 二人は毎年夏に歌舞伎座にて上演されている「東海道中膝栗毛」 の弥次郎兵衛と喜多八 でもお馴染みの名コンビ。 『女殺油地獄』をこの二人で演じるのは今回で 2 度目となります。さらに、 義理の父河内屋徳兵衛には中村歌六、しっかり者の兄太兵衛には中村又五郎、お吉の夫で油屋豊嶋屋の主人七左衛門には中村鴈治郎、 与兵衛の叔父山本森右衛門に市川中車、与兵衛が入れあげる芸者小菊には市川高麗蔵、厳しさの中に親 の愛を感じる母おさわには坂東竹三郎 、と襲名披露公演の名に相応しい顔ぶれが揃いました。未だかつてない鮮烈な映像で描き出す『女殺油地獄の世界を映画館の大スクリーンでお楽しみください。
ついつい「無い花道」を見てしまって・・・
今回は読者の藤野さんと一緒に試写会へ行ってきました。鑑賞後に感想をお聞きしました。
藤野さんは舞台の方の歌舞伎もご覧になっているそうですが、舞台の歌舞伎と比べてシネマ歌舞伎はいかがでしたか?
藤野 客席から舞台を観るよりも迫力があって役者さんの表情もよく見えましたので演技の上手さに感心する限りで・・・。映像もリアルなものだから、ついつい花道が本当にあると思ってない花道を何度も見てしまいましたよ(笑)。音も映画用のスピーカーを使って流れてくるので、迫力が凄かった!
確かにシネマ歌舞伎だと、舞台の客席からは見れない上からや後ろからの角度など、通常の舞台では見れない角度が観れたり、舞台を観る時は自分でどこを観るというのを決めて観ないといけないですが、シネマ歌舞伎では編集をしてくれているので、シーンごとの見どころにフォーカスしてくれているので見せ場がよく分かりますよね。
藤野 そう、客席から遠いところもシネマ歌舞伎だと近くに観れるので、特に与兵衛の油のシーンなんか、ドラマを生で観ているようで、ハラハラドキドキしました。
現代舞台の役者はダメってわけではないですが、伝統芸能を受け継ぎ、長年厳しい稽古をしてきた人たちの演技は違いますよね。
藤野 女役の方も、男だというのを忘れちゃうくらい女らしい人もいて、びっくりしました。
あぁ~、いましたね!こういう女の人いるよなぁって人。
お話の方はいかがでしたか?
藤野 300年前の実話を基にしているそうですが、現代でもありそうなお話ですね。たまにニュースで耳にする凶悪事件の犯人の過去を調べたら複雑な家庭環境と生い立ちを歩んで来たとか。昔でも今と同じようなことがあるんだなぁ・・・と。やはり人は人、ですね。
最後にシネマ歌舞伎の見どころって何ですか?
舞台の歌舞伎もいいのですが、シネマ歌舞伎でしか味わえない迫力や魅力を味わえるので歌舞伎を観た事ある人もそうでない人にもお勧めです。何よりも舞台に行くよりもお財布に優しいので歌舞伎ってどんなものだろう?という方でも気軽に買える価格なのでお勧めですよ!
映画と歌舞伎のいい要素を兼ね備えたシネマ歌舞伎。客席からは決して観ることの出来ない角度や距離感がシネマ歌舞伎では味わえます。十代目松本幸四郎の迫真の演技はつい舞台ということを忘れてしまいそう。与兵衛の周りで起こった事件は現代にも通じるテーマで家族の在り方とは何かを考えさせられます。
■あらすじ
油屋を営む河内屋の次男与兵衛は、放蕩三昧で喧嘩沙汰を起こしてばかり。借金の返済に困り、親からも金を巻き上げようとし、さらに継父・徳兵衛や妹にまで手をあげる始末。見かねた母・おさわが勘当を迫ると自棄を起こして家を飛び出すのだが、借りた金の返済は迫り途方に暮れる。あてもなく彷徨う与兵衛が向かったのは いつも親切で面倒見の良い 同業の油屋 豊嶋屋の女房お吉のもとだった。一方、徳兵衛とおさわも、お吉を訪ね、与兵衛を家に帰るよう諭してくれと涙ながらに頼み、銭を預けて帰って行った。このやりとりを物陰で密かに聞いていた与兵衛は、その親心に涙を流し、銭を受け取るが、借金 の返済 額にはまだ程遠い。もう親に迷惑はかけられないと思った与兵衛は、お吉に不義になって金を貸してほしいと迫るが、断られてしまう。金の無心をあきらめ、それならば油を貸してほしいとお吉に頼む与兵衛 。時を告げる鐘の音が響いたそのとき、心にとりついた一瞬の闇が与兵衛をある行動へと駆り立てる――。
■シネマ歌舞伎とは
歌舞伎の舞台公演を撮影し、映画館でのデジタル上映で楽しんでいただく新しい観劇空間です。俳優の息遣いや衣裳の細やかな刺繍まで見ることができる映像の美しさは生の舞台とはまた異なる、シネマ歌舞伎ならではの魅力です。サウンドも、映画館の最新音響設備での再生を前提に、舞台の臨場感を立体的に再現しています。歌舞伎の持つ本来の面白さ、美しさ、そして心を打つ感動の場面の数々を分かりやすく、身近に感じてもらいたいという願いのもと、 2005 年 1 月に第一弾『野田版 鼠小僧』を公開。当時は珍しいデジタルシネマを使った映画以外のコ ンテンツとして、また『デジタル』と『歌舞伎』という一見相反する要素の組み合わせに大きな反響を呼びました。
シネマ歌舞伎『女殺油地獄』は2019年11月8日(金)より 東劇ほか全国公開 です。是非劇場に足を運んでみてください!
文=編集部
シネマ歌舞伎第 34 弾 『 女殺油地獄 』
原作:近松門左衛門 監修:片岡仁左衛門(舞台公演)
出演:松本幸四郎 市川猿之助 市川中車 市川 高麗蔵 中村歌昇 中村壱太郎 大谷廣太郎
片岡松之助 嵐橘三郎 澤村宗之助 坂東竹三郎 中村鴈治郎 中村又五郎 中村歌六
監督:井上昌典(松竹撮影所)
撮影公演: 2018 (平成 30 )年 7 月 大阪松竹座 公演
製作・配給:松竹
■シニア・シネマ・レポート バックナンバー
《Vol.01》『輝ける人生』/《Vol.02》『ガンジスに還る』/《Vol.03》『十年 Ten Years Japan』/《Vol.04》『葡萄畑に帰ろう』/《Vol.05》『天才作家の妻』/《Vol.06》『バイス』/《Vol.07》『僕たちのラストステージ』/《Vol.08》『パリ、嘘つきな恋』/ 《Vol.09》 『家族にサルーテ!イスキア島は大騒動』 /《Vol.10》『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』 /《Vol.11》『英雄は嘘がお好き』 /《Vol.12》『エセルとアーネスト ふたりの物語』』